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□1.
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キャベツとみかん








目を覚ましたはずなのに、視界が開けることがなくてナミはえ?と声を上げた。

目隠しされている。

慌ててそれを取ろうとすると、腕が頭の上で拘束されていた。

体が固まって痛かったので、長い間この体勢だったのかもしれない。

夜眠った時には、確かに自分の部屋にいたのに。

「ロビン...?」

恐る恐る助けを求めるが、おそらくここは自室ではない。

お気に入りのボティークリームの匂いも、ロビンの摘んだ花の匂いもない。

ナミは恐怖に怯えながら、自分の知る限り最強の、男の名前を呼ぶ。
ナミにとって、彼の名前はお守りだ。
どんな時でも彼の名前を呼べば、自分は少なからず落ち着くことができた。
絶対に助けに来てくれるから。

「ルフィ、ルフィ」


そう言うのと同時に、息ができなくなるほどの殺気に貫かれた気がした。

誰かいる。

心臓が速くなって、息を飲み込んだので胸が苦しい。

そして金属の気配。

それは鋭利で、例えば肌に触れれば容易く皮膚を切り裂き、喉に当たれば失血して絶命することを予想させる剣だった。

ナミは恐怖で声のひとつも発することが出来ず、一瞬ののちにガタガタと震えた。

何故なら、その金属は自分に襲いかかり、どこも皮膚は切れていないのに、寝巻きとして身を包んでいた柔らかな部屋着を木っ端微塵にしてしまったのだ。

下着を残して剥き出しの肌がひやりと外気に触れるのを感じて確信した。
目的は女の身体?

一体誰がこんなことを。

でもそんなことを言ったって、自分は懸賞金の掛かった賞金首なのだから、社会的にはどう扱われても文句は言えない存在なのだ。

「ホカノオトコノ ナヲ ヨブナ」

「....っ!誰なの!?」

恐怖のあまり大きな声が出る。

無機質な声の主が誰なのか心当たりもなく、ただ暗闇の中で鎖の音を立てることしかできない。

「オマエヲ オレノモノニスル」

「!?」

命を取られる訳ではないのかと、ほっとしたのも束の間、今度は目の前にいたはずの誰かが、ドサッと倒れる音がした。

誰かが助けに来た?

しかし、部屋にはその誰かの気配もない。

目隠しを取ることができないので、ナミはしばらくそのままで、周りの気配を伺うことしかできなかったが、やはり誰かが助けに来てくれたのだと、呼吸の音が聞こえてきた事で判断した。

「ねぇ、誰か助けに来てくれたの?」

何にでも縋りたい思いで気配をうかがう。
さっきのような危ないやつが目を覚ます前に、誰でもいいから解放して欲しい。

正直下着姿では寒くなって来たし、目隠しが不自由だ。こういう時は情報が一番の武器なのに。

ぷはぁ、と声がして、身じろぐ音にナミは急いで声を出す。

「ねぇ、誰かいるの?助けて!」

「...君は.....」

目隠しを取られると、目の前に豊かな金髪が広がった。

青い眼に金髪の、王子様のような風貌の若い男だった。
ナミは何となく安心して、これも取ってと鎖を揺らし、安堵で瞳を潤わせる。

「君は、麦わらの一味の泥棒猫ナミ?」

「いーえっ!全っ然違うわよ!?よく似てるって言われるけど、人違い!私はただの、通りすがりの航海士。」

「通りすがりの....」

バサバサと長いオレンジ色の髪を肩にかけるようにして否定する。
まだ相手が敵か味方かもわからないので、素性を明らかにしない方がいい。

部屋を見渡すとさっきの危ない男はいないようだが、ここはどこかの船室だろうか?
部屋には生活感がなく、普段使われていないという感じがする。

「...だめだ、鍵がかかっていて、外せない。」

手首の拘束は革の手錠だが、それにグルグルと巻きつけた鎖が柱に打った杭に吊り下ろされている状態だ。
座ったまま手だけを上に上げる格好だが、脇が露出しているので余計に寒々しい。

「そんな...どうしよう。」

「と、とりあえず、その姿は目に毒だ。これを羽織るといい。」

「ありがとう...」

王子は上着を羽織らせると、ナミの体から目を逸らして言った。

「...やっぱりぼくは君を知ってると思う。」

「!」

「安心しろ、ぼくも海賊だ。ハクバのキャベンディッシュだ。」

「...ここはどこ?起きたらここにいたの。本当に目覚めたのはついさっきよ。」

「.....ぼくもわからないんだ。」

では、このキャベンディッシュと言う男も同じように連れて来られたというのか。

誰が、なんのために?

