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□10.すてきな夜に乾杯
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10.すてきな夜に乾杯
夕飯後にここに来るからな!と言って瓶を置いて去って行ったルフィを、ナミは暖かく見送っていた。
落ち込んでいたはずなのに、もう気分は晴れやかで、幸せな心地がしている。
やっぱり、ルフィは嫌なことを何もかも忘れさせてくれる、特別な人なのだ。
自分だけにニカッと笑顔を向ける男を思い出して、ナミはあったかくなった胸を押さえた。
「ここで飲もう。」
「.....まあ、いいけど。」
三回目の図書室を意外に気に入ったのか、ルフィがベンチに腰を下ろして足をブラブラさせた。
ナミはこっそりワイングラスを2脚持ち出して来ていて、コルクスクリューを取り出すと観客が沸いた。
「なんだそれ!宇宙人みてーな形だな〜!」
「これで開けるのよ。いいの?2人で飲んじゃって。ゾロやサンジくんもワイン好きだけど...」
こんな高級酒を味のわからない人間と飲んで、バチが当たらないかしら、と危惧する。
「いーじゃねーか、たまには。早く開けろって。」
まあ確かに1本のワインを5人や6人で分けるのは量的に無理がある。
しかも、最高峰。
皆んなには内緒で楽しむと言うルフィの考えは正解なのかもしれなかった。
ポン、と開けると、独特の香りが広がり、ナミは思わずコルクを嗅いだ。
「海に落ちたにしては状態がいいわね、さすがドメーヌの仕事ね、瓶もコルクも高級品なんだわ。うわー、いい香り。ピノノワールの畑が見えるようだわ。」
「何言ってんだ。ほら、飲むぞ。」
ワイングラスに4分の一ほど、注いでやる。
ナミがグラスを回すと、ルフィも真似して回した。
「何に乾杯にする?」
くるくるとぶどう酒を回しながら、ナミはルフィを見た。
「んー、そうだな〜、海に?」
「海と最高のぶどう酒に?」
「あ、いや!」
思い出したようにルフィが言った。
「すてきな夜に!」
グラスをチンと鳴らされて、ナミは柄にもなくどきりとした。
ルフィのくせに、ロマンチックなことを。
どこで勉強してきたんだか。
しかも、2つのグラスに揺れるバーガンディー色はロマネコンティなのだ。
はっきり言って、ときめかない方が難しい。
ちょっと顔を赤くしながら、ナミはグラスを傾けた。
顔を近づけて匂いを楽しんで、唇をグラスにつけて、口に含む。
ルフィもじっと見て真似をして、同じようにしていた。
「うわー、芳醇。なんだろ、ちょっと重い?」
「うまい!!!ナミ!美味いな〜!!」
ヘラヘラしながら言うルフィは、ごくごくとワインを一気飲みした。
「あんた、味わかるの?」
ナミがグラスを傾けながら言う。
まずいと言われるよりは良かったが、ごくごく一気に行くのは頂けない。
「んー、わかんねぇ!」
比べるもんないしなーと言うルフィに、まあそうよね、とナミ。
新しく注いでやって、少しずつ飲みなさいと注意する。
「でも、うまいと思う。」
「そっか。うん。良かったわ。」
「お前と飲んでるからかな。」
また、心臓がどきりと跳ねた。
笑顔で言うルフィをじっと見てしまって、グラスに口をつけたところのルフィと目が合ってしまった。
じっと、見て来る。
何を考えているのかわからない瞳で。
私をどう思っているのかわからない瞳で。
「う、ん....おいしい、ね....」
黙っている方に限界を感じて、何とか声を絞り出す。
「なー!もっと飲んでいいか?」
どうぞ....とナミはルフィに注いだ。
顔が、赤いかもしれない。
心臓が、聞こえてるかもしれない。
それほど、顔が熱くて心臓がうるさい。
ルフィは喉を鳴らして、ワインを飲んでいる。
ナミも、思わず進んでしまう。
自分を捕まえそうな何かを振り払うように。
もう瓶はほとんど空になってしまった。
ナミには寝酒にもならない量だが、半分飲んだルフィは相当顔が赤い。
目が据わっているが、楽しそうにしているので心配は要らなさそうだが。
「ルフィ、水持って来ようか?」
「うーん、いらねェ」
「でも、顔赤いわよ?酔ってるんじゃない?」
ルフィの顔を覗き込んで言った。
「んー、でもいい。お前に側にいて欲しい。」
ナミは赤くなって手を引っ込め、バッと後ずさった。
すると突然、ルフィにがしっと腕を掴まれた。
「行くなよ....どこにも。」
伏せた目は切なそうに下を見ている。
「ナミ、好きだ。」
触れられた腕が、熱かった。
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