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□17.切ないふりだし
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17.切ないふりだし
服が、下着が、水着が戻ってきたナミが最初にしたことは、イルカと泳ぐことだった。
それほどまでに癒されたかったので、次の日が快晴で暖かく、海も凪いで大型哺乳類が現れそうな予感がしたのでナミはわくわくした。
「あら、大胆。」
ナミが水着に着替えるのを見てロビンが言った。
「そう?いつも通りじゃない?」
「紐で結ぶタイプだからかしら。すぐ誰かにほどかれてしまいそうよね。」
「何言ってんの、ロビン。ほどかれないわよ。」
「だって聞いたわよ?ハートの船のペンギンくんと付き合ってるって。」
「ああ、あれウソなの。都合がいいから。付き合ってないよ。」
「ええ、でも媚薬が盛られてどうって....」
「ななななんでそんな話が出てくるの!?」
ナミが水着の上に着たTシャツからスポッと顔を出すと、ロビンがくすくすと笑っていた。
「あなた猫だからマタタビが効くのね。ハートのクルーは薬剤師さんも多いそうよ。しばらく口にするものには気をつけた方がいいかもしれないわね。」
ナミはサーと顔を青くした。
朝食の後には久々に海上プールを出して、それを見たチョッパーやブルックが浮き輪を持って一緒に入った。
ハートの船から見えるところにいるのは少し気が進まなかったが、ナミはもう問題は解決したものとしているのでイルカを探すことに注力した。
ハートの船では泥棒猫が水浴びしている!と情報が艦内を駆け巡り、わらわらとナミの水着を一目見ようと観客が甲板に集まっていた。
飲み過ぎて、久々に爆睡したローは外の空気を欲していた。
何か騒がしいと思ったが構わず外に出ると、見下ろした海の中でナミが泳いでいた。
まるで人魚のように。
見つけたーー!
イルカちゃん!
チョッパーが一緒に泳ごうと話してくれてプールへ誘う。
ハァ、つるつる...癒やされる....
ナミはイルカの肌を撫でて頬擦りした。
なんだか、嫌なことは全て忘れてしまいそう。
そのはずが、このイルカ、不届きであった。
しばらく一緒に遊んでくれたところまでは良かったが、キラキラ光るビーズのついたナミの水着の紐が気になって仕方がなかった。
イルカは目をキラキラさせてパクッと紐を咥え、えいっと引っ張ってしまったのだ。
むしろ、ポロリを期待した甲板の男たち(ブルック含む)に味方する行為を遂行したと言えた。
「シャンブルズ」
その瞬間、ローはその身体が誰の目にも触れないうちに、ナミと自分の手近にいたシャチを入れ替えた。
シャチがドボンと海に溺れると水しぶきが上がり、人々がそれに気を取られている間にナミを自分で覆って部屋へと移動させた。
パッと目の前の景色の変わったナミは驚いたが、助けられたと気づいて腕の中でローの顔を見上げる。
「あ、ありが....」
「....いや」
会いたかった。
昨日は、会ったらそう言おうと思っていたのに。
「服を着ろ。」
腕で胸を隠すナミの肩にタオルをかけてやって、その辺の服を指差す。
ナミから離れて部屋を出て行こうとする。
「...ロー。」
「.....っ、お前。」
ナミは思わず呼んでしまった。
ローと話したかった。
何故あの時抱いてくれなかったの?
ローは私の嫌がることをしない。
でも私嫌じゃなかったのに。
あなたの大切にしている本も、読んだよ。
ペンギンの言ってたことは本当?
私のことが本気で好きだから、薬でおかしくなった私に手を出せなかったって。
もし、そう言ってくれたら。
「...お前は、ペンギンの女になったんだろう。」
ナミは傷ついたような表情をした。
「それなら、こんな風に他の男と二人になるな。」
出て行こうとするローにナミが言った。
「違うの、あれはうそなの。私ペンギンとは何も...」
「...何もなかったか?」
横顔だけで見てくるローに、
何もなかったと、言えなかった。
ナミはポロポロと涙を流した。
その痛みで、わかってしまった。
ローが好きだった。
でも、もう終わってしまったんだ。
彼の言い分を、何も聞き入れようとしなかったからだ。
私も、少しは悪いのかもしれない。
でも、好きなのに、抱いてもらえないのはみじめだった。
こんなに。
好きだったんだ。
真面目で融通がきかなくて、私を第一に考えてくれる優しい男が。
ローは出て行ってしまう。
でも、それを止める言葉なんて持ってなかった。
ーー好きと言う勇気なんて、持ってなかった。
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