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□16.片眼
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16.片眼
ルフィの処分は、外出禁止だった。
しくしくと泣いているのでかわいそうに思い仏心を出しそうになるが、もう一つ問題が出てきたあたりでそう言った情けは完全に消え失せた。
この船にはお金がない。
「ログは2週間とか、関係なさそうだから良かったけど....」
シーザー奪還にいつドフラミンゴに大軍を差し向けられてもおかしくない状況だ。
うかうかもたもたはしていられない。
「この島の産業は、リゾートだとか、観光が主だそうよ。だから海賊への対応は緩いけれど....困ったわね。」
全く困ってなさそうに言うロビンに、ナミとサンジが息を吐く。
食費の問題はいつもこの2人を悩ませているのだ。
「この手は使いたくなかったけど、仕方ないわね....」
「ナミさん!何する気!?」
サンジがエプロンを握りしめ、床に座り込んで、まるで一家の大黒柱が出て行こうとするのを止める、乳飲み子を抱える主婦になっていた。昭和の。
だって、稼げそうな人物がいない。
全くと言って良いほどいない。
ナミは自室に戻ってクローゼットをひっくり返した。
ミホークにもらったドレスと宝石を身につけて、颯爽と現れる。
「あら綺麗ね。」
「リゾートならカジノくらいあるでしょ。一発当ててくる。」
「じゃあおれ!エスコートする!!」
「ついて来ないで!ツキが落ちるから。」
サンジに言い放って、コートを肩に掛ける姿は男らしかった。
もはや勝負師の目をしている。
「やだナミさん、かっこいい...」
「一見お断りのとこはね、男連れだと入れなかったりするのよ。女一人の方が何かと便利。」
ナミは惚れ惚れするような鋭い目で、ヒールの紐を足首に編み上げた。
「ルフィ以外は島に出てもいいわよ。明日の朝までにはお金を作るわ。」
みんなの期待を一身に背負って大黒柱は出発した。
船の上からみんなでハンカチを振っていると、マリモヘッドがナミの後ろをとことこと歩いている。
「あんのマリモ〜〜!全く話聞いてねぇから....」
ぬけがけしやがってーーーとサンジが叫んでいる頃、ゾロはナミに追いついて声をかけた。
「おい、ナミ!」
細い腕を掴む。
肌に触れたのは、本当に久しぶりだった。
「...なに?ついて来ないでって言ったのに。」
「話がしたい。」
「そう、じゃ一緒に行きましょ。」
本当に一緒に行くだけだった。
ナミは一言も喋らず、ゾロも何を言っていいかわからなかった。
今までどれほど、ナミに助けられていたかがわかる。
「...綺麗だな。」
「.....!?」
「....その、似合ってる.....」
お世辞なんか言えないので、思ったことを言ってみた。
ナミはギクッとして、口を開くべきか悩んだ。
これは、ミホークにもらったドレスなのだから。
「...どういう風の吹き回し?何を企んでるの?」
「何も...俺はただ」
言えなかったことを言わなければならなかった。
わかっているだろうとタカを括って、伝えてこなかった言葉を。
「お前が好きだ。まだ。ずっと。」
ナミは息を飲んだ。
なんで、今更。
ナミは立ち止まった。
「.....今の今まで、言ってくれなかったくせに。」
「お前だって」
「.....あんたを探した酒場の帰りに、誰かとホテルに入るあんたを見てしまわなければね....」
ナミは遠くを見つめた。
「....ごめんね。」
大好きだった。
「...もう無理なのか」
「.........」
好きって、どんな気持ちだったろう。
ドキドキして、わくわくして、姿を見るだけで幸せで、ずっとそばにいたくて。
想うだけで、自然と笑顔になってしまう恋をして来た。
ナミはそんな気持ちを思い出せなくて、泣きそうになった。
そんな、いい恋をしていたんだと、切なくなって。
「....わかった」
ゾロの静かな言葉にナミは痛みを我慢するように目を閉じた。
「全部やり直すぞ」
ぐい、と引っ張られて、細いヒールにバランスを崩す。
驚いて目を開けると自分の手を、無骨な男の手が包み込んでいた。
体温が急激に上がる。
ナミは真っ赤になって引っ張る男の背中を追った。
「え.....っ」
手をつないでる。
こんなの、いつ振りだろう。
「イチから、俺を見て決めろ。お前に嫌な思いをさせたことは...謝る。お前が安心できるように、するから」
だからお前も、俺だけを見ろと言うのは、傲慢なんだろうか。
「ちょ、ちょっと待って....」
本気なの?
私だって、あんたの嫌がることをして来たのに。
ナミの問いにこくりと頷く。
昔とは違って片眼になった男の、瞳の奥を読む。
片眼になっても、相変わらず、嘘のつけない眼は変わっていないと、ナミは思った。
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