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□13.キャプテンの憂鬱
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13.キャプテンの憂鬱
ナミがイルカと泳ぐことを真剣に考えていた頃、サニー号では着々と宴の準備が進んでいた。
こちらの船は何でもいいからいつも宴がしたいので、ウソップと仲良しのジャンバールの誕生日はおあつらえ向きだった。
ローは自分の船の甲板に上がって、騒がしい麦わらの船の様子を眺めている。
ナミは。
あの日から後、どうしているだろう。
以前なら海越しにでも姿を確認することもあったが、あれ以来数日はこちらから見えるところには居てくれないようだった。
ベポと針路についてのやり取りをする時も、通信器を使うことが多くなったようだ。
ーー世紀の大失敗だった。
薬だって、媚薬効果を期待した訳ではない。
体を温める効果のあるものだから、医師として病気の予後に適していると判断しての投与だ。
あんなことになるのは完全に想定外だった。
期待がゼロだったと言えば嘘になるが、それでもその後手を出さない、という選択を自分がするとは思わなかった。
自分で思うよりも、自分はナミに心底惚れていたのだ。
薬で判断力を失った女を抱いて、失望されたくなかった。
海を見る瞳が好きだったからだ。
誇りを持って仕事をする姿勢が好きだったからだ。
ーー海で生きるのは、私がこれと決めた道だし
ーー海に関わることで知らなくていいことなんて、ないかなと思ったの
海図を見せた時のあの言葉が、自分の心を盗んで行ったのだ。
弄んだと思われて、傷つけてしまったかもしれないけど。
ただ、会いたい。
この目にその姿を写すだけでもいい。
会いたかった。
ローは長太刀を肩にかけ直して、傷ついたような表情で麦わらの船上を見上げた。
すると、相変わらず能天気なツラをして麦わらの船から降りて来るシャチとベポの姿が見えた。
なんだあいつら。
抜け駆けか。
「あ〜〜!キャプテ〜ン!」
ベポがぶんぶんと手を振る。
黙っていると二人が寄って来て、がし、と両脇を掴まれた。
「船長、水くせぇよ!」
「そーだよキャプテン!ナミのこと好きなんでしょ?なんでこんなややこしいことになってるの?」
「何言ってるお前ら....離せ。」
「ナミ落ち込んでたよ。キャプテンにフラれたって言ってたんだよ。」
「は.....?」
「船長、それより俺は!ナミの媚薬について聞きたいっス!」
調子に乗ってハイハーイと手を上げるシャチをギロリと睨んで黙らせた。
恐怖でしくしく泣いているシャチを尻目に、ベポに向き直る。
「俺はフった覚えなんてない。」
「でも、キャプテンなんかしたんじゃないの?」
それは、まさか話すことなんてできないけど。
抱くのを断ったなんて。
「だって好きだから、まだタンス返してないんでしょ?ナミ怒ってたよ。服ないって。あと、あれ邪魔だよ。診察室、すごい狭いよ。」
矢継ぎ早に責められて、ローは後ずさった。
「キャプテンも今日の夜、宴に行きなよ。いつも面倒くさがって出てこないんだから。おれの弟分の誕生日だし」
「そうそう!俺たち準備手伝ったしな〜!麦わらのコックさんの昼メシ超美味しかったし〜!」
シャチが復活してはしゃいでいる。
ローは考えが追いつかずにくらくらした。
何故、ナミがフラれたことになっているのか。
フラれたのは自分じゃないのか。
それで何故、シャチが媚薬のことを知っているのか。
何故、自分の気持ちがこうも周囲にダダ漏れなのか。
とりあえず、空に浮かぶ夕焼け小焼けを見て自分を落ち着かせた。
会いたい。
どう思われていてもいいから、ナミに会いたかった。
シャチは調子に乗っていたので自室に帰ると、部屋で本を読んでいたペンギンに事のあらましをペラペラと喋った。
自分のベッドにどかっと座って自分の秘蔵のビールを飲む。
「さっきナミに会ったらさぁ、元気そうだったぜ!船長となんかあるなんかあると思ってたけど、船長ナミに媚薬盛ったらしいよ!マジ羨ましいよなー!一体どんなプレイをあんな美女と....」
次の瞬間ペンギンはブーッ!!と飲んでいたコーヒーを噴き出した。
「なんだよお前、きったねー!」
ヘラヘラしているシャチにペンギンはひやりとする。
自分はあんなことを口外するタイプではない。
しかし、シャチからその話を聞くと言うことはもうクルー全員に広まっていてもおかしくない。
ハートの海賊団は男所帯だ。
航海の間はみんな女に飢えているし、下世話な妄想も当然行われる。
男同士なので卑猥な話にも遠慮がないし、まして美女が二人も乗った麦わらの船と航海しているからには。
しかもその話を聞けば良からぬことを、行動はしないでも思い描く奴はいくらでもいるだろう。
ナミの名誉を守るため、ナミの安全を守るため、薬品管理は徹底して行おうと思うペンギンなのであった。
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