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□6.別離
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6.別離
「ちょっと!ルフィはまだ来てないの!?」
翌日、出航の準備は大方整っていると言うのに、船長が現れないのでナミは声を上げた。
航海が始まってしまえば、他のことを考える暇がないくらい忙しくなるので、それに期待していたと言うのもある。
ゾロからの視線を相変わらず感じるが、他の仲間に会えたことにも気が紛れて、ナミは至って普通に過ごすことに成功していた。
「おーーい!!おまえらーーー!!」
「「「ルフィ!!!」」」
しかしその背後にはやはり、海軍が大挙して押し寄せていた。
「もーー!まともな出航できないのかしらいつも!」
「仕方ねぇよナミさん...ブーーーッ!!」
「サンジ、ナミを見るときはゆっくり!!ゆっくりな!!」
チョッパーがサンジを介護していると、聞きなれない女の声がした。
「お前らまだこんなところにいたのか。」
あの娘だ。
ナミはゾロに話しかけてふわふわ浮かぶゴーストの女の子を見た。
私と、全然違う。
あんなカワイイ服を着ても、私には似合わないんだろうな。
「うるせぇよ、船長待ちだ。」
「むっ、海軍を止めてやってるのに、その言い草はなんだ!」
ペローナはゾロにずいと寄って話している。
親密そう。
ナミがじっと見ていると、ふわふわ浮かぶ女の子と目が合った。
向こうもじっとこちらを見てくる。
ーー何?
(おい!あの女か!お前の女は!)
(そうだがなんだ。)
(一度会ったことがあるが、あんなにカワイくなってるなんて聞いてないぞ!お前には釣り合ってない!全く!)
(うるせーな!なんなんだテメーは!)
ナミはその二人を見るのがしんどくなって来たので、船の近くにいるシャッキーの方を見た。
すると、ミホークが佇んでこちらを見ていたので、黙って頷く。
シャッキーはそれを見てナミにウインクした。
東の空が明らかに作為的に荒れていたり、海賊女帝が、謎のオカマ集団が、ウソップの師匠の植物が海軍の足止めをしていたり、幾重にも幸運が重なって、無事に後半の海への航海が始まった。
ナミの心の海は、凪いではいなかったけれど。
深海への航海に粗方慣れて来た頃、物影の暗闇に紛れて、ゾロが私を抱きしめてキスをした。
せっかく普通にできていたのに、せっかく胸の痛みを乗り越えることができたと思っていたのに、ナミの心臓を痛みがつんざく。
「なにするのよ...!!」
ドンと男の胸を押して唇を拭った。
「ひどい、あんたは......私のことなんて、思い出しもしなかったくせに!!」
ナミは泣いていた。
ゾロは訳が分からず押されるままによろめく。
「なにするって...お前こそ、鷹の目と一緒にいたくせに何言ってる。わけわからん嘘つくしよ」
「いいの。もういいから。わかってる。もう元の仲間に戻りましょう。」
「お前が何言ってるか、全くわからん。そんなんで納得できるわけ....」
ないだろ、と言うと、ナミは涙をいっぱいに浮かべた目で一生懸命ゾロを睨んだ。
そんな顔で見られては、ゾロは何を言うこともできなくなってしまう。
「あんな場面を見せられて、私が傷つかないとでも思ったの....!?」
ゾロは思った。
どの場面だと。
いくら考えてもわからなくて、それでも誠心誠意考えようと黙り込んだ。
「私、ずっとあんたを探してた。あんたに会いたくて会いたくて、到着してからあの島の色んな酒場に行った。2年間、あんたをずっと想ってた。あんたもそう想ってくれてると信じてた。」
でも、私ではない女といたでしょう。
あんたは。
「俺だって、お前を探して...!」
ナミの言葉は、素直に嬉しかった。
自分も同じ気持ちだったから。
「......あんた、どこにいたの?」
二人で、泊まっていたの?
そんな意味で、視線を逸らしたナミは聞いた。
「だから....!ショッピングモール行ったりシャボンの遊園地行ったりだよ!」
お前を探して。
波が引くように感情が引いて行くのが、ナミにはわかった。
....................なにそれ。
デートじゃん。
「へー。あの子と二人で。そう。」
ナミは笑った。
わらけてきた。
会いたかったのは、わたしだけ。
体の関係があるよりも、もっと悪いと思った。
「まっ、よかったじゃない。あんな子と付き合えて。私も、ミホークに遊んでもらったし。」
ナミはゾロの肩をポンポンと叩く余裕さえ見せて言った。
ミホークという名に、ゾロがピクリと硬直する。
「あんたなんか、もう好きじゃない。」
本当は、大好きなのに。
でも、2年間想い続けたのが自分だけだったなんて、惨め過ぎる。
こんなに好きだと、ゾロに知られたくなかった。
だって、仲間に戻ってもなお、この男の負担になりたくなかった。
「俺はあいつと付き合ってねぇよ!俺が好きなのは....」
「じゃあなんで同じホテルに泊まってたの!?」
ナミは声を抑えたけれども、絞るように叫んでいた。
「あんたにわかる!?二人が同じホテルに入って行くのを見た私の気持ちが!
ずっと、2年も、会いたかった男が他の女と歩いてるのを見るのがどれだけ辛いか!」
「...お前、それ、見て....」
ゾロはいじらしい女をみて感嘆していた。
「もういいの!私が狭量なの!見なかったことにできるほど私は大人じゃないの!だから私も鷹の目に抱かれたの!」
「ハァ!?」
一瞬で血が上ったゾロがナミの体を持って揺さぶった。
「お前、自分が何言ってるのかわかってんのか!!」
あまりの力にナミが泣きながらがくがくと揺れる。
「なによ!あんただって、もう他の女がいいんでしょ!私のことなんてどうでもよかったんじゃない!」
「!!本当にそう思うなら勝手にしろ!お前みてーな女、こっちから願い下げだ!」
「....なんですって!?」
ナミは愕然とした。
これを、言われたくなくて努力して来たのに、あっさりと言われてしまった。
自分が悪い。
こんな風に正直に自分の気持ちを話すことなんてなかった。
笑おう。
諦めよう。
鷹の目と過ごした朝に戻ればきっと上手くいく。
「....そうね。仲間に戻りましょう。今まで、ありがとう。」
こうして、二人は仲間に戻ってしまった。
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