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□3.愛玩
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3.愛玩








興ありと、鷹の目の男は思った。

それではこちらにばかり利がある取り引きになると思ったが、それは口に出さなかった。

少なからず気のある女の、凍てつく心を溶かす楽しみさえあるとは、幸運にグラスが進む。



ずっと、ロロノアが何を見ているのかと思っていた。

人目を忍ぶのが不審で、何度か手配書を見ている姿を目撃したが、その目は泥棒猫を見ていた。

そんな一面があるとは、と驚愕したが、奴も若い男なのだ。

あの豪胆な男の心に住み着く女がどれほどのものか、興味がなかったと言えば嘘になる。


不届き者に雷を落とした女は、当然のように宝石を我が物にし、自分と堂々と対峙した。

豪傑だと思ったが、中身はいたって普通の人間の女だった。

ドレスに喜び、宝石に表情をくるくると変え、海賊とは程遠い、愛されて育った少女の顔をして。

駆け引きをするくせに七武海の名に怯え、強い酒を飲むくせに男を忘れたいと弱々しい願いを口にする。


ミホークの周りに寄る女は強く、経験の豊富な傑物ばかりだったので、これまで一度だってこんな可愛い女はいなかったと思い、楽しそうに男は笑った。


「お前には、俺が普通の男に見えるのだろう。」

「え...うん....」

「普通の男に今の台詞を言っては、一晩男の好きにされても文句は言えないのだぞ。考えて物を言え。」

「...ちょっと、私は本気なのよ。」

また子供扱いして、とナミは顔を赤らめる。

「もっと自分を大切にしろと言っている。」

「......わかった。」


ナミは諦めて胸の谷間から黒曜石の袋を出し、ガラスのテーブルの上に置いた。

「これ、お返しするわ。」

「ナミ。」

「もう充分お礼はもらったわ。じゃあね、鷹の目さん。」

裾を捌いて立ち上がる女に、目がくらみそうになる。

「.....送ろう。」



またエスコートされて、ナミはドレスの裾をちょいと摘んで歩いた。

外に出ると夜風が気持ちよかった。
ナミは足元に目をやる。

綺麗なドレス。
高価なくつ。

今の私に似合うのかしら。
自信も心もからっぽになってしまった私に。

下を向くと、ぐらりと揺れた。

足がもつれる。

酔っていた。

あーあ。大人の男にはまだ、乳臭いとあしらわれるような女なのに。


「酔ったのか。」

「ん......」

ナミはミホークの腕に体重を預けてうな垂れた。


「私にもっと魅力があったら......」

二年前に、戻れたら

「あんな場面、見なくて済んだのかしら。」


仲睦まじく歩く二人の後姿。
例え部屋を別に取っていたとしても、例えそんな関係ではなかったとしても、こんなに胸を抉られるなら、事実など何の関係もないと思った。
関係があるにせよないにせよ、上手く溢れ出られなかった気持ちは霧散してどこかへ行ってしまった。

そんな暇があるのなら、
他のものを、人を、女を見る暇があるのなら、何故私を見てくれないのだろう。

それはもう、私のものではないと言うことと、同義だった。


二年間大切に大切に胸に抱きしめていたものが、一瞬でなくなってしまったのだ。


ではこの両手は、一体何を掴めばいいの。



「大きな思い違いだな。」

ミホークがナミの手を取った。細い両手を纏めて掴み、前へ引いた。

「お前はもっと自覚すべきだ。自分の持つその魅力とやらを。」

雰囲気の違うミホークの様子にナミが胡乱な目を上げる。


「この肌も、」

「あっ、」

「この目も、男を誘って止まぬと言うのに、容易く人を信じるな。それでも俺で構わぬと言うのなら、喜んでお前の望み通りにしよう。」

掴まれる手に、怖くなってナミは目をぎゅっと瞑った。



「お前は、美しい。」



ナミは陥落した。










ミホークはナミの取った宿に送ってはくれたものの、フロントに二三、話して部屋を用意させたようだった。

鷹の目の贔屓になれば、格が上がって繁盛するとまことしやかに噂されていたので、スタッフ達が騒めくのも無理はないことなのかもしれなかった。

同じ宿のはずなのに、最上階のスイートに通されてナミはそのきらびやかさに目眩がした。

「......えっと......」

「なんだ、もう後には引けんぞ。」

ミホークが言った。


「誰を想っているのか知らんが、忘れるがいい。目の前にいる男だけを見ていろ。」

ナミは酔っていたが、心の底で少し期待していた。

消してくれるかもしれない。
傷つかなくて済むかもしれない。


「はい.....」





そして、呪いをかけられたのだ。





猛禽類は、肉食である。

ミホークはナミの首輪を不躾に引いた。

本当に首輪のようで、この宝石はよくこの娘に似合っている。











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