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□17.女王
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17.女王








カジノの大きな柱の前で壁の花になる女に、目を奪われない男はいなかった。

招待やそれなりの身分がなければ入ることのできない施設で、入場を勝ち得るために出入りする男にナミは目を光らせる。


しかしその必要はなかった。

黒服のスタッフが2人もやって来て、中へどうぞと、オーナーの意向ですと言うのだから。

ナミはロビンにもらったクロコダイルの宝石をひとつ、換金した。

これ一つでは1週間分の食糧にしかならないと言うのだから驚きだ。
質もよく大振りな宝石で出来れば手放したくなかったが、もう数個しかないその中でも一番優先度の低いものを選んで。



ナミはロングドレスの裾を捌きながら慣れた所作でルーレット台に近づく。
ルーレットはカジノの女王様。
近代のスロットやカードより、ナミが好むのはその羅針盤のような造形で、またナミの目にしか見えないものがあるからだった。

何人かのディーラーを見て、クセの出やすい台に近寄ると、隣の男が仰け反ってごくりと唾を飲んだ。
そんなことには目もくれずにナミは手の中でチップを弄ぶ。

2回、赤に賭けて親の手元を見ていた。
球を投げるタイミング、手から離れる速度、かかる回転を加味して何処に落ちるか。

3回目、球を投げた瞬間にナミは36倍配当の隣り合う数字に5枚ベットした。

そしてその後10回に渡って配当を得続けた。

周りに人が集まり始める。

勝負師の女がいる。

それも特大の黒い宝石を身につけたセクシーな女が。

(上々だわ。)

ナミが引き時を考え始めていると、背後の人だかりが割れた。

この台はもはや親とサシの勝負になっていたので、隣にどかっと座った人間に驚いてナミは横を見る。

「オーナーだ...」

「オーナーのドフラミンゴだ」

周囲のざわめきに情報が漏れる。

まさか。
このカジノの座元が、ドンキホーテ・ドフラミンゴだなんて。

「フッフッ、随分稼いだなァ、お嬢さん。」

楽しそうに話す男にナミは戦慄した。

ジョーカーの名を知り、シーザーの身柄を押さえている一味だとバレればどうなるか。

「.....今日は、ツイてるわ。」

「そうだろうとも。」

ドフラミンゴは上等な羽のコートを羽織って得体の知れない笑いを浮かべていた。


「俺もそうだ。俺に楯突いた人間を手玉に取れるんだからな。」

ナミは悟られないように唾を飲んだが、汗が滲んでいた。
やばい。
バレているし、命が危ない。

そう思ったのに、ドフラミンゴは自分の持っていたチップを賭け始めた。
カジノに結構な損失を出してしまったディーラーは大量の汗をかいて拭くこともできずにいる。

球が見事7に落ち、ドフラミンゴのチップが36倍に増えた。

「狙い通りだな。いい腕だ。」

ディーラーを褒めると、命が助かったと言う様子でディーラーは汗を拭った。

「となると、やはりお前が厄介だ。ゾクゾクする目をしやがって。」

ドフラミンゴは次に3を賭けたので、やはりこれはバレている。
そして、女として値踏みをされている、という気さえする。

「鷹の目の女なんだろ?」

また球は3に落ちて、ドフラミンゴは楽しそうに笑った。
ナミは無意識のうちに台に手を置いて、目を泳がせる。体を守ろうとする意思が働いた。

「ひ、人の女を寝取るのが趣味なの?」

「そうだよ。」

「外道ね。」

「相手が嫌いな男であればあるほど興奮するぜ」

「ざ、残念だけど、私誰の女でもないし...っ」

びくびくと肉食獣の嗜好から遠ざかろうとする女に、ドフラミンゴは舌舐めずりをした。

「人が欲しいものを奪うのも好きなんでな」

「へーいいご趣味してるのね。」

「お褒め頂き光栄だ。」

「お褒め差し上げてないわ。私忙しいから、もう帰ってくれない?」

もはや弱々しい希望を強がりで口にしてみる。

「そういう訳には行かない。お前がローと同盟を組む麦わらの一味である限りな。お前には利用価値があり、囮にも人質にもなる。シーザーとの交換にしてもいい。話しが速くて助かるぜ。
嫌いな男の女を無理やり抱くのも悪くねぇしな。」

「最低.....!」

「なんとでも。」

ナミは絶対に貞操と命を守ることを決心して、発起した。
そうだ、きっとゾロもまだ近くにいる。

「そんなこと言って、うかうか連れてかれると思う?」

「ああ思うね。」

「抵抗されるとは思わないのかしら。」

「フッフッ」

ドフラミンゴが笑うと、ナミの体は自分の意思とは無関係に動き出した。

「....!?なに?体が勝手に...!」

「フッ」

細い白い手は、緑のラシャの上を滑って山のように積み上げられたチップを黒に置いた。

ナミはヒッと息を飲む。


「ちょっと待って黒じゃないわよ!ばかねっ!賭けるなら赤に賭けて!!」

ナミがすごい剣幕で叫ぶと、勝手に動く体はおとなしくチップを赤に移動させた。

「............」

「ほらね、言った通りでしょ。」

「親が気をきかせたんだろ。」

「玉が手を離れた後に?それはすごいわね。」

ドフラミンゴはナミの顎を掴んだ。

「面白い女だ。」

「私に触る時は許可を得てくれない?あんたに許可は出さないけど。」

「フッ、海賊にそんなもんが通用するか。お前も同じ穴の狢だろう。」

そう言うとドフラミンゴは黒服に話しかける。

「おい、部屋の用意はできたのか。」

「懐剣って知ってるかしら。」

「舌を噛み千切るくらい訳ないってか?いい覚悟だ。」

操られる可能性を考えていないところが、かわいらしい。
何を言っても小動物の遠吠えだ。


「さ、今からお前は俺の女だ。レディーらしく頼む。」











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