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□10.元彼
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10.元彼
丸聞こえなんだよ、アホ!
俺との話も終わってないのに、他の男とイチャイチャしてんじゃねぇ!
こっちは一人きりで鍛錬しているので、開け放した窓から否が応でもやりとりが聞こえてしまうのだ。
誤解を解こうと何度も何度も話そうとしたが、ナミは故意にこちらを避けているし、トラ男が船に乗ってからはナミにぴったりと絡んで離れない。
ーー最初は、変な奴と絡んでるな、と思うくらいだった。
お互いいがみ合って、仕事上の付き合いにギスギスして。
ナミは自分の領分に手を抜ける女ではないし、トラ男も見ている限り、いつも本だか何だか読んでいる。
医者は忙しいとチョッパーを見ていると思ったりするものだが、そういうものなのかもしれなかった。
しかし、最近のトラ男とナミを見ていると、違和感があった。
ーーまるで、昔の自分とナミを見ているような。
お互いイライラして、でも目が離せなくて。
遠慮なく物を言い合って、でもそれが心地良くて。
自分のものになった時は、柄にもなく、ほっとした。
何せ、気づいていない訳がなかった。
周りの男がどういった目でナミを見ているか。
邪推は性に合わないが、少なからず、牽制の気持ちがあったのは間違いない。
なのに、そんなのは知らないと言う顔で、耳元で大好きだと囁いて来るナミが、どれほど好きだったか。
自分は口が上手くないし、照れもある。
だから、ろくに気持ちを伝えたこともなかった。
「ーーーねぇ、私の服装について、どう思ってる?」
「....ぁあ?」
ベッドに身を預けながら、こちらを見るナミは笑っていた。
二年前、2人でいられる時間は貴重だった。
ので、やった後の睡魔に負ける訳にいかなかった。
寝ないように、努力しているのをナミもわかってくれて、こうして何かと話かけてくれるのだって、何となくわかっていた。
「彼女がセクシーな格好するの、嫌じゃない?」
「.....嫌じゃねぇ。」
「他の人が見ても?」
ゾロの表情は無愛想だが、少し考えて言った。
「.....お前は俺の女なんだから、好きな格好してろ。」
ナミは息を吐く。少し嬉しそうに。
「あんたって、本当口下手よね」
「なん...」
「ありがとゾロ!嬉しい!」
ナミは満面の笑みでゾロの頭を抱きしめて、鼻と鼻をくっつけた。
子供のような愛情表現に、顔が赤くなったのを覚えている。
「私、今まで肩の入墨を隠すことしか考えてなかったの。あんな入墨、絶対に誰にも見られたくなかった。だから、着たい服があっても、そう思わないようにしてた。」
肩に預けられるオレンジの髪が、どんなに辛い経験をしたのか俺は知らない。
想像も及ばない、何があったか例え話されたとしても、本当にわかってやることはできない、そんな気がしていた。
だから、こいつの願いは何でも叶えてやりたいと思うし、ずっと笑顔を見ていたいと思う。
ナミがナミらしくいて欲しいと、心から思うから。
ナミは白い肌を隠そうともせず、猫がするように大きく伸びをした。
「ーーだから、あんたがそう言ってくれて嬉しい。あんたが嫌がることは、できるだけしたくないし。」
ああ、なんて。
ゾロは目を細めて、口を結んだ。
深く愛されることの喜びを知ったのも、深く愛することの喜びを知ったのも、教えてくれるのは、いつもナミだ。
言葉にすることなんかできないので、触れることしかできないけれど。
ゾロはナミの、何も着ない背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。
色のある抱擁とは違う、大切だとか、守りたいとか、愛しているとか、そう言うものを全て込めた抱擁だった。
そんな時、ナミは言葉のない声に応えるように男の腰に手を回して、耳元で囁くのだ。
「....大好きよ。私も。」
そんな女を、傷つけたのは、誰だ。
ゾロは片手で頭を抱えて、はー、と息を吐いた。
生きていれば、どんな時でも勇気を出すべき時がある。
離したくない恋だって、同じかもしれない。
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