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□人魚姫3
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人魚姫3









な に こ れ


連れて来られたのは、宮殿だった。
王以外の誰が住めるのかと思うほどの、白亜の王宮。

ナミは開いた口が塞がらなかった。
あまりにも豪奢で、広大。
こんな小汚い雨具姿で来るような場所ではない。

「あーら、ベビー5その女はどうしたざます?若は?」

年配の女が年配の男性とカードをしていた。
無遠慮な目線に体が強張る。

「若様は無事だったわ。この子は若様と一緒にいたのよ。」

「なんじゃ、その娘は。また後宮に?」

「だから、若様が言ったの、ラオG。丁重に!恩人だからって。」

まあ...と年配の女が口を抑えた。

「若が海に投げ出された時、生きた心地がしなかった。」

奥にいた、おしゃぶりを咥えオムツをしている男性が言った。

「お嬢ちゃん、礼を言うぜ。若の代わりはこの世に2人といねぇからな。」

チュバッと音をさせて男が言う。

ナミはその光景に訳がわからなくなりながら、促されるままにどこか室内に通された。

ベビー5と呼ばれたメイドの女が、煙草の煙を吐きながら風呂の準備をしている。

バスタブは猫脚だし、浴室はガラス張り。
調度品も磨きがかけられて、枠という枠が金で装飾されている。
天井には鮮やかな絵が描かれ、カーテンや絨毯の刺繍の見事なこと。

あの男は、一体何者なの。

ナミはキョロキョロしながらつっ立っていたので、ベビー5がくすくすと笑った。

「海で丸一日、遭難してたんでしょ?潮を流しましょ。早く服脱いで。洗うわ。」

ナミは耳を疑って首を横に振った。

メイドはさも当然のようにタオルを持ってナミが服を脱ぐのを待ち構えている。

女同士なら裸を見せることに何のためらいもないナミも、さすがに初対面の人間に身体を洗われるのは羞恥心が勝る。

「遠慮しないで。若様の言いつけだし。」

若様と呼ばれるあの男は、一体何者なの...!?

ナミが動揺するうちに、結局メイドに世話を焼かれてしまったのだった。



用意された服は、赤いナイトドレスだった。
これを着るのか...と、シルクの素敵過ぎる仕立てなのに、逆に不安になる。
自分をドレスローザに運んだあの男は向日葵畑以来まだ現れないし、こんな宮殿に連れて来られて、こんな服を着て売り飛ばされてしまうのでないかと疑う。

素性もばれているかもしれないし、何しろかわいくて美人だもの。


「早く喋れるようになったらいいわね。」

ベビー5がナミの髪を乾かしながら言った。

「同じ年くらいかな。若様が連れて来る女って、あんまり若い人いないの。まあ、若様も若くはないしね。」

その時、装飾で重そうなドアが開いた。

「おい、ベビー5、随分だな。」

サングラスをかけた男が、大きな男が、部屋に静かに入って来た。

「あ、若様。私はまだ怒ってるのよ!私の婚約者の町をまた!消したわね!これで7人目!!」

「そう言うな。ベビー5。俺には信頼できる血の気の多いメイドが必要なんだ。」

「!!!いま、必要って言った...!?」

私、必要とされてる!!と、ベビー5が梳いていたナミの髪を引っ張ったので、ナミは声を出すこともできず痛い顔をした。

「シュガーがブドウを探してたぞ。持って行ってやれ。」

そう男が指示を出すとベビー5は部屋を出て行ってしまった。

若様と呼ばれた男は高そうなピンクの羽根のコートに、色濃いサングラスをかけ、金の髪はツンツンと立っていてまるでマフィアのボスのようだった。
自分をここへ連れてきた、あの優しそうな男と同じように呼ばれているのに関わらず。

「具合はどうだ?」

声には優しい響きがあった。
ナミは声を懸命に出そうとしたが、まだ調子が戻らないようだ。

「無理はしなくていい。しかし、見違えたな。」

男はナミの全身をまじまじと見回して言った。

結い上げられた髪にそばかすひとつないデコルテが眩しいほど。
化粧もしないのに華美なドレスにもひけをとらず、よく似合っていた。

「この部屋を好きに使え。お前にはあのベビー5と言うメイドを付けるから、何でも言いつけるといい。しばらく療養していろ。」

ナミは困惑して口を引き結んでいた。
この人は、誰なんだろう。
思っていることを口に出せないことは、思いのほか消耗した。

ここはどこで、何故こんなに与えられるのだろう。

「声を封じていた我が弟のようだな。」

男が近づいて、ナミの頬を撫でたので、びくりと体が震えた。

「早く声が聞きたい。宮殿をうろついても構わないが、夜はこの部屋にいろ。」

部屋と言っても、ドアが幾つもあってどこまでがその部屋に当たるのかわからないほどだ。
浴室、洗面、ベッドルームは選べるほどある。
廊下と思わしきドアを出るまでは恐らく与えられた房室なのだ。

「名前が要るな。」

男は楽しそうに言った。
ナミ、と口を動かすと男が唇に注目した。

「アニ?ラミ?」

いずれにも首を横に振り、ゆっくりと唇を動かす。
それが男にとって扇情的だとは思いもせず。

「ナミか。」

笑って首を縦に振ると、大きな体が影を作った。

掠めるように唇にキスされて、男は部屋を出て行ったのだった。











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