novels2

□2.
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2.キャベンディッシュ












「ーーちょっと待って、もしかして。」

ナミが鎖を揺らす。

「あんたのポケットに鍵が入ってるってことはない?拘束したのはハクバなんだし」

「おお!あったぞ泥棒猫ナミ!」

「うん、早く開けて」

パチリ

ジャラリと拘束された鎖を解いた瞬間、ナミはキャベンディッシュにバチーーンと強烈なビンタをかました。

「何をするんだ、ぼくの美しい顔に!」

「うっさいわね!!誰がしたことよ!私は連れ去られた上裸にひん剥かれたのよ!?まだ嫁入り前の体なのに〜〜!」

両手で顔を覆って泣くナミに、キャベンディッシュが後ずさった。

「あ、あ...そうだな、すまない。」

「わかったら服貸して!船動かすわよ。他に誰か乗ってないの?」

「いや...ぼくたちだけのようだが。」

涙はもちろん嘘泣きで、ナミは外に出た。
それはもう男らしい足取りで。

「この船、だめだわ。とてもじゃないけど二人で動かすのは...」

「ああ、無理だな。ぼくは一体どうやってここに...」

頭を抱えるキャベンディッシュをナミはじとりと見る。
本当に人格が2つあるのだ。
そう言う病気を本で見知ったことはあるけれど、本当にそんな人がいるなんてと驚きを隠せない。

