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□21.engage
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21.engage
ゾロEND
ナミがドレスローザまでの航海計画を発表して、ゾロはその役割の配分に疑問を持った。
ドフラミンゴの追撃を阻止する為に、迂回して遠回りをするようなことを言っていたが、それでも先を急ぐ強行軍は航海士の負担が大きいのではないのかと。
「そんなこと?そんなの今に始まったことじゃないじゃない。ルフィが同盟組む、四皇倒すって言った時から私の負担はずっと大っきいわよ。時化の時には寝てるようなクルーもいることだし。」
皮肉を言って、ちらりとゾロを見る。
「でもお前、ちゃんと寝ろよ。昨日も起きてたんだろ。海は休んじゃくれねぇしよ。」
「うるさいわねー。わかってるわよ。」
ナミはずっと、ゾロに対して普通にできるのか不安に思っていた。
しかし、カジノへ行く道すがら、ゾロの気持ちを知って、拍子抜けしていた。
タイミングや、すれ違いは怖い。
思い込んでしまう自分も、確かめられない未熟さも、間 好きなのに身を引く過ちも。
一度外してしまったタイミングを再び合わせるのは、針に糸を通すより難しいものなのだ。
「.....でも、ありがとう。私は、大丈夫だから」
ああまた突き放すような言い方を。
ここで素直に甘えられれば、この男は受け止めてくれる器があるというのに。
「....お前が急ぐのは、やっぱりトラ男のためなのか」
ナミはパッと顔を上げた。
ゾロの声に、どこか当てつけるような色を感じて、動揺した。
もしかして、嫉妬しているのだろうか。
そんなつもりはなかったけれど、ゾロの目にはそう映っていたのだろうか。
「....違うわ。この船のためよ。そりゃもちろんローのためにもなるけど、仲間みんなのためでしょ?どうしてそんな...」
はー。と、ゾロはため息を吐いた。
「....信じて、いいんだな?それ。」
「信じても何も、そんなことで嘘なんか...」
ゾロがナミの手を取った。
そのまま強引に引っ張られて、船を歩く。
ナミの顔が耳まで赤くなった。
手をつなぐことは、ナミにとって特別なことだった。
2年前に戻ったように錯覚して、つないだ手から熱が伝わってきて、自分を引く後姿を見て、ゾロの首すじが少し赤いような気がするのも、またナミの顔を染めさせた。
「ちょっ....どうしたの」
胸がドキドキする。
ゾロが何を考えてるのかわからず、でも、胸がいっぱいになっていた。
あの日霧散して消えたと思っていたものが、湧き出てきたみたいに。
この手に、縋っていいのだと言われているみたいに。
階段を登らされて、気づけば蜜柑畑に来ていた。
畑と言っても、植樹した木が3本あるだけだけれど、ナミの大切な場所に。
ゾロが突然手を離してナミに向き直った。
蜜柑の葉がさやさやと揺れている。
「最近のトラ男とお前を見てて、やっと、お前の気持ちがちょっとはわかった気がする。」
「.....?」
「お前は、俺が他の女と居るのが嫌だったんだよな。それが、少し、わかった。」
そんなつもりはなくても。
自分にはナミだけと思っていても。
「だから.....これ」
「え......」
差し出された小さな箱を見た。
それだけで、凍てついた心が溶けて行くようだった。
ゾロはぶっきらぼうにベロアで覆われた小箱を差し出して、ナミの前で開いた。
「本番は、俺が大剣豪になったら渡す.....から、お前は、そのつもりでいろよ。」
小さな箱を見て、ナミはぽろぽろと涙をこぼした。
信じられなかった。
まさか、ゾロがこんなことをしてくれるなんて。
小箱の中にはペアの指輪が二つ並んでいた。
それほど高級なものではない。
しかし確かに、男の気持ちは伝わっている。こんなにも。
「....これ、つけてくれるの?ゾロも?」
「本当はこ、婚約指輪?にしようと思ったんだが」
「あんな宝石の山を見せられて、ダイヤだのなんだのついたやつを渡せるか、今。」
ゾロは目を逸らして数日前にも船に届けられた鷹の目からの贈り物について言ったのだった。
