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□18.男談議と海賊王のたらし論
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18.男談議と海賊王のたらし論
つなぎを着たまま海に放り込まれたシャチは麦わらの一味になんとか救出され、ダイニングで温かいココアを一杯頂いているところだった。
お調子者のシャチは喋る喋る。
ゲストを迎えるホストであるサンジもコミュニケーション能力が高いので会話は弾んでいた。
ダイニングの外からシャチの話し声を聞いて、ペンギンは呆れて息を吐いた。
同室のベポが、シャチが落ちた!シャチが落ちた!と騒いでいたので替えのつなぎを投げつけたが、ベポに自分は仕事があるのでサボってるお前が行ってくれと言われた。
確かに本を読んでゴロゴロしていたが、サボっている訳ではないと思いながら、しぶしぶ腰を上げたのだ。
ノックしてダイニングに入るとシャチがスチャッと手を出して挨拶した。
「おっすペンギン!持って来てくれたか着替え!」
「てっめぇぇええがペンギンかぁぁあ......よく来たな、まあ座れ。」
サンジが嫉妬の炎を燃やして凄んで来るのをやり過ごし、ペンギンはつなぎをシャチの顔に押し付けて座った。
「何があったか知らないがウチのバカが手を煩わせてすまなかった。」
「「まったくだ」」
ウソップとサンジがハモる。
ウソ「能力者じゃないのに溺れかけるし、しがみつかれて俺まで溺れそうになるし。」
サン「クシャミ飛ばすし、鼻垂らすし、やれあったかい飲み物だやれ軽食だ、果ては酒まで飲みたがるし」
フーと煙を吐き出すサンジだが、シャチの前にはもてなしがしっかりと出されていた。
ペンギンはじろりとシャチを見るが、本人はてへっとしている。
ペンギンの前にも飲み物が出されて、いただきますした。
シャ「ほんと、うちの船長はひどいことするよ」
フルーツとサイダーが混ざったドリンクをチューと飲みながらシャチが言った。
ウソ「船長がわけわからんのはどこの船も一緒なんだな。」
ウソップもドリンクを持って頷く。
シャ「そうそう、こいつなんかこの前二回もバラされたんだぜ!」
シャチがペンギンを指差して笑う。
ペン「うるせーな」
シャ「でもお前はいいじゃん泥棒猫と付き合えてさー」
ウソ「え!?そうなんか!?」
ペン「ああ、あれなぁ...」
サン「ウソなんだろ?ルフィとローをフるための。」
サンジがフン、と鼻を鳴らす。
シャ「えー、なんだよ。そうだったのか、つまんねーなー」
ペン「.....うるさい。俺は辛い立場なんだ。」
シャ「まあいいじゃん!少しはいい思いしたんじゃねぇのか?」
サン「そうだそうだ。」
ペン「よくねぇよ....俺はただの隠れ蓑で当て馬でかませ犬なんだよ....
イイ女に範囲外も範囲外って思われてて、男として良いわけあるか!」
ペンギンは何でこんなことを言わないといけないと思いながら、両手でこめかみを押さえてちょっと泣いた。
サン「それは....ウン、なんかわかる....」
ウソ「そこ、共感すんのか....」
しみじみと頷くサンジにウソップが呆れて言った。
そこに腹を空かせたルフィがバタンと大きな音を立てて扉を開けて入って来る。
ル「お、お前ら来てたのか!」
シャ「おっじゃましてまーっす」
ル「おう!じゃ、サンジーっ!おやつー!」
ガタガタとイスに座るルフィに、シャチがあるものに気づいたらしかった。
シャ「なんだこれ!ロマネコンティの瓶!?」
キッチンの片隅に置かれた瓶を見てシャチが声を上げた。
サン「おいおい、気づかなかったぜ。なんだってこんな高級酒がこんなとこに....」
ル「あ、それおれがナミと飲んだ!海で拾ったんだ。おれ初めてワイン飲んだよ〜」
初めてがロマネコンティだと...!?
こいつすげえ....
その場にいる全員が思った。
サン「ハァ!?なにテメーナミさんと二人でロマンチックなワイン飲んでんだ!!オロすぞ」
ル「そーそー、しかもせっかくナミにキスしたのに酒で忘れかけるしよ〜アハハ。」
シャ「えっ!?」
ウソ「えっ!?」
サン「ハァ!?お前ナミさんとキスしたのか!?合意の上でか!?」
ル「うん、無理やりした!こう、掴んで!」
サン「それは非合意って言うんだよ!!」
ル「だってよー。女のイヤ、はイヤじゃねぇからよー!」
こいつ....たらしだ....
正真正銘のたらしだ
その場にいる誰もが思った。
女の嫌は、嫌じゃない....!?
ローの背後に雷が落ちた。
足元でチョッパーがきょとんとしている。
本を返すついでと、チョッパーの研究や論文を見て欲しいと通信が入ったのでローは彼を訪ねていたのだ。
ローは移動が容易なので、ナミを残した部屋を出た後、すぐにチョッパーの元に現れた。
ナミの側を早く離れたほうがいいと思ったのもある。
チョッパーはローを図書室に案内した後、診療室を見せようとダイニングを訪ねたのだ。
診療室はダイニングの隣にある。
そこでローはルフィの衝撃的な言葉を聞いたのだ。
ーー女の嫌は、嫌じゃない。
そうだったのか、とローは思った。
そうすると、ナミの言動にも思い当たる節がいくつかある気がする。
あんなに、ナミが怒ったのは。
顔も見たくないと、大嫌いと言ったのは。
ーーしたかったよ。
正直な気持ちを話してくれてたのに、傷つけてしまったんだ。
もし。
もし、ナミも同じ気持ちでいてくれたのだとしたら、自分は極悪人だ。
生真面目には、この思考が限界で、後悔もひとしおなのであった。
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