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□5.嘘吐
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5.嘘吐











ミホークがナミの手にキスをした。

別れ際の、何を考えているのかわからないキスだった。

ミホークといると、守られているような、支えられているような、そんな心地がしていた。

でも、ここからは自分の足で歩いて行かなければならない。

どんなにゾロと顔を合わすのが怖くても、私は麦わらの一味なのだから。




手のひらへのキスの意味を、この若い娘は知らないだろう。
どこかの国の劇作家の台詞にある。

ーーまた会いたいという、懇願。



「ではな。」

「....はい。」

ナミは怖かったけれども、笑顔を作った。
それはミホークへのちょっとした感謝でもあったし、これから船へ戻る仮面でもあった。

嬉しいはずなのに。
みんなに会えるのは。

こんな戦いに行くような気持ちで、船に帰ることになるなんて。





「あ!おっす、ナミ〜〜!」

ウソップがこちらに手を振っていた。
ナミは踵を返して手を振る。
満面の笑みだった。

「ウソップ!みんなも!!」

「ちょ、ちょ、ちょっと待て。今のもしかして鷹の目の男じゃなかったか?」

「うん。送ってもらったの。」

「は!?なんで!お前脅されでもしてるんじゃ」

「まさか。助けてあげたのよ、私が。」

は!?と目を見開くウソップに、私、あんたとチョッパーの弱小トリオは卒業するわ、とナミ。

「あっ、俺が言おうと思っていたセリフをっ!」

「ふふん。」

胸を張って笑うナミに、何故かウソップが後ずさる。

「あっ、ゾロくん....あー!俺そういやブルックにグラまん頼まれてたんだったー。買いに行かねーと...じゃなっ、ナミっ。」

「あっ、ちょっ....」

背後に獣の気配がする。
ナミは息を吐いて、笑顔を作った。

「ゾロ!久しぶりね!」

「......お前、なんで鷹の目と、どういう了見でよろしくやってんだ....!?」

ゾロは怒っているように見えたが、ナミは笑っていた。

「私にも色々あるの。あんたに関係ある?」

ゾロは、一瞬傷ついたような顔をした。

関係....あるだろうが!
お前は俺の女なんだから。

お前の姿が見えて、今にも2年間押し込めた気持ちが溢れ出そうなのに、なんでお前はそんなにヘラヘラしていられるんだ。

この島に着いてからこちら、ずっと探していたと言うのに、なんでお前は、鷹の目と。


「お前、今までどこにいたんだ。2年間。」

「えっ、と....」

何故だか正直に話したくなかった。

ーー私は、あんたを想って、2年間過ごしていた。

それを話すことなんて、できそうになかった。

だって、ゾロは違ったかもしれないのに。

私が。
私だけが、ゾロを想っていた。

ゾロだけを一途に想い続けていたのに、ゾロは違ったのだ。
その事実が怖かった。

なんで私ばっかり好きなの。

通じ合っているって信じてたのに。


「み、ミホークといた。...そう!彼と、2年間天候の勉強をしてた。.....でも、あんたには関係ないわよね。」

上手く笑えたかわからないが、顔が変に引きつりながら、思わずそう言った。

もう、大丈夫そうだった。
涙も出さずに笑えたんだから、ちゃんと、仲間に戻ることができたんだ。

ナミは大量の荷物を仕舞いに部屋に向かった。


ゾロは驚いて目を見開いていた。


なんで、そんな嘘をつくんだ。


自分が鷹の目と2年間修行していたことはまだ話していないから、知らないのは仕方がない。

鷹の目に至れり尽くせり、この島に送ってもらい路銀までもらったが(それでゴースト女がうるさいので少し格の高い宿を取らされた)、それまで鷹の目は自分たちと行動していたのだし、ナミと知り合ったと言ってもここ数日のことだろう。

なのに、何故そんな嘘を?


会いたくてたまらなかった。

会えたら、抱きしめ合って、深いキスをして、押し込めた気持ちが噴出して、また心を確かめ合えるものだと思っていたのに。

この島に来ることを急かして、ゴースト女に頭を下げてまで探すのを手伝ってもらった。


「私を巻き込むな!お前の女を探すのに、ショッピングセンターやら遊園地やら付き合わすなんて、本当にいい迷惑だ!これじゃまるで、でっ、デート...」

ゾロはナミの行きそうな場所をかたっぱしから探そうとしていたのだ。

ショッピングセンターなんてものは入ったことがないので勝手がわからないし、遊園地なんてものは入ったことがないので勝手がわからなかった。

ペローナには幽霊を飛ばしてもらったり、道を教えてもらったりしたが、遂に今日までナミを見つけることができなかった。

「はぁ?ちゃんと探せ。一人より二人の方が早えーだろーが。」

「ちっ、わかったよ。女の行きそうなところだろ。どうせカワイイものがいっぱいあるところに行きたいに決まってるんだ。」

自分は朴念仁なところがあるし、女が言うならそうなのかもしれなかった。

ゾロは黙って連日真面目にナミを探していたのだ。
酒も飲まずに。


2年も待った。
きっと言葉にはしないけれど、ずっと会いたかった。
抱きしめたかった。キスをしたかった。
なんの疑いもなく、ナミもそうだと思っていたけど。


まぁ、やっと会えたんだ。
これから時間はいくらでもあるかと、ゾロは頭を掻いた。









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