チョッパーが、アホウドリから大きな荷物を受け取ると、それはナミに贈られたミホークからのプレゼントだった。
宝石にドレス、目が眩みそうなアクセサリー、そしてナミの好きな酒を贈って来たのだ。
名誉と金と実力を全て持つ男の誇示。
それにどうして心が乱れずにおれようか。
「ゾロ、私、すっごく嬉しい」
そんなものつけるタイプじゃないじゃない。二人でと思ってくれたことが嬉しい。
縦爪の大きなダイヤなんかいらない。これの方がナミにはずっと価値がある。
ゾロはナミの手を取って、指輪をつけてやった。
迷わず左手の薬指に嵌めた。
蜜柑の木に見守られながら、結婚式のように。
ナミは黙ってその指を見て、うれしそうに笑った。
薬指に触れる、男の手のあたたかさを、きっと忘れることはないだろうと思う。
ぽろりと、涙が零れもした。
「ありがとう。ゾロ。」
右手で涙を拭った。
「ごめんね。2年間、あんたに会いたくて、会いたくてたまらなかった。好きだから、嫉妬して、自分の気持ちがよく分からなくなっちゃってた。あんたが他のひとを好きなら、ちゃんと忘れようと思ったの。確かめもせずに。ーーあんたにしたら、びっくりよね。でも、もうきっと、間違えないと思う....」
ナミは左手に光るシルバーのリングを見て、言った。
2年前と何ら変わらない、心から好きの気持ちが溢れている笑顔で。
「ゾロ、大好きよ。私、いっぱい間違えたけど、それでもいいって言ってくれる?他のひとに触らないでって言ってもいい?浮気しないで、ずっとそばにいて?死なないで、いなくならないでね」
「お前もな。」
ゾロもほっとしたように笑った。
ナミがゾロに抱きつく。
「私ね、これずっとつける!死ぬまでずっとつけてる!」
「ったりめーだろ」
久しぶりの、この男の胸だ。
2年前よりも筋肉がついて、また分厚くなって、ドキドキする。
ずっと触れたかったものだった。
大きな手が自分の背中に回された。
あったかくて、不器用で、大好きな男の手が。
「なんで、ここに連れてきたの...?」
ナミが胸に顔を埋めたまま聞いた。
「ぷろぽーずするなら、ここと決めてた。」
「どうして」
ーー蜜柑畑だから?
ナミの胸はまた暖かくなった。
男の愛情を感じて、愛情以上のものを感じて、目を閉じる。
「あんたには言ったことなかったけど」
「この蜜柑の木はね、母の形見なの。」
「そうか。」
知らなかったけれど、これがナミの大切なものであることだけは、ゾロにもわかっていた。
ーーそれが、嬉しい。
「.....鷹の目にも、トラ男にも、お前を渡したくなかった。」
久しぶりに一夜を共に過ごせたベッドで、唐突にゾロが言った。
「うん?」
ナミが布団の中から出てきて天井を見るゾロの横顔を見た。
「鷹の目はともかく....トラ男は俺と似てる気がする。お前をうるさいと思ってるとことか。」
「はぁ?」
「だから、本当に持ってかれちまうんじゃないかとこわかった。初めて。」
ナミはちょっと体を横向きにして、ゾロの脇をつついた。
「....らしくないわね。変なものでも食べた?」
「うるせぇな。食ってねぇよ。」
ゾロは言いながらごろりと体を起こしてナミに覆い被さった。
「コンヤクしたんだから、もう文句は言わせねぇからな。」
「すごいカタコトね。意味わかってるの、あ、」
「うるせぇ、ずっと一緒にいるってことだろーが。」
一生を、死が二人を別つまで。
「んっ、ズルい...っ、そんな、言われたら、う、うれし...」
真っ赤に染まり始めた肌の至る所に口づける。
「あっ、ゾロ、だいす、き」
「.......俺も」
綺麗だと思う。
暗闇に白く浮かび上がる体も、笑う唇も、自分を真っ直ぐ見てくる目も、その全てが。
指輪の指を重ねてナミが幸せそうに笑う。
どうして、その顔を見ると自分はこんなに幸せになるのだろうと思う。
何度間違ってもいい。
この気持ちがあれば、何だって越えて行ける。
大好きだから。愛しているから。
ゾロは自分の左手を見た。
自分がこれをつける日が来るとはなと思った。だが、意外に馴染んで悪くない。
薬指を僅かに動かすと、指輪は即ち、キラリと光った。
End