「外、雨降ってる?」

「いや...わからない。」

「見てきて。」

そう言うと、男は素直に従って部屋を出た。
出られるのか、と思った。
何故キャベンディッシュは拘束されていないのだろう。

階段を上がる音が聞こえ、またドサッと音がした。

すると風のようにドアが開き、鬼のような形相の男が目の前に現れた。
鼻先が触れるほど近くに、一瞬で詰め寄った男は間違いない、自分に剣を向けて半裸に剥いた男だ。

「オマエガ ホシイ」

「なっ、何言ってんのよ!私はまだまだ冒険したいお年頃なの!私が欲しいなら、まずこの手を離しなさい!!」

「オマエヲ サガシテイタ」

男は後ろを指差した。
無理な体勢で身体を捻ると、ナミの手配書が貼ってあるのが見えた。
隣に貼られたルフィの手配書はナイフが刺さってボロボロだと言うのに。

「ドロボウネコ ナミ」

「キャーーー!!!」

ひやりとした手が脇を触って、下着を取り払おうとしてくる。

「ゼンブ ミル」

「キャーー!!何なの!?本当にやめて!!」

あらん限りの力で叫ぶと、怖い顔の男の様子が変わって、驚くことに、寝た。

「は!?寝た!?」

剥き出しの太ももに顔を埋め、寝息をかく男に、ナミは肩の力がヘロヘロと抜けたのがわかった。

よく見ると、この服装はキャベンディッシュのものではないのか。
何となく察しが付いてきて、ナミは思案を巡らせた。

叫んでる内に元気が出てきた。
幸いルフィのビブルカードを身につけていた。
何とかここを抜け出し、仲間のもとへーーー

「ぶはぁ!」

「....」

生の膝枕で寝ていた男は、ぱちりと目を開けて元の王子の風貌へ戻っていた。

キャベンディッシュは確かめるように枕にしていた太ももに触れ、まだ合点がいっていない様子でさわさわ摩った。

そしてバッと顔を上げると、男が寝た時に下着を引っ張ったのでナミの胸は剥き出しになっていて、しかも寒いので少しピンとしている先端が目と鼻の先にあった。

ナミは目に涙を浮かべてキャベンディッシュを見下ろして言った。

「ちょっと、あんた....」

うねる大蛇の気配があり、王子はたじろいだ。

「何してくれてんのよ!」

「ぐはぁっ!」

唯一自由になる足で蹴られて、美しく床に沈む。

するとまた鬼の男が出てきて。

「ゼンブ ミル」

「もうええっちゅーねん!!!」

何度かそれを繰り返して、次にキャベンディッシュがナミを見た時には、もはや直視ができない格好に剥かれ、シクシク泣くナミは依然手を上に拘束されて胸を強調している。

もう隠すものは何も身についていないのに、手で覆うこともできない。

慌てて上着を掛けるが既に気休めだ。

「あんたのもう一人の人格、全然話が通じないじゃない...全部見る、とか欲しい、とかしか言わないし、ほどいてくれないし!!」

ハクバが見るもの全てを切り裂かないことはこれが唯一のケースで、ある意味すごいことなのに、ナミの方からすればそんなことは関係ない。

しかしその格好を見ていると自分も男であるので、欲望がむくむくと頭をもたげてくる。

全裸の美しい女性と二人きり。

しかし、ハクバが監禁した女性を襲うなんて自分のプライドが許さない。

「何とか抜ける方法を考えよう。服を探してくるから、少し待て。」









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