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□14.心臓
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14.心臓









無事ローのグラスに、瓶に残るウォッカを全部注ぐことができたので、ナミはご機嫌だった。

ローは辟易しながらひとくち口に含むが、隣のザルは水かと思うほどごくごく喉を鳴らしている。

「......ちゃんと飲んでる?」

ジロリと睨めつけてくるナミに、これではどちらが上司役だったか、と思いながら見る。

下着をつけていないので、胸の先端が丸わかりだった。

だって下着は自分が持っていたので。

失くなったことに不審感を抱いていない女が心配になる。
そんなんで大丈夫か?と。

失恋につけ込みたいのは山々だったけども、話を聞いてやろうと思ったのは本当だった。だからわざと風呂場に忘れ物の口実を作って。

むかつくけど、一緒に酒を飲むのは楽しかった。
北の海の酒を選んで飲ませて来るのも、気がきいていてこの女らしい。

ーー泣いていた訳を、聞いたら教えてくれるのだろうか。

聞いたら落ち込むのだろうか、自分は。


「全然減ってない!」

「減ってる。ちゃんと飲んでる。」

「そんなちびちびで味わかるの?」

「お前はもっと酒を味わって飲め。水じゃねぇんだぞ。アルコールの大量摂取は....」

「ちゃんと味わってるもん!ローはいつも文句ばっかり!」

いつの間にか、お互いの呼び方が変わっていることも、どう思っているんだろう。

ローは女の風呂上がりの匂いに動揺しながら、そんなことを思う。

「文句じゃねェ。忠言だ。」

「フン!ローのばーか、ばーか。」

「んっとにかわいくねーな。」

「どーせかわいくないですよ!!」


ナミは突然止まってじっと床を見た。

もっと、可愛かったらよかった。

そしたら何か変わっていたのか。




「いや、嘘だ」

ローがナミの様子を見てポツリと言った。
酔っている?酔ってるな。
こんなことを自分が言うなんて。


「可愛いと思ってる。」


ナミは目を見開いてローを見た。
ちょっと前後不覚になっているが、ローがこっちを見ていた。


「な、なによ....いっつも可愛くないって言うくせに....」

「そうだな。」

「いっつも姑みたいに文句言うくせに....」

「誰が姑だ。」

「や、私....」

今までなら全力で抵抗されていた気がするが。
ローはぽすりとナミの体を抱きしめてみた。
柔らかくて温かい身体だった。

「....っ、う......っ、」

ちゃんと泣かないといけなかった。

引きずっていたのは、だからだと言う気がした。

泣いていいと言われているみたいだった。

嬉しかった。
体温からローの意外な優しさを感じて、腹を立ててむかついていたのが嘘のようで。


しばらく泣いたら、落ち着いて来て、ナミはローの顔を見上げた。

相変わらず仏頂面で隈を刻んでいる。

「ごめ....なに?」

思わずナミは謝ってしまって、ぎこちなく笑った。

「.....むかつく。」

「....?」

「人の腕で他の男のこと考えやがって。ばーか。」

「....あんた酔ってるでしょ。」

「酔ってねぇ。」

「.....でも、優しい。」

ありがとう。とナミが胸に頬を寄せた。

心臓の音が聞こえたが、驚くほど、その鼓動が速かったので、ナミは二度見ならぬ二度聞きしてしまった。


本当に、見た目では判断できない。

こんなに無愛想な顔をしているのに、内実は全然違う。

悪いのは口だけで、ただの優しい男なんだ。

「心臓、速いわね。」

「うるせえな。」

「なんで?」

「....お前が下着つけてねぇからじゃねぇのか。」

ナミは赤くなった。

「気づいてたの?」

「俺の忍耐力に感謝して欲しいもんだ。」

ナミは胸を腕で隠して空中を見た。
目が泳ぐ。
何故か感謝しなければならないような気になって、口を尖らせる。

「あ、あり...?」

「礼には及ばない。盗ったのは俺だしな。」

「は?」

「下着」

ぴらっと黒の下着を見せて、ドヤ顔を見せてくるローにナミは声にならない悲鳴を上げながらそれをもぎ取った。

「あああああんた本当に何してんの!?」

「狼狽えるな、拾ったんだ。」

全く納得できないが、部屋から持ってくるのを忘れた訳じゃなかったんだとナミが顔を真っ赤に染める。

「も、もっ、ほんとに、あんた、何なの!?」

「どうやらお前の下着と縁があるらしいな。」

「どんな縁よ!」






ローといると、元気になる。

今日だけは、1人で過ごさずに済んでよかったと、ナミは思ったのだった。









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