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「サンジくん、大好き。」

「ナ、ナミさん、俺もだよ。」

ナミはもじもじしながらサンジの横にやって来てすり寄った。
タンクトップ一枚の姿で、腕をサンジにすり寄せて谷間を見せて。

「今日ね.....夜はロビンが見張りなの。だから.....」

私の部屋に、来ない?と赤い唇が動く。


「あ、あーーー!!俺、さっき釣ったマグロの解体しないといけないんだったー!!いっけねー!忘れるとこだったー!ナミさんありがとー!」

サンジは後ずさってキッチンを出て行ってしまった。

まぐろ....?
ナミは呆然として男を追った手を宙に彷徨わせた。





「あっ、サンジくん、お風呂?」

測量室ではナミが作業をしていて、サンジが着替えを持って現れたのに笑顔で手を止めた。
とことこと男に近寄って手を繋ごうと、何なら抱きつこうと、ナミは尻尾がもしついているなら振り切れんばかりにパタパタとさせて。

「ね、私も一緒に......」

「う、うわーー!!ごめん、ちょっと調子が!腹の!!ナミさん、ごめんね!」

そう言うと剃を使う勢いで上階に飛び上がって、いなくなってしまった。
風呂が終わった後も、窓から外へ出たらしく測量室に降りて来ることはなかった。





「サンジくん、あの、もし暇なら」

昼下がりのキッチンで、昼食の喧騒を終えて一服しているサンジにナミが言った。
少しおどおどしながら、それでも勇気を出して言う。

「一緒に過ごさないかなぁ...って。私の部屋に来ない?」

「あ、あ、あーーー!!ごめんナミさん!!俺、俺、そう!!衣替えを!!しないと!最近寒くなってきたし!!」

「え.....まだ、9月だけど....」

問い詰める暇もなく、サンジはキッチンを出て行ってしまったので、ナミは怒りをぶつける間もなかった。











「.....ねー、ロビン。」

「なぁに?悩み事?」

「私魅力ないのかなぁ、男からしたら。」

ロビンはずるっと肩を落とした。
出しても出しても有り余るほどの魅力を振りまいていると思うが、どうやら悩みは思ったより深刻らしい。

ナミは手鏡を自分の前に持ってきて、写る自分にはぁ、とため息を吐いた。

「自分で見ると、可愛いかな?って思うんだけどね。女と男は違うって言うし、現に、この船の奴らときたらそう言うのを解さない男たちばっかりでしょ。自信なくすことばかりよ」

はは、と笑って言うナミはらしくなかった。

自信に満ち溢れる彼女が好きなのに、溌剌とする彼女が好きなのに、何故そんなことを言い出すのか。

「....もしかして、サンジと....何かあったの?」

「.....気づいてたの?」

ナミは肩を竦めて上目遣いで伺うようにロビンを見た。
サンジと付き合っていることを、何とは無しに言ったことはなかったけど。

「何かあったって訳じゃないの。でも.....」

ロビンの胸がずきんと傷んだ。
ナミの横顔が、本当に寂しげだったからだ。

「最近、明らかに避けられてるの。」

マグロの解体だの、腹痛だの、衣替えだの、笑わせないで。

避けられている。
あんなに愛を囁いて、囁かれていたのに、やんわりと拒絶されて、もう心が折れそうだ。


最初は私の方が、追いかけられる側だった。
尻尾を振って付いてくる男が可愛くて、いつの間にか好きになっていて、今では私の方が尻尾を振っている有様で。

だって、大好きになった。
どんなに大切にされているかわかって、幸せで。
できる限り一緒にいたくて、色々と心尽くして来たけれど。






「.....私、フラれるのかなぁ.....」

考えると、涙がポロポロ出てきてしまった。

ロビンが横に座って優しく背中を撫でる。

「ナミ。あなたが魅力的でないことなんか、あり得ないわ。きっとコックさん....疲れているのよ。一番忙しい人だもの。あなたも、考え過ぎているわ。少し休んで。」

「......うん、ありがとう...」



部屋を後にしたロビンは、怒りに震えた。
ナミを、あれほど傷つける人間がいるなんて。
今もきっと、ベッドにうつ伏せて泣いているのだろうに。


許せない。


ロビンは傍目にもわかってしまうほど、恐ろしい表情で暗雲を背負っていた。


何故こんなに腹が立つのだろう。

何故こんなに黒い感情が心の中に渦巻くのだろう。

ロビンは真っ直ぐにキッチンに歩いて行く。
角を最短に直角で素早く曲がるので、目撃したチョッパーが驚いて目を剥いた。

ガチャリとダイニングの扉を開けると同時に、高圧的にロビンは口を開いた。

「ちょっと。あなた。」

「あ!るおびんちゅわ〜ん!どうしたの?飲み物?食べ物?それとも俺?なーんつっ......ぶ」

「無駄な口上はいいわ。どういうこと?あの娘、部屋で泣いているのよ。」

ロビンがサンジの肩に手を生やしてその減らず口を力の限り、握り潰すつもりで掴んだ。

サンジは手を生やされたままダイニングの椅子にどかっと座ってだらりと腕を降ろした。

「......それは......本当に....申し開きもねェ......」

「あなたのことなんて、どうでもいいのよ。問題は、あのコは悲しんでいて、今、部屋で泣いているという事実だけ。これがどういうことだかわかるかしら。私、人生でこんなに腹立たしかったのは生まれて初めてだわ。」

「......」

普段寡黙なロビンが、饒舌に喋っている。

「あのコにあんなに愛されて、なんの不満があるって言うの。あなたがあのコを愛してることなんてわかっていたけど、じゃあ何故こんなことになるのかしら?そんな、風になるのだったらもう、あの娘を解放してあげて頂戴。私、耐えられそうにないわ。だって、あのコが泣いてるのを見ると私......」

胸が痛くて、耐えられない。

「.......そうか。ロビンちゃんも、彼女を......」


サンジが得心した様子で言うので、ロビンは珍しくも顔に動揺を走らせた。

「なにを.....」

「そっか、でも。」

咲いた手に開放されたサンジはタバコに火をつけた。

「あの人だけは、離すことは出来ない。」

「だったら...!じゃあ何故彼女を避けるの」

「それは....話せない。」

「....あなた、問題を解決するつもりがあるの?」

ロビンは動揺していた。
自分の中に芽生えた、気づきつつある気持ちに。


そんな、つもりなら、私だって。

あの娘に振り向いて欲しい。



え.....?

こんな事を思うなんて、私は。




ロビンは自分の気持ちに気づいて呆然として、テーブルを挟んでふらふらサンジの前に座った。

2人はお互い、自分の内情に向き合うことに必死で沈黙した。




項垂れて、2人には深刻な雰囲気が流れていた。



痴話喧嘩する男女のようだと、少なくとも、ナミにはそう見えるくらい。




「.....なに、してるの、2人で....」

ダイニングの扉を少しだけ開けて、オレンジ色が伺うようにこちらを見ていた。

「ナミさ.....」

「ナミ....っ」




2人がぎくっとしたのが、怪しかった。


ーー私が知らなかっただけで、2人は良い関係だったのかな。

ちょうど、避けられ出したのは、そのせいだったのかな。

私ったら、邪魔して



「.....ごめんなさいっ....」



ナミは2人が追いつけないくらい素早く逃げて、測量室に鍵をかけて閉じこもった。










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