「しかも恐らく廃船ね...どっかからパクって来たんじゃないの、あんた。」

「失敬な!ぼくはそんなことはしない。ハクバとは長い付き合いだが」

ーー誰かに執着することなど、なかった男なのに。

「...君の手配書には呪いがかかっている。」

「?何言ってるのよ」

「求婚者が集まってしまうと言う呪いだ。」

「...海賊に求婚しようなんて人が、まともだとは思えないけど」

ナミはことも無げに息を吐いた。

「ハクバが人を切り裂こうとしなかったのは、君が初めてなんだ。」

「そうなの?」

目を大きく開けると、本当に可愛らしかった。
少し思案して、キャベンディッシュは腐りかけた樽に腰掛けて指を組んだ。

「...どうするんだ?」

「え?」

「またハクバが出てきたら。」

「え...そんなの、わかんな...」

「このままでは」

キャベンディッシュがずずいとナミに近寄った。
鼻と鼻が触れそうなくらい近い。

「君はハクバに犯されてしまうぞ」

「...は!?お、おか...!?」

「さっきあんなにされたんだ。いつ出てくるかわからない。次はもっとひどいことに...」

「そ、それは困る、けど」

海賊相手に、心配してくれるとは真摯なことだ。
けど、手立ても何も浮かばない。
ナミは狼狽えてあわあわした。
そうだ。さっきは酷い目にあった。

「だから、」

キャベンディッシュはナミの様子を見て息を吐いた。

「ぼくを拘束しろ。」

「...えっ」

「ハクバが出たらぼくは君を守ってあげられない。さっきの手錠でぼくを繋いで、鍵は君が持っていればいい。」

「そんな...」

「ぼくもいつ出てくるかはわからないんだ。急いだ方がいい。」

「でも、まずはここから脱出しなくちゃ...」

「だが、じき夜になる。夜の方が、危ないんだ。」

目を伏せるキャベンディッシュのまつ毛は頬に影が落ちるほど長い。
そんなことを思いながら、ナミはどうするべきか思考を巡らせた。

思ったよりも紳士で、海賊なのに、海賊に気を遣ってくれる、そんな男なのだ。

「そ、うね...どうせ夜は助けも期待できないわね...」

キャベンディッシュには申し訳ないと思いながら、移動した部屋でナミは手錠を男にかける。

その時何かの拍子に見つめ合ってしまって、背徳的で倒錯的なその行為に、何故かナミは真っ赤になった。

暗い部屋で見られずに済んで良かった。
換気したのでいくらか湿気の臭いは気にならなくなっていた。

「さ、じゃ行くといい。」

ナミが意味がわからないと言う顔をしたのでキャベンディッシュが続けた。

「安全な場所に避難してくれ。君が目の届かない所にいた方がいい。」

されたからわかる。
腕を上に上げて拘束される格好は今から一晩を過ごすには辛い。

ナミはキャベンディッシュの紳士的な行為にも態度が軟化しており、声を上げた。

「い、いいえ。ありがとう。でも、私の為にそこまでしてもらって、そのまま放っとくことなんてできないわ。
危ないと思ったら、すぐ逃げる。でも、それまではここにいるわ。」

ナミはキャベンディッシュの前にちょこんと正座した。

服がないので下着の上から借りた上着をワンピースのように着ている格好だが、肌寒くはない。丁度いい格好だった。

「ハァ、君って人は」

男は床を見てため息を吐く。
ナミはキャベンディッシュの目を伏せた時の長いまつ毛が気に入っていた。

「仕方ないな。話し相手にくらいなろう。」

「うん...ありがと」

少し照れながら言って、ナミは周りを見渡した。

「お宝なんて乗ってないかしらね、この船。」

「さあ、どうだろうな。古い船のようだが...」

乱雑に積み上げられた箱には、何が入っているのだろう。

ナミは少しガサゴソと探してみたが、保存食が少し出てきた程度であとはみんな空だ。

「ワインないかな。ワイン。」

「確かに、喉が渇いたな。」

「ちょっと待って...きゃあ!」

木箱がドサドサとナミの上に落ちて、木屑が舞った。
キャベンディッシュが鎖を揺らして身を乗り出す。
何とかナミが大丈夫と言いながら這い出て来て、四つん這いのぶかぶかの服から胸元が覗いて男は目を逸らした。

「あった〜!ワイン!」

ナミは木屑や埃で頬を汚しながら、キャベンディッシュに近寄る。

コルク抜きを見つけて、ポンと音をさせるとはい!と瓶を差し出した。

目の前に瓶の口を差し出されて、キャベンディッシュが目を白黒させた。

「そのままじゃ飲めないでしょ?飲ませてあげるから口開けて。」

「い、いや」

大の男が飲ませてもらうことに少し抵抗があった。

それよりも、ナミが自分についた埃も気に留めず世話を焼こうとすることが申し訳ない気がした。

「ナミ、木屑が」

オレンジ色の美しい髪に、そぐわない。

キャベンディッシュが動ける範囲でナミに覆い被さった。
ナミは男を警戒していなかったので簡単に接近を許す。

手が使えないので、口で木屑を取ってやった。

プッと木屑を放ると、ナミが真っ赤な顔でこちらを見ていた。

近くて、ドキドキした。
近くて、驚いた。

その様子にキャベンディッシュは笑って言った。
普段色気を振りまいて大人びている娘の初心な反応に、意地悪をしたくなったのだ。

「さあ、喉が渇いた。ワインを飲ませてくれ。口移しでも構わないよ。」

「な、なによ!」

ナミは真っ赤になってしまった自分を若い青いと馬鹿にされたと思って、一気にワインを煽った。

「!!」

男の胸ぐらを掴んで唇を押し付け、甘い液体を流し込む。
口が小さいので量が少ないので何度か繰り返した。

そうする内にキャベンディッシュの舌がナミの口内に恐る恐る入れられて、ナミの舌を探した。

舌を絡ませると腕の鎖がチャリチャリと鳴った。

拘束されたまま、でも手出しはできない、何と興奮するシチュエーションかと思う。

ハクバが出てこないことだけを祈った。

こんな甘い唇を横取りされるなんて、耐えられそうにない。




なのに。





「ナーーーミ先輩ーーー!!ここですかァァアーーー!?!?」





拡声器で倍増された声に、船が寄る波に廃船が揺れた。

そして飛び込んで来たトサカ頭のガラの悪い形相に、ナミは驚いてひっと言ったのだった。










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