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□人魚姫2
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人魚姫2









「.........」

体の横で感じる温かさに、ナミは目覚めた。
どれだけ寝ていたのだろうか。

海水を飲んだのか喉がカラカラで、声が出なかった。

パチパチと焚き火の爆ぜる音がした。
その熱が半身に当たって温かい。
空には満天の星空。
こんなに晴れる夜も珍しいが、晴れると夜が冷えるものだ。
なので焚き火はありがたかった。

「起きたか」

焚き火を挟んで横で男の声がして、ナミは筋肉痛に悲鳴を上げる体に鞭打ち、横に転がった。

優しそうな垂れ目、それを縁取るまつ毛さえ金で、短い金色の頭髪がくしゃりと寝た、若い男がそこにいた。
そして大男であった。

「俺が起きた時はまだ昼間だった。お前は浜辺に俺を運んでそのまま倒れ込んで眠った。この無人島を脱する当てはある。ひとまずお前は体力を回復させろ。」

木を木で削りながら状況をすらすらと説明して、男はナミの顔を見た。

ナミは何を言っていいかわからず、ぼうっとした。

「お前が助けなければ、俺は確実に死んでいた。礼を言う。」

顔を見ると若いと思ったが、話し方や所作には落ち着きがある。
外見からは年齢を判別できなくて、ナミはこくりと頷くだけに留めた。

「その葉にある水か、この果実を啜れ。乾くだろう。」

喉に手を当てると、まだ上手く声が出せなかった。
確かに、渇いている。

ナミは一度海水に濡れた髪や服をパリパリいわせながら、水を啜り果物を食べた。

口に物を入れるとまた眠くなった。

「寝れるなら寝ろ。俺も休もう。」

最後まで聞かずに、ナミは眠りに落ちた。





ドフラミンゴはその姿を見て笑う。
国政も取引も出来ず、目まぐるしいビジネスの世界から取り残されて暇を持て余しているのに悪くなかった。

嵐の為か女は雨や風を防ぐような服を着ていて上半身の露出は少ない。
だから海に体力を奪われることもなかったのだろうと納得する。

しかし先ほどの女の顔、見覚えがある。

目を開けるとより美しく好ましかった。
しかしまだ気力が戻らず弱々しい印象なので確信が持てなかったが、もし肩にーー

そう思ってもうすっかり乾いている上着のチャックを引き下ろした。

水着なのか下着なのかわからない格好が出てきて、みずみずしい胸の膨らみにごくりと喉がなる。

大きく寛げて左肩を現すと。

やはり。

この人魚は誰を助けたかなどわかっていないだろう。

世間を騒がすルーキーの、一番のヒロインが手に入ったとドフラミンゴは笑った。








次の日も、ナミは与えられるままに食事をした。
いつの間に取ってきたのか焼魚を振舞われ、色とりどりの果実にバナナまでカットされて葉の上に置かれていた。

遭難しているとは思えない。
今の所食にかけては至れり尽くせりしている。

ナミの喉はどこか切れてしまったらしかった。
治れば声は出るだろうが今は無理をしない。
ルフィのビブルカードはあっても船が無ければ戻ることもできないし、
男は脱出の当てがあると言っていたが眉唾だ。

「今日も晴天だな。」

男は言った。

「雲さえあればいつでも国土に帰れるんだが。」

ナミは何故?と首を傾げた。
その所作に男はふと笑って言う。

「俺の能力は、糸だ。雲に糸をかけて飛べる。」

そんな訳、と思ったが、ナミは太ももにクリマタクトがしっかりと収まっているのを確認して引き抜いた。

雲を作ると男が楽しそうに笑った。

「フッフッフッフッ。まさか雲を作り出せる人間がいるとは。話が早いな。これがログポースだ。」

男から受け取ると、そこにはドレスローザとある。
聞いた事のない国だが、ナミはいつもするようにポースを翳し、雲を作り出した。

一刻も早く、仲間の元に帰りたいからだ。

「では」

男がナミを抱え上げた。
体格が良すぎて、余りに高いので恐くてしがみつく。
高級な香水のような匂いがする男に、狼狽した。

「怖いか?」

ナミは何とも言えずに目を見開いて口を引き結んだ。

「大丈夫だ。掴まっていろ。」

海賊なのだろうか。
商船から落ちた一般人かもしれない。
雰囲気が柔らかいので、後者を想像した。
体格だけは規格外だけども。




ドレスローザは見た事のない国だった。
ネズミ返しの岩肌に守られた地形。
街並みの上を飛ぶと、人は粒ほどにしか見えなかったけれど、活気があり、煉瓦の色合いが美しかった。

どこまで飛ぶのかと思うと、男は黄色の絨毯に降り立った。

一面のひまわり畑。

ーー綺麗

そう唇が動いたのを見て、男は満足気に笑った。

「向日葵が似合うな。」

暖かな髪色が、映える。

ナミが複雑そうな顔をすると、男は向日葵を一本手折って渡した。
何故だろう、そうしたかったのだ。

渡されるままにナミが受け取ると、遠くから声が聞こえた。

「若様ーー!!」

メイド服を着た女が駆け寄ってくる。
ただ、その服に煙草を咥えているのは相当な違和感だった。

「ハァ、ハァ。トレーボル様が、覇気があるって....無事で良かった」

ナミが女と男を比べるように見ると、男は目元を見られないように覆い隠してメイドに指示を出した。

「心配をかけてすまなかったな。この娘を丁重に迎えてくれ。恩人だ。喉がやられて声が出ない。」

大きな手で目元を隠すと、釣り上がる口は悪そうな男のそれに見えた。

わかったとメイドが頷くと、男は逃げるように飛んで行ってしまった。

メイドと2人取り残されてしまったナミは、恐る恐る女を見る。
するとメイドはきょとんとして言った。

「喉が痛いの?大丈夫?若様がああ言うなら、あなたを傷つけないように気をつけなくちゃ。私に付いてきて。」

ナミは言われるままに女について行った。


船へ帰る為には、海へ出なければならない。
身一つで投げ出された自分には、時間と労力、そして誰かの協力が要る。

心配してるだろうな。

そう思うけれど、今はこうするしかないのだ。
手の中で、一本の向日葵が揺れた。










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