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□人魚姫4
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人魚姫4









翌朝、起きて声を確かめた。

「あー」

出る。声が出る。
黙っているのは性に合わないので、少し気分が上向きになった。

あのキスは。

何だったのだろう。
ナミは夜何度も唇に触れたが答えなんて出なかった。

普段の自分なら、平手のひとつでも喰らわせているだろう場面なのに、声が出ないだけで調子が出ないのだ。

主張ができるなら交渉ごとはこちらの物。

ベッドから体を起こしたナミはバスローブを脱ぎ捨てシャワーを浴びた。

仲間はまだあの海域で探しているかもしれない。
一刻も早く、戻って安心させたい。

「!?」

バスタオルを巻きつけただけの格好で浴室から出ると、部屋に人がいた。

昨日カードをしていた、年配の男女だ。

「やっと上がったざますわね。さ、私達と一緒に来るざます。」

「やっ、ちょっと...!?私まだこんな格好で...!」

「構わぬ。若が遭難したことで、世継ぎ問題が急務となった。誰でも良いがお世継ぎを産んでもらわねば。」

いやいや、それにしたってなんでこんな朝っぱらから...!

老人は朝が早いから...!?

そそそそれより、お世継ぎ...!?


「お、お世継ぎ!?」


「若がて自ら連れてきた、無人島で出会った恩人!まるでアンデルセンの童話のよう!なんてロマンチックなんざましょ!これなら簡単に愛が生まれること受け合いざます!誰がリトルマーメイドざます!」

「い、言ってな....」

「さあ、こんな来客用の部屋ではなく、若の部屋にGOGOの、Gーー!!」

年配の男女がバスタオルをしっかり押さえたナミの背中をぐいぐいとせっついて廊下を歩かせる。

一段と大きな二枚扉の前に止まると、年配の男が重そうな扉を開け、女がナミの背中をどん!と押して部屋に閉じ込めてしまった。

老人たちは良いことをした!と言う顔で扉の前を去って行ったのだが、ナミは豪奢な扉の向こうのことなど預かり知らない。

まだ下着も付けていない、髪も濡れたままの状態で、また知らない部屋に連れて来られてしまった。

呆然とその場にタオルを押さえて立っていると、高級な絨毯を踏みしめる音がした。




ドフラミンゴはその光景に肩をずるっと落とした。
自分も浴室から上がったばかりで、サングラスを忘れたと入り口の部屋まで戻ったのだ。

素顔を、見せたことがある人間は母の他にいない。

なのに、いつもこの女には見られてしまう。

ホッとした顔をして、自分を見て安堵した表情の女に。


「あっ、あなた....」

思ったよりも、ずっと凛とした声だった。

回復したかと、ほっと胸を撫で下ろす。

「どうした、誰かに連れて来られたか。なんて格好だ。」

「あっ、おじいちゃんと、おばあちゃんに....」

ラオGとジョーラか、と嘯く。

「寒いだろう。こちらへ。」



男も今浴室から上がったところなのだろう。髪は濡れてぺたんこに、薄いシャツを着て肩にタオルをかけている。

そのタオルを取ってナミの頭に被せた。

雲に糸をかけて飛んだあの時のように、高級な香水のような香りがした。

どきりとする、背筋がシャキリとする香りだった。

やっと会えた。

生死を彷徨った者とは不思議な絆が生まれると言うけれど、ナミにとってはまさにそれだった。

この男を助けようとしたことで、折れかけた心が起き上がった。

いつか母も、そんなことを言っていたっけ。


「下は裸か。」

「え、ええ....」

「....服を持たせよう。」


ほら、優しい。
昨日ふいをついたキスをして来た奴とは大違い。

弟なんだ。きっと。
なんだかそんなようなことを言ってたもの。

そう思ったのに、男が目の前でサングラスをかけたのでナミは驚いて声を上げた。
ナミに新しいタオルを与えて、髪をくしゃくしゃと拭くと、金髪がツンツンと立って昨日のキスの男になった。

「えっ!?あなた、ど、同一人物だったの...!?」

「なんだ、気づいてなかったのか? 」

男は口元を楽しそうに歪めて笑った。

目元が隠れるだけでこうも印象が変わるものかと思う。

しかも、この男はどこかで見たことがあるような....
アラバスタを発った後だったか、一度調べたことがある。
七武海の顔と名前くらいは、覚えておこうかと。


「ドンキホーテ・ドフラミンゴ」

「ご名答だよ、泥棒猫ナミ」

ナミは武器を探したが、生憎風呂上りで何も身につけていない。

「...どうする気」

「どう、とは?」

「だから....」

海軍に突き出されても、おかしくはない状況だ。
言いあぐねていると、ドフラミンゴが一瞬唇の感触を拐った。
またキスされた。
避けることも抵抗することもできない。
それほど身のこなしが重くて素早い。

「こういうことなら、お前がいいと言うまで待つつもりだが。」

「そ、そういう意味じゃない....!!」

ナミは顔を真っ赤にする。
キスくらいで慌てふためくような女ではないはずなのに、サングラスの奥の瞳が気になって、体が固まった自分を自覚していた。

「海軍のことか?俺は別に突き出すつもりはないがな。お前が居なければ俺は死んでいた。」

まあ、お前次第だ。
と、ドフラミンゴは言った。

「それは良かったわ。私を仲間の元に返してくれない?助けてあげたお礼に。」

ナミが腰に手を当てて仁王立ちすると、フッフッフッと男が笑った。

「海軍に突き出さない条件はそれだよ。ここに居れば、生きて行く全てを保証する。何でも与え得る全てを与えられる。俺の側では。」

「なにそれ、お礼になってない!私が欲しいのは自由!私がいたいのは海の側よ!」

ナミの剣幕に押されて、ドフラミンゴがたじろいだ。

「....じゃあ、善処する。」

「善処なんか!あとあんたを助けた正当な報酬を請求するわ。一億ベリー。」

「それなら。」

「....あんた、何者なの?」

ただの七武海が、こんな宮殿に住んで、若と呼ばれていることこそおかしい。

「ジョーラやラオGに聞いたんじゃないのか」

「聞くって、何も...」

ーーお世継ぎ

ナミはその言葉を思い出してぼっと顔を赤くした。
それを見て男が笑う。

「どうせ世継ぎだの何だの言われたんだろう。この国の未来を憂いているのだからそう責めてやらないでくれ。」

「じゃあやっぱりあなた王様なの」

ナミは目をベリーから戻すことができなかった。

「正直な女だな。目が....」

「うるさいわねっ、私は仲間の元に帰りたいのよ。心配してきっと探してるわ。」

「....そうだな。それは、お前の気の済むようにしたらいい。ーーーしかし」

大きな男が近づいたので、ナミは後ずさって背後にあったベッドに沈むように座った。

「お前は、この国に」



「若様〜〜!ナミ〜〜!ここにいるの〜?」

大扉が開いてベビー5が入って来る。

「あら!さっそく子作り?邪魔してごめんなさい。」

パタンと扉が閉められる。

ナミは慌ててベビー5を追いかけ、ドフラミンゴはナミの服を用意させる為に糸で呼んだのだったと頭を抱えた。









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