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□15.解読
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15.解読
この前の時化は、なんとなく島が近くにある予兆のような気がしていた。
次の日展望台から島を見つけたナミは、すぐにルフィとローに寄港するかの相談をする。
一応ドレスローザを目指している最中の航海なので、島があるからと言って気軽に立ち寄れる旅路ではない気がしていたが。
「やったーー!!島だーー!!上陸ーーー!!!」
「待て、麦わら屋!!今どんな状況かわかってるのか!?」
「うーーん、やっぱりこうなったか...」
ルフィの様子にナミは頭を抱える。
朝早くから珍しくルフィが起きているからおかしいと思ったが、流石新しい冒険への嗅覚が凄まじい。
「ナ、ナ、ナミさん....」
同じく朝の早いサンジがよろよろとダイニングから出てくるのを見て、ナミがその様子に驚く。
「冷蔵庫が....空っぽです.......」
起き出した麦わらの一味が、保存された現場、空の冷蔵庫が開け放たれたダイニングに集合していた。
犯人は、こちらの初動が悪かった為逃亡している。
(ナミが思わず怒号を飛ばしてしまった為。)
「とうとう鍵が解読されたのね.....」
「俺ぁ、いつかこの日が来ると思ってた....!」
ぽつりと呟いたナミの声にウソップが男泣きに泣いた。
鍵の番号は7326。
ない頭をひねって考えたのだろう。
確かに勘がよければすぐにわかりそうなものだが、今日まで無事だったところを見ると、とうとう答えに辿り着かれてしまったと言うところだ。
「あら、皆んな、早いのね。どうしたの?」
「ロビン!」
「昨夜未明、鍵を解読された冷蔵庫の中の食物が忽然と消える事件が勃発。」
フランキーが粛々と解説した。
「犯人は現在マスト上に逃亡中よ。ロビンよろしく。捕まえて。」
と言うわけで、否が応でも島に上陸しなければならないことになってしまった。
「....................」
「ロー、仕方ないわよ。予定が狂って悪いけど.....」
手すりに掴まってぶすっと海を見ているローに、ナミが声をかけた。
ドレスローザまでの航海は船を飛ばしてもまだ3日はかかると言うし、子供のリュウノスケも乗っているので食料がないと言う事態は避けなければならなかった。
「うちの船長が、ごめんね?」
昨日の一件でナミはローに感謝していたので、のこのことローの隣にやって来て言った。
昨日は結局、ローが酔い潰れてそのままソファーに撃沈してお開きになったのだ。
「昨日、どうなった。」
「え?」
「....俺が寝たのか。」
勿体ねぇ。
まだ抱きしめた柔らかい体の感覚が残っている。
「うん。でも、私嬉しかったよ。」
ナミが少しだけ頬をピンク色にして、手すりを指で弄りながら言った。
「あんたはベロベロになってて、多分覚えてないと思うけど、ずっっっっっっと私を可愛い、可愛いって言ってたのよ。人の膝を勝手に枕にしてね。もー、人が変わったのかと思ってびっくりしちゃった。」
猫のように、頭や背中を撫でて。
「....!?......!?」
「そう、だから私の可愛さに免じて、許してね。」
ナミはご機嫌そうにローの背中にぽん、と触れた。
今日は半袖のワンピースを着ている。
凍てついた心は少し溶けたようだった。
ローに背を向けて寄港の準備をする。
マスト付近で捕獲されたルフィがギャーギャー暴れていた。
「....冗談だろ。」
「そういうことにしといてあげてもいいわ。」
少し振り返って笑ったナミはまた立ち去った。
ルフィに処断を下さなければならなかったからだ。
全くそんな恥ずかしい記憶のないローは、呆然としてそのまま大きくなる島を見ていた。
ゾロは大きなあくびをひとつして、夜通し起きていた目を擦った。
昨日、風呂から出て来たナミを捕まえようと女部屋が見えるところに陣取って鍛錬していたが、タイミングが悪かったのか会うことができず、今から寝ようと言うところだった。
ロビンが腕と言う腕を咲かせてルフィを捕まえる現場に遭遇して、何事だとぼーっと見ていた。
「ーーだから、私の可愛さに免じて許してね。」
ナミの声が聞こえてそちらに目をやる。
ローと隣り合って、手すりにもたれていた。
そして、ナミが、ローに触れた。
ぽんと、男の背中に小さな手のひらが触れただけ。
ただそれだけ、だけれど。
ーーこんな気持ちだったのか。
ゴースト女と居た時、メガネ大佐を担いだ時、自分も確かに、ナミ以外の女に触れられて触れた。のだろう、意識すらしていなかったから。
そんなつもりもない。
自分の心にはちゃんとたった一人の女が決まっていたとしても。
関係ない、と言う気がした。
ナミにとっては関係がなかったのだ。
例えば、それが2年話すこともできず、会うこともできなかった期間を経ていれば尚のこと。
しかも自分が焦っているのは。
ーー似ているからだ。
トラ男とナミの関係が、昔の自分とナミに似ていたからだ。
ああやって、少しずつ距離が縮まっていくのすら似ていた。
ゾロは眉間に深く深く皺を刻んだ。
気づけば島が間近に迫っていたので立ち寄るのだろう。
ナミが寄港の指揮をとっていた。
どうしてこうなっちまったんだ。
誰も悪くない気さえするのに、
どこかで掛け違えたボタンが外せなくなっている。
辛かったんだな。
俺を想ってくれていたから。
でも。
俺だって、辛かった。
鷹の目と一緒にいたのを見て、あまつさえ、抱かれて来たと宣言されて。
男がどんなに尊厳を傷つけられるか、わからないんだろう。
嘘か本当かわからないが、上手く聞き出す言葉を持たない俺が悪かったのか。
でも、好きだ。
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