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□14.史上最低の争い
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14.史上最低の争い
夜になった。
ルフィにも会いたくないし、ハートの誰が来るかもわからない宴に出るのは、ナミにはとても気が進まなかった。
しかし、そう体調が悪いわけでもない自分が出なければきっと皆変に思うだろうと言う気もして、一応部屋着から着替えようとするが、タンスがないことに気づいてやり場のない怒りを鼻息と共に吐き出した。
もうこうなったら。
取りに行ってやる。
敵陣に打って出て平然としてやろう。
潜水艦を歩く自分を想像して、ナミは思った。
ーーやっぱり無理だ。
抱くのを拒否された女が、どんな顔して会えばいいの。
媚薬で狂って醜態を晒した女が、どんな顔して会えばいいの。
ハートの陣営に行くことは無理と判断した。
では、パジャマのまま出て行くか。
いやいや、少し大きいけれど、ロビンの服を借りるか。
それしかない。
はー、と息を吐いてロビンを探しに行こうと部屋を出た。
すると、右側にルフィが、左側にローが、ちょうどこちらに向かって歩いて来るところだった。
俺がナミなら。
俺にはもう会いたくないだろうな、とペンギンは思っていた。
抱かれたくらいだから嫌われてはいないのだろうが、きっと真面目なあの娘のこと、醜態を晒して恥ずかしいと思っているのだろうと思う。
俺は嬉しかったのに。
でも、きっともうあんな日は二度と来ない。
自分はどれだけ船長がナミを愛しているかがわかってしまった。
そして何より、縋ってきたナミの涙の訳が、わかった気がするから、自分の気持ちをぶつけることなんてできない。
なんて損な役回りだ。
まるであのひと時が夢のようだ。
まだあの肌の感触が残っているのに。
宴に参加して、賑やかな中心を一歩引いて見ていたペンギンは、ちょうどナミが部屋から出て来たところを目撃した。
するとそこに2人の船長たちが鉢合わせるのも。
昨日のワインに私は持ってる運を使い果たしてしまったんだわと、ナミは思った。
慌てて扉を閉めようとすると、ルフィがゴムの手を伸ばしてそれを阻止してしまった。
「ナミ!待ってくれ!ごめん!おれ忘れてた!昨日のこと!」
ローの視線を感じながら、ナミは目を白黒させた。
こんな時にこんな状況で一体何を言う気か。
「おれもしかして言ったか!?お前が好きだって。それでお前にキスしたのも現実か!?夢じゃなかったのかな!?」
ヒィィとナミは思った。
この男は、周りが見えていないのか。
しかも声がでかい。
「おれ1日ずっと考えてたんだ!お前朝おかしかったしな!」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って....」
思い出したの?
な、なんで今!
それで私は落ち込んでたのに、どれだけこっちを振り回したら気が済むの!?
後ろからのローの視線が自分の体に穴を開けそうだった。
そんなことはお構いなしにルフィは自分の手を掴んで来て、ぐっと引き寄せる。
ナミは真っ赤になって泣きそうになった。
昨夜のことを思い出したルフィに戸惑っているのか、ローに変な現場を見られたことに戸惑っているのか、もはや自分の心が全くわからない。
「ちょっ、やめて....」
ナミは混乱して俯いて、掴まれた手でルフィの胸を押した。
ぎゅっと目を閉じて体を強張らせる。
すると、ふわりと匂いが変わった。
手が変わった。
もちもちとした柔らかで温いルフィの手から、骨ばった冷たい大きな手に。
ナミが目を開けると自分の手を包み込んだ手には刺青が入っている。
ルフィと位置を入れ替えたのだ。
ローが自分を包み込んでいた。
「嫌がることをするな。」
「なんだよ、トラ男は関係ねーだろ。」
「関係....な。お前の女じゃないなら関係も何もない。」
ナミはぽかんと大きく口を開けてローを見上げていた。
「おれとナミの問題に口を挟むな。」
「お前がこいつの嫌と言うことをしなければ何もしない。」
「ナミは嫌がってねェ!キスするのも嫌がらなかった!」
「ちょっとルフィ!!!」
ナミはローに半分抱きしめられながらも顔を真っ赤にして否定した。
キスしたと言う言葉によろりとよろけたローは思った。
俺はキスはしていない。
「俺は体じゅうを隈なく触ったが嫌がった様子はなかった。」
「おれだって触ったことくらいある!」
「俺は胸も触った。ちく.....」
「わーーーー!!!ああああんた何言い出すの!!!???」
ルフィは思った。
おれはそれはしていない。
「ちくしょー、なんなんだお前!」
「それはこっちのセリフだ。」
「それはこっちのセリフよ!!!なんなのあんたたち!!!」
一体何を張り合っているの!!??
ナミはローからズザザと離れて背中が壁に張り付くくらい後ずさった。
両手を大きく広げて退路を探すが残念ながら一面壁だ。
「ナミ!お前はどっちを選ぶんだ!」
「面白い。ここではっきりさせるのも悪くない。」
「どっちとかそう言う問題じゃないでしょ.....!!??」
ヒィィと壁に張り付くナミ。
「「ナミ。」」
なんなのこいつら、本当になんなの!?
ナミは助けを求めて周りを見渡した。
騒がしく宴をしている面々はこちらの様子に気づいた気配もないが、たった一人の男と目が合ったのだ。
ずっとこちらを見ていたと言うような、はらはらとした様子で。
「私、いるから!もう、そう言う人、いるから!」
ナミは俯いて目を閉じて、叫ぶように言った。
もう振り回されたくない。
心を乱されるのはもう十分。
もう、自分の本心なんて自分でもわからないんだから。
「私、ペンギンと付き合ってるから!だからもう私に関わらないで!」
「....なっ!?」
「ペンギン?お前変わったもんと付き合ってんだなー」
よくわからないことを言っているルフィと絶句するローの間を駆け抜けて、ナミは安全と思われる場所へ避難したのだった。
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