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□23.トラファルガー・ローの生態
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23.トラファルガー・ローの生態
はぁ、何でこんな場面を見ないといけないんだ。
潜水艦の中で唯一見晴らしのいい見張り台に一人でいると、船長とナミが話しているのが見えた。
こうなることはわかっていたはずなのに、直視するのはやっぱり辛い。
ペンギンは抱き合う二人から目を離して、麦わらの船での会話を思い出していた。
あの麦わらのルフィはすごい。
違う世界を生きている。
恋だの愛だの、そういう次元で生きていない。
かのボア・ハンコックも、骨抜きにされるわけだ。
器の大き過ぎる彼の愛は、多分なにもかも凌駕している。
それはまるで、海のような。
「ーーそりゃ嫌よ嫌よも好きのうちっていうけどさ、普通嫌がられたら手、出さねぇだろ?」
「嫌がってねぇよ。あいつ優しいからな。」
シャチがそう言うと、ルフィはサンジにもらったドリンクをチューと吸いながら言った。
「あいつは自分よりおれの方が大切なんだ。いつもおれの気持ちの方が優先なんだ。だから嫌がらねぇし、多分おれだけを見てろって言ったら、そうするんだ。」
どんな時も、ナミはルフィの気持ちを優先して来た。
きっと、ルフィがナミの特別になったあの日から。
「でもおれはなー、それはしたくねぇんだよな。ナミはナミらしく生きて欲しい。あんなに海に愛されてるやつを、縛ったらいけない気がする。
....おれは海には勝てないしな。」
ルフィはそう言って山のように揚げられたドーナツをばくばく口に放り込んだ。
「それにおれは、おれが海賊王になる時、あいつが側にいればいい。ってこれウメーーー!!!」
満面の笑みでドーナツを頬張るルフィにシャチが笑った。
「ちょ、真面目な話してると思ったらここの船長まじマイペース!」
「わかるか?うちの船の食費すごい理由。」
「こんなに食べる奴うちにいねぇよ!」
シャチが手を叩いて笑った。
「掃除機みてぇだな!」
「おっ、それいいな!ゴムゴムの掃除機!」
ズゴーとドーナツを吸い上げるルフィ。
「バーカー!!」
シャチはそれを指差して笑う。
シャチとルフィの馬が合ったところを思い出してペンギンは眉間に指を当てた。
でも。
ナミは愛されている。
それだけでも少し、心が慰められるような気がした。
誠実で生真面目な愛。
海のように広い愛。
自分は、ちっぽけだったかもしれないけど、ナミの幸せを願える程度には、ちゃんと彼女を愛していた。
男の価値は、どれほど女を愛せるかによると思う。
自分の愛し方だって、価値があった。
それだけで、いいか。と、
ペンギンは苦いコーヒーを流し込んだ。
とにかく潜水艦探検ツアーからこちら、お預けをくらい続けていたローはその不満を解消するごとくナミと連日連夜一緒にいたがった。
正直周りに生温かい目で見られるのも本当に恥ずかしいし、人目を忍んで会いたいものだったが、この男、普通に誰かと話しているナミの姿を突然消したりするので人目を忍ばせてくれない。
ナミはローのベッドで愛し合う合間の僅かな睡眠を取っていた。
しかし気配を感じてパチッと目を開ける。
「....っっセーーーフ!!絶対そう来ると思ったわよ、起きてせいかい...」
目を開けるとローの顔が至近距離にあり、ぐぐぐっと口に含んだなにかを飲ませようとしてくる。
油断しているとマタタビを飲ませようとしてくるのだ。
嫌がっていないのをいいことに。
アッパーするようにローの顎を押し上げると、ごくんと喉が鳴った。
「あ。」
「え....?」
「あ〜...お前のせいで飲んじまったじゃねェか....」
「ひ、」
「予定とは違うがこの趣向も悪くない。頑張れ、ナミ。」
「がんばれって....やぁ.....」
一緒にいて、ローという人間が、少しずつわかってきた気がしている。
生真面目で頑固で、思考回路が斜め上。
誠実で謙虚で知識欲があり、仲間から信頼され、少し変態。
純情なのに不純で、
そしていつも私に優しい。
それが、私の男の生態です。
「ハァ、ハァ、ロー...」
「ハァ、なん、だ...」
「返してくれたタンスに....あるはずの下着がないんだけど。上下。」
「...............」
「どういうこと?」
「.......それはまた不可解な....」
「ロー。」
「.......」
「トラファルガー・D・ワーテル・ロー。」
「!!」
「私に隠し事するのは無理なの。白状しなさい。」
これはまた深く、引っ掛けられた。
釣り針をつけたまま泳がされる魚。
「......ここに.....」
「なんでポケットから出てくるのよ!!この変態!!」
バチーーーーン。
今日もビンタの音が、船に響く。
End