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3.
世の中の光がみんな隠れてしまったみたいだった。
ロビンはそわそわと、自分の目を至るところに咲かせながらーー動揺し過ぎて、目以外のものも咲かせていたかもしれないーーナミの様子を伺っていた。
ああ、変に誤解させて、傷つけてしまったかも。
測量室にいることはわかっても、聡い彼女のこと、部屋の中に何か咲かせでもしたらすぐに気づかれてしまうと、部屋の外で目をキョロキョロ咲かせて。
日誌を書いては、何度もため息をついて、最後はうとうとと寝てしまったところまでナミの様子を外からばっちり見ていた。
一度だけドアノブを回して、鍵が掛けられていることを知ってしまった。
天岩戸だと。
サンジも夕食の仕度の合間に様子を見に行ったようだけれど、そんなのはもうどうでもいい。
誤解を解きたい。
今すぐに。
ロビンはナミが気になって気になって、測量室を見上げられる甲板に出て座っていた。
「あれっ、ロビン。外にいるなんて珍しーなー!」
お腹いっぱいになったルフィが食後の運動とばかりに体を伸ばしたり縮めたりしていた。
「何してんだ?」
「特に何をしてると言う訳でもないわ。」
悩みごとが無さそうで羨ましい。
私は人生初の難問に直面してどうしていいかわからないと言うのに。
「なー、次の島まだなのかなァ。」
「さあ、それはナミに聞いてみないと....」
ナミ、と口にするだけで胸がズキリとする。
ロビンは胸を押さえた。
「ナミか〜!こえ〜なー!この前サンジにすげー怒られてから、おれがナミに近寄るとあいつ俺のおかず減らすんだよな!」
プンスカと船長が言うので、ロビンは訝しんだ。
「あなたサンジに何をしたの?」
「何もしてねーよー!」
ルフィが口を尖らせる。
「ただ、サンジが持ってた風船膨らましたんだ、チョッパーと。すげーいっぱいあったから、おれのベッドを風船風呂にして....」
.......................なるほど。
ロビンは問題の根本を把握して息を吐いた。
それはもう、色んなことに落胆した長いため息だった。
私となら、そんなことにはならないのに。
そう思わずにいられず、悶々として月を見上げたのだった。
「んー、おいしー!」
ナミは空きっ腹に飲んでいるので、いつもより少し顔が赤い。
もう2人で3本は空けてしまって、ナミは自分のコレクションの中から選りすぐりの強いものを選んでいるので、ゾロでも少し頭がぼうっとするほどだ。
「あんたとじゃなきゃ、このペースでは飲めないわね。みーんな潰れちゃうもん。」
「...何人も潰してそーでこえーよ。」
あら知りたい?とナミがしなを作るので、手を振ってあしらった。
酔ったナミはこういうことをたまにする。
「私、初めてだったのよ。」
ナミがグラスを見ながら笑って言った。
「誰かと付き合うのは。それで、私も色々変わったと思う。昔より、女らしくなったと思うし。」
ナミは持っているグラスを見つめた。
「でもね、何でだろう。避けられてるの。ここ何日かね。私が気づかなかっただけかな。もっと前からだったのかも。でも、ロビンと付き合ってるなら、言ってくれれば良かったのに....」
「ハァ?コックが?ロビンと?」
「さっき何か...深刻そうに話してたから....」
二人きりで。
「いやいや.....普通に話してただけかもしんねぇだろ。」
「....そっか、そうよね。」
コックとくっつくのは嫌だけれども、ナミの落ち込む顔を見るのも嫌で恋敵寄りの意見を言ってしまう自分に驚く。
ゾロは女々しいことを考える自分に嫌気がさしてグラスを煽った。
「でも、何で避けられるんだと思う?」
「そもそも本当に避けられてるのかよ。お前の思い込みじゃ...」
「マグロの解体とか、衣替えがあるからとか言って避けるのよ?まだ暑いのに。変な言い訳...」
ナミは息を吐いた。
アルコールが回った呼気は、熱くて甘い。
「私、魅力ないのかな。でも、ロビンを見てると、余計そう思うの。あんたに言ってもしょうがないけど...」
ナミは笑っているのに、本当に頼りなげな様子で、くらくらしていた。
頭が振れているので、ゾロが横に座って支える。
「お前...飲み過ぎだ。もうやめとけ。」
「ん......やだよーだ。忘れるまで飲むの。」
そう言って煽る。少し色づいた爪。
「あんたはどう思う?魅力ないと思う?」
「ーーーーーある。」
ナミはきょとんとした。
「ある。あるから、もうやめとけ。」
頭をわしわし撫でてくるゾロに、ナミが笑う。
「なぁに〜?ゾロ、うれしい、ありがと」
今度は逆にナミがゾロの頭を撫でた。
がしがし力強く撫でて、チョッパーにするように頭を抱きしめるので、胸が顔に当たって何とも言えない気分になる。
「.......」
色んなことを叱らねばならない。
密室で2人きりの男にそんなことをしてはいけないとか、密室で2人きりの男にそんなことをしてはいけないとか。
「ゾロは私のこと嫌い?」
「...好きだよ。」
「ほんと?わたしも〜!」
ナミは楽しそうに言った。
寂しさの隙間を埋めているのだと、わかる。
わかるけど。
「もうやめとけって言っただろ。」
ナミのグラスを持つ手を取って強く言った。
すると、ナミはくしゃくしゃと泣いた。
「なんでぇ〜....」
「うっ、あっ、泣くな.....っ」
「うえええ」
涙をぽろぽろ零すナミに、剣士は狼狽えた。
「なんで、みんな、私を避けるの....私、なにかしたの。サンジくんに、愛されてると思ってたのに。サンジ...サンジ〜...」
泣き顔を隠そうともせず、グラスを大事そうに抱えて。
「..........」
思いや努力だけでは何ともならないことが、この世にあるのだと初めて知る。
振り向かれない。省みられないこと。
それをされる気持ち。
それに、今までは気づきもしなかったけど。
「........おれは、避けねェよ。」
涙を頬に一筋滑らせながら、ナミが顔を上げた。
「おれなら、お前を避けたり、泣かせるようなことは...したくねェ...」
ゾロは自分が何を言うつもりなのか堪らなくなって、首を掻いて下を向いた。
「おれは、お前が...好きだから....」
視線を上げると、水分がいっぱいに溜まった瞳と目が合った。
ピクリと、腕が女を慰めようと勝手に動いたのを合図に、ゾロの上着を着た細い体が抱きついてきた。
ナミはゾロの腕の中で泣いた。
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