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5.









島さえ、どこか上陸できるような島さえあれば、問題は解決するのだ。

サンジは何度も水平線を見ては項垂れた。

島と島の間の航海は、その日数が読めない。
それでもいつも航海士の持って来る情報で安心しては、食糧の算段をつけたり、新しい島でのデートを思い描いたりして楽しかったのに、今ではこの待ち時間は地獄だ。

煙草だって無尽蔵にあるわけではないので、少し遠慮するくらいなのに。

触れたい。
話したい。
笑いかけて欲しい。

なのに真逆のことをせざるを得ない自分に、彼女を泣かせてしまった自分に、胸が引き裂かれるような痛みが走るけれど、それだって、甘んじて受けなければいけないのだ。






ナミはすっかり平静を取り戻しているように見え、いつも通りの喧騒する食事の席についた。

姿が見られることは嬉しいけれど、どこか浮かない様子のナミにサンジは声をかけようとして、やめた。

きっと、触れたくなってしまう。
愛したくなってしまう。
自分は、心と体を切り離すことができないから。

そんなサンジに、声をかけることをやめたサンジに気づいて、ナミはまた肩を落としてダイニングを出て行ってしまった。

今日こそは、今日こそはと思っていた。
いつか、サンジくんがまた話しかけてくれることをどこかで期待していた。

寂しい。

悲しい。

頭から、「なんで」が消えない。


別れたいなら、そう言ってくれればいいのに。



「あれー?ナミ、サンジ知らねぇ?」

みかんの木の剪定をしていると、ルフィがひょっこり顔を出した。

「.....知らない。」

無愛想に言うと、ルフィが訝しんだ。

「おまえら最近機嫌わりーよな〜。なんだよ二人して。」

「何にもないわよ。私は別に機嫌悪くないし。ほら、みかんあげる。」

機嫌が悪いのではない。悲しいのだ。
でも、この男にはそんなこと関係ないだろうから、みかんでも食べてもらって思考を逸らしてもらう。

「うおー!!ありがとう!!」

そうして出された手は、何か持っていた。

なにこれ、なんか見覚えのある....小さな.....


「ちょちょちょルフィ!あんた何持って歩いてるの...!?」

「あ、この風船か?まだ開けてないやつが部屋の隅っこから出てきたんだ。こないだサンジの風船全部膨らませて怒られたから、返そうと思ってよー。」

ナミはその風船とやらをピッとルフィから取り上げて、ポケットに突っ込んで隠した。

これは、由々しき事態だ。

早急に、この船の学のない男どもに、性教育を施さねばならない。


ナミは色んなことが腑に落ちて、変な使命感に燃えたのだった。









「フランキー先生です。」

「オウ、スーパーフランキー先生と呼ぶように。」

ウソップ工場にルフィ、ゾロ、ウソップ、チョッパーが集められた。

「それでは先生、よろしくお願いします。」

「任しとけ。このヒヨッコ共に心得ってもんを教えてやるから、ナミ先生は安心していいぜ。」

「ハイ。では私はこれで。」


仕方ないのだ。義務教育も受けていない、強さばかりにかまけて一般常識ゼロの男たちに最も重要なことを教えてやらねばならない。

先生には事欠かない一味でよかった。
背後でチョッパー先生がまず、人間の身体の構造と機能を教えているのを聞きながら部屋を後にした。




サンジがウソップ工場を通りかかった時、フランキー先生の講義は佳境に差し掛かっていた。

内容は主に女性の悦ばせ方になっていて、ブルックも参戦していた。

「おいおいテメェら上にいねェと思ったら....一体何してやがる。」

「ヨホー!ナミ先生から性教育を施せとお達しがあったそうですよ!そんなことならパンツ見せて下さればよろしいのに...」

「そんなことばっかり言ってるからあいつも身の危険を感じたんだろ。スーパー懸命だと思うがな。何せこいつらそっち方面にかけて知識ゼロだ。」

ウソップが過激な講義に魂が抜けたようにポカンとしていた。
チョッパーは医学的知見から講義に意見を述べたし、ルフィとゾロは鼻をほじっていた。

「は?」

「サンジ先生も講義していいぜ。お前の手管見せてくれよ。」

「しゃーねーな....ってちがーーう!」

まんざらでも無さそうだったサンジは爆発した。

「そもそも、なんで知識ゼロなんだよ!おかしいだろーがァ!!」

「よせ、童貞軍団をいじってやるな。」

「童貞ってなんだ?」

「童貞って言うのは、性交渉を行った経験がない男を指す言葉で...」

「チョッパーよせ!淡々と!」

ウソップの精神が不在なのでサンジが忙しくつっこむ。

「ふーん、性交渉ってなんだ?」

「性交渉って言うのは生殖を目的とした男女の行為のことで....」

「ふーん、生殖って...」

「もうええっちゅーんじゃ!!」

ルフィにつっこむのにサンジは肩で息をした。

「ま、とにかく避妊は大事ってこった。こいつじゃねーけどか弱いレディは大事にな。か弱いってもウチのクルーじゃピンと来ねぇかもしれねぇがとにかく、わかったな?」

フランキー先生がまとめると生徒たちは声を合わせて返事をした。

「「はーーい」」

何なんだこれは...とサンジは頭を抱えて、煙を燻らせた。












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