novels2

□人魚姫6
1ページ/1ページ

人魚姫6











ゆらり、ゆらりと視界が揺れていた。

暗い部屋の中で、独房と言ったような冷たい雰囲気の場所で、ナミは逆さまに吊り下げられていた。

意識が朦朧とする。

ああ、失敗するとこうなるんだと思った。

ドフラミンゴは手ぬるくなかった。

素顔はあんなに優しいのに、やはり恐い男なのだ。



「ん〜ドフィに逆らうと、怖いんだよぉ〜泥棒猫ちゃん。甘い顔をしてる内が花なんだ。飼い庭で遊ぶ分には、だーれも何も言わねぇのにね〜べへへ」

「汚い。死んで。」

「シュガー、この女には触るなよ。記憶を消したくない。ちゃんと処分はする。いいな?トレーボル。」

「おれは最初から〜ドフィのする事に口は出さねェよ〜。ただドフィ、これはあの麦わらのとこの女だろう。Dの者だ。反対してる人間も多い。現にこの女は何人か部下を伸してる。」

「ああ、わかっているさ。」

ドフラミンゴがそう言うと、地下牢からトレーボルとシュガーは消えた。



血と汗を冷たい石の床に垂らしながら、ナミはぼんやりその光景を見ていた。

ナミは夜よりも昼間の脱出を選んだのだ。

メイドの服を盗み、それを着て、使用人の後をつけて城を抜け出した。

船を手に入れる為に部屋からは宝石類を盗っておいた。

それを換金したが、そこに詰める者はみんなファミリーの手先だった。

不審に思った部下達は泥棒猫の素性を暴き、応戦。

ナミは部下達を数十人黒焦げにして伸したが、ドフラミンゴに囲われていたとは知りもしない部下達は幹部に連絡した。

駆けつけたデリンジャーは倒れた部下達を見て事態を重く見た。

ナミと交戦して、拘束。

身柄をジョーラ達に預けて今に至る。




目を閉じると汽笛の音、船の荷揚げの音、地下港のざわめきが聞こえる。

ただ部屋は冷たい煉瓦造りで、脳に血が上ってきてくらくらしていたけれども。

ドフラミンゴの指が動き、ナミは床にドサリと落とされた。

血の気で目眩を覚えて、額に手を当てる。
両手の枷がジャラリと音を立てる。
ドフラミンゴが牢を開けて駆け寄り、ナミの横に膝をついた。

「...何故逃げた。」

「あんたが船をくれないから。」

ナミは盗んだメイド服で鼻血を拭って言った。
ジョーラに折檻されたのだ。

「...すまなかった。」

苦しさに這い蹲るナミは驚いて、横で片膝をつくドフラミンゴを見上げる。

「聞いた通り、お前がファミリーを伸したから、お前に不信感を持つ者が現れた。世継ぎだなんだと当てがっておきながら、内実はファミリーが第一だ。例え恩人であろうと。」

ドフラミンゴが頭に手を当てる。
大切なものが一つだと、守るのは容易いのに。

「麦わらはDの一族だ。だからお前と同一視している者もいる。うちのファミリーはDをタブー視してる。お前との婚姻は認めないと。」

既にドフラミンゴの中で婚姻は決定事項だ。

命を助けられる経験は、大人のプライドも、見栄も、表面についたものを全て引っ張り剥がして、心を丸裸にした。
海に流された遮光の鎧だってそうだ。


この娘と2人の時だけ、心がどうしようもなく自由だった。

潮に洗い流された体は軽かった。
どれほど周りに反対されようとも。

苦楽を長く共にした最高幹部にさえ認めないと言われた。

「なのに。」

ドフラミンゴは辛そうに瞳を閉じた。

「俺はお前を離したくない。側にいて欲しい。船をやりたくない。それ以外ならいくらでも与えてみせようと思うのに、お前の望みだけは叶えてやれない。」



ーー仲間の元に、帰りたい。



「ド.....」

ナミはその姿が不憫に思えて、ドフラミンゴの膝に触れた。


「ドフィ...」


触れられた細い手に、呼ばれた名前に、視線が合う。
心が震える。
揺り動かされる。
ドフラミンゴはもう引き返すことができないくらい、ナミを愛してしまったことを自覚した。






ナミはそんな男を見て、思った。




ーーこの男の気持ちを利用する。


こんなに辛そうな顔をする男を傷つけてでも、仲間の元に帰る。

目的を遂げる為に、何でもする。

例えそれが自分も傷つけることになっても。








「酷くやられたのね。」

「そうね、失敗しちゃった。」

ペロッと舌を出してナミが言う。
かしずかれることに慣れて来て、浴室で背中を洗われている。
擦り傷を避けて洗うベビー5の手が優しかった。

ここは相変わらずドフラミンゴの部屋だ。警備は厳しくなってしまったけれど。

「ナミは仲間の元に帰りたいのよね」

「うん。協力してくれる?」

「それは無理。ごめんね」


ベビー5の煙草の匂いだってもう、覚えてしまった。
だけど。

サンジの煙草の匂い、サニー号の匂い、みかんの匂い、海の匂い、太陽の匂い。
仲間の呼ぶ声、私を信頼する者の声。
航海士の誇り。

例えドフラミンゴの気持ちを利用しても、取り戻したい自分そのものだった。




背中を湯で流されていると、扉の外が騒がしくなった。
ベビー5が両手をガトリングガンにして様子を見に行く。


「ハレムの女?あんなドライな女たちが...」

使用人とベビー5が何か話して扉の外に消えて行く。
ナミも浴室から上がってドレスを着た。

外の喧騒は中にいても十分聞こえて来る。

「後宮を閉じるからって、貰えるものが貰えなくなったのよ!」

「渡があれば300万、ハレムに居るだけでも贅沢が保証されてたのに、私達の生活はどうしてくれるの!?」

「それもこれも、あの小娘のせいなんでしょ!?」

ドレスローザの後宮は成熟していない。
誰もが、王すらも自由奔放にしているので統制を執る者もなく、本妻も娶らずに1列横並びな今まではよかった。

女たちはごくたまに王宮で過ごすドフラミンゴにかしずくだけの生活に慣れ切っていた。

「だからあのコには出て行ってもらうのよ!」

「聞けば海賊だって言うじゃない!」

「どうかしてるわ!」

面倒くさくなったのか、ベビー5がガトリングを空にぶっ放す音がしたので、キャーという悲鳴と共に喧騒は収束した。






女達は最高幹部にも直訴したらしい。
ディアマンテなどは天才とくすぐられてすぐに手玉に取られたようだ。

国王から見て、ナミの立場は悪くなる一方だった。

女は掃いて捨てるほどいるのだから、海賊の女にこだわる必要はないと言うのが幹部達の言い分だ。
婚姻も最高幹部の反対があれば上手くは行かない。
自分は王宮を空けることも多い。

ドフラミンゴは眉間に手を当てた。







パンクハザードのモネから連絡があったのはそんな時だった。

ローが現れてシーザーと