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□19.かっこいい男
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19.かっこいい男
ペンギンとシャチにもそれなりに仕事があるので船に帰り、平穏な1日が終わろうとしていた。
ナミは、待っていた。
ローの服を貸してもらったのでそれを着て、以前入った船長室に、勝手に入って座っていた。
会いたい。
ローに会いたい。
何を言うとかどう言えばとか、考えても考えてもいい案は浮かばなかったが、例えローにどう思われていようと、会いたいと思った。
会って、もう一度ローを見れば、目が合えば、勇気だってわくかもしれない。
すれ違って誤解し合っても、自分はローの良いところをたくさん知ってしまった。
誠実で融通がきかないほど真面目なところ。
私の気持ちを第一に慮ってくれ、嫌と言うことをしないところ。
クルーからの信頼、医者としての矜持、大切に大切にされた本。
人種さえ差別せず魚人のジャンバールを解放して仲間にして。
まるでルフィみたい。
ーーでも、ルフィとはまた違う。
それをなかったことになんて、したくなかった。
大好きになってたんだ。
でも、いくら待ってもこの部屋の主は帰ってこなかった。
決意を挫かれてナミは立ち上がった。
出直そう。
黙って部屋を出て、てくてくと狭い廊下を歩く。
すると丁度、シャチと別れたペンギンと鉢合わせた。またもや。
「...ってナミ?何でこんなとこに、そんなかっこで。」
ナミはローの黒とオレンジのTシャツを着ていた。
「......うええ、ペンギン.....」
ペンギンの姿を見ると、何故か緊張の糸が切れたようで、ナミはポロポロと涙を流した。
「....なんだよ、どうしたんだよ。」
「ペンギ....どうしよ....私、わたし〜〜!!」
「落ち着けよ...聞くから。」
両手で涙を拭うナミを部屋へ促す。
ベッドに座らせて落ち着かせた。
背中をトントンと叩いてやる。
ナミはぽつりぽつりと話し始めた。
「わたし、どうしよう....さっき、海で助けてくれたローに言われたの。お前はペンギンの女なんだから、他の男と二人になるなって」
ナミは自分の剥き出しの膝を見つめた。
「でもそう言われた時、私すっごく悲しかった。ペンギンも言ってたでしょ?ローが私に手を出さなかったのは、本当に好きだからだって。私ローが本当にそうだって言ってくれたらいいなって、ちょっと期待してたの。...でも、もう違うんだと思う。
私があんたとしちゃったのは事実だし、ローはもう話すことないって感じで、出て行っちゃった。そうなってから、初めて気づいたの。私、ローのこと好きになってたんだ....」
ナミは打ちひしがれて、うな垂れた。
ペンギンは黙って話を聞いて、ナミを見た。
体を結んだのは自分だけで、あんなに気持ちよくて、そこに優越感は確かにあるはずなのに、どうしてこんなに遠いんだろう。
きつい。
辛い。
でも仕方ない。
自分はこの娘の恋愛対象外なんだから。
「....そうだな。俺にしか、話せないもんな。」
「うん...」
ここで、この娘を抱いたんだ。
何度も何度も。
船長の服を着ていて、おそらく下着もつけていなくて、目が行ってしまうけど。
でも自分だって、ちゃんとこの娘が好きだから、悲しむ顔は見たくない。
だとすれば、自分は我慢するしかないのだ。
「ちゃんと、話せよ。船長と。」
「うん...」
「うん、まあ、わかってると思うけど、言わなきゃ何も伝わらないしな。」
「うん...待ってたんだけど、帰ってこなかったから、今日は。」
「また機会がある。」
「うん....ありがとう、ペンギン。」
ナミは目尻を拭った。
「なんであんたはそんなに優しいの?」
ちょっとナミが笑うと、ペンギンも泣きそうになりながら笑った。
言わなきゃ伝わらない。
本当にその通りだ。
「....俺が、お前を好きだって言ったら、お前は困るよな。」
「え....」
「だから、言えなかった。」
男なんて、みんなそんなもんだと、だから船長も大丈夫だと、ペンギンは言った。
困らせたくない。
悲しむ顔を見たくない。
だからいつも、何も言えない。
「....そんな....私、あれだけ醜態を、晒しちゃったのに....ちゃんと付き合ってもない男としちゃうような女、好きにはならないものじゃないの...?」
思い詰めるナミに、ペンギンは笑って息を吐いた。
「そういう真面目さが、好きなんだよ。」
そういう賢さや、融通のきかなさが、良いと思ったから。
「.....じゃあ私、あんたにも酷いことをしちゃったわね.....」
「ハハ、かわいいから許してやるよ。」
ナミの言葉を借りて、憎まれ口を叩いて、笑っている。
それを見てナミも笑った。
やっぱりこの娘には、笑顔が似合っている。
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