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□11.友達
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11.友達
ナミの様子がおかしいのは、その服装からわかる。
肌を露出させる格好を全くしなくなった。
「どうして?」
朝、ロビンが心配そうに聞いて来るので、だぼっとしたセーターに袖を通していたナミは困り顔で笑った。
「どうもしないのよ。そうね、でもーーー強いて言えば、男と別れたからかな?」
セクシーな格好は嫌いじゃないと言っていたから、ゾロの性格からして、それは好きと言うことなのだと思っていたから。
自分だって綺麗な体の線を見せるのは好きだから、余計に意識して、相手の好みに合う自分になりたくて。
でも、もうそれも意味がない。
男の好みを優先するような、可愛げのある女だったなんて、わかったのは付き合って随分経った後だったけれど、少なくとも私は、ゾロに喜んでもらいたくて、いつも服を選んでいた。
ロビンはどう言っていいかわからないと言う顔をしていて、他のことにはいつでもとても鋭いのに、色恋のことに不得手な彼女の気づかいも感じて、ナミは気遣わせないように話を逸らさなければならないと言う気がした。
「...あと、私どーしてもローを喜ばせたくないの!あいつ最近ジロジロ見て来ては、今日のは色が似合ってないだの、もっと肌が見たいだの、(診察を)させろだの言って来るんだもん!」
「あらあら。」
させろって何を?と頬に手をつくロビン。
「そそそっ、そう言う意味じゃないわよ!?」
ナミが口をアワアワさせて慌てる。
「あいつ何か知らないけど、私に突っかかってくるんだもん!嫌われてるのよ!」
「確かにあの人、ナミを目の敵にしてるみたいよね。なんでなのかしら。」
ロビンはベッドにぽすっと座って、天井を見上げた。
「さあ。私の方が、シャンブルされて怒ってたはずだったのに、今は何故か私が逆に怒られてるのよ!数字が抜けてる、字が荒い、頬にクリームがついてる、なんなのよもー!」
両手をドカーンと上にあげるナミを見て、ロビンはくすくすと笑った。
ロビンはナミの、感情を素直にさらけ出すところが好きなのだ。
「でも、もし私がトラ男くんなら。」
ロビンはナミの様子に安心したので途中だった自分の身支度を再開して、長い足にタイツを履きながら言った。
「気になるコには、意地悪したくなるってところかしら。あなたが気になるから、ちょっかいかけてしまうんじゃない?」
肌を全く見せていなくても、ナミはどんな服を着ていても可愛らしかったし、似合っているけれど、俯きがちなのはらしくない。
「.......そんな訳ないわよ。」
セーターに七分丈のパンツを履いたナミは、ドアに向かって呟いて、部屋を先に出た。
自分にはあまり経験がないのでわからないけれど、恋人と別れるのは辛いものなのだろう。
何かあればすぐに力になれるようにがんばろうと、うん!と拳を握りしめるロビンだった。
「おい、ナミ。」
最近では、もうナミ屋、でもなくなってきた。
ナミは背すじをシャキッとさせて、ローに向き合う。
「なによ!昨日のは私、自信あるわ。非の打ち所のない、完璧な資料だったはずよ。」
「そんなことはいい。それよりも」
ナミの手を掴んで、ぐいっと引き寄せる。
ナミは驚いて引き寄せられるままにローの腕の中に入ってしまった。
「何すんのよ!やめてよセクハラ上司!」
「セク....まあいい。お前の前の男をどうにかしろ。」
「は!?」
「俺に殺気を放ってきてかなわん。」
「前の男って....」
「別れるならちゃんと別れねーか。だからこんなことになるんだろーが、面倒くせぇ。」
ローは強い力で拘束するので、ナミは傍目にはもがいてすらいないように見える。
「なっ.....!あんたに何の関係があるの!?放っといてくれない!?」
「それは無理だ。俺はお前に惚れちまったからな。」
「..........ほぇ。」
目が点になるナミに冷静に突っ込む。
「現実から目を背けるな。間抜けヅラするんじゃない。」
ローが魂が抜けたようなナミの頬を刺青の手でペチペチと叩いた。
「だっ....、ほっ.....!?」
「お前がむかついてむかついて頭から離れなかった。何なら今もムカついてる。鷹の目の女かと思いきやロロノア屋とも関係があると言うし、その服も悪くないが、俺はお前の肌が見たい。」
「はっ....?や.......」
「人間に戻れ。ちゃんとしゃべれ。」
「にっ....にんげ......」
プシューと力が抜けそうになっていると、クンと、いい香りがした。
ナミは正気を取り戻して、長い睫毛で瞬いた。
「ロー。」
ナミはローの顔を見上げた。
こんな、色の目をしてたのか。
そう思って、ローは見つめてくるその瞳に耐えられず赤くなった。
こんなに正面から見つめられるのは、初めてな気がする。
海図を見る鋭い目がいい。
怒って歪められる眉がいい。
負けじと挑んでくる唇がいい。
たまにきょとんとする仕草がいい。
そう思って、見ていた自分に気づいたけど。
でも、こんなに見つめ合うのが難しいとは。
心臓が自分の物ではなくなったように、勝手に脈拍を速くする。
盗られた?
泥棒猫だから?
「ロー、あのね.....」
ナミは長い睫毛を瞬かせて、何か言おうとしている。
まさか。
ナミも、俺を好きだったのか。
そうじゃないかとは思っていた。
いつも自分に対して怒っているし、その視線を釘付けにすることに成功していたから。
「ーー雨が降るの。離してくれない?」
頭の中では、ローはもうナミを裸に剥いて組み敷いていたので、現実に引き戻されてえっ、と声が出た。
「だからっ!雨の匂いがするから離してって言ってるの!降るのよ五分後に!あんたは左舷に行って船体を左に!はい、動く!!」
可哀想な男は呆然としながら手を離した。
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