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□11.船長の憂鬱
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11.船長の憂鬱









「好きだ、ナミ。」

腕を掴んで、見上げて来る男がいた。

「そんな.....冗談でしょ...?だって、あんたそんな....そーいう....」

「お前、かわいい。おれいつも、見てた。でも、お前は海のものって感じがしてた。お前、海に、風に好かれてる、から、おれなんか、出るまくないって、思ってた。」

酔っているのかいつもよりたどたどしく言葉を切って、ルフィは言った。

あんたは....そこに、張り合うのか。
この男、器が違う。
それで多分、嘘は言っていない。

ナミは胸がじんわり暖かくなって行くのを感じていた。

酔っているから、こんなこと言うんだろうけど。
でも、ルフィの自分を見る目は、海や、風の中にある自分を、ちゃんと見ていてくれたんだ。
私が生きていくと決めた場所を。

嬉しい。でも、戸惑ってしまう。
あまりにも突然で。

「うん...ありがと、ルフィ」

「ん....」

ルフィが自然に腰に巻きついて、抱きついてきた。
その行動が本当に自然なので、ナミはよしよしと頭を撫でる。


「あと、お前、おれを男だと思ってないだろ。」

少し低くなった声にドキリとして、ナミは頭を撫でた手を止めた。

そんなことは....と言おうとすると、腕を掴まれてぐいと下に引き下げられた。
座るルフィの前に膝をつく形になる。

「おれは、お前が欲しい。おれは海より強くねぇけど、もし海より強くなれたら、言おうと思ってた。でも、もう無理だ。ナミといて、もうがまんできる自信がねぇ。今おれから逃げてくれねぇと、おれきっと....お前を...」

ナミは困った顔でルフィを見上げていた。
ルフィは今まで見た事がないような辛そうな表情で、ナミの腕をしっかり掴んで見つめていた。

いや、でもこれじゃ、逃げようと思っても逃げられないんですけど...!

「ちょ、やめて、ルフィ...」

ナミは痛みを堪えているようなルフィを見た。
こんな顔で見られるのは初めてで、こちらの方が切なくなってしまう。
俯いて垂れるルフィの前髪を横に撫でつけてあげた。



....ルフィ、辛いの?

私を想って



困った顔のナミを見つめて、ルフィはナミにキスをした。

ナミは身を捩ったが、しっかりと両腕を捕まえられているので逃れられなかった。

もう、どいつもこいつも、勝手なんだから。


ルフィのキスはとてもルフィらしくて、乱暴でガサツで、とても慣れているようには思えない。

こうするんだよ、と教えてあげなければという気がする。

「ん....んっ、」

「...ハァ...っ、ナ、ミ...」

「う、ん...ダメ、ルフィ...」

ナミはルフィの胸を押して離れようとする。
しかし、男の力がそれを許さなかった。

「だから...だめなら逃げろって....」

「そんな、ズルい.....」

こんなに強く掴んでいて。

キスしていると、ワインの酵母がまだ残っているような匂いがする。

私は、どうしたいんだろう。

ルフィの言葉にドキドキする自分も、この関係を進めることに怖がる自分もいる。

しかも、ルフィは酔っているから。


「ナミ、大好きだ.....」


唇を離して見つめ合う。
こんな瞳で見てくるなんて。

ドキドキする。

信じていいのだろうか。
私は確かにルフィが好きだけれど、私の好きとルフィの好きは、ちゃんと合っているのだろうか。

ナミはルフィをぎゅっと抱きしめた。

昔本で読んだ。
本当に愛する人かどうかは、抱き合った時にわかるって。
手が触れただけで、運命の人はわかるものだって。

ルフィの背中を撫でていると、落ち着いた。
お母さんになったように、愛情深くなった気がする。

すると。



「.......ぐー。」


...............はっ!?

寝た!?

ナミはがばっと離れてルフィの肩を掴むと、すやすやと寝ている男が目の前にいた。

なっ、なっ.........

いっぱい飲んだから。

そりゃ、初めての飲酒だし、波に揺られたワインだし、アルコールもそれなりに強くて、寝てしまうのは仕方ない。
けど。

ナミはへなへなと床に座り込んだ。

なんか.....どっと疲れた....。

拍子抜けしたのも本当だが、ほっとしたのも本当だった。

ほんとに勝手だ。
どいつもこいつも、人の気なんか知らないで。

でも、ルフィの気持ちは嬉しかった。

そう思って、ナミはルフィをベンチに寝かせてやり、毛布をかけて頭を撫でてやった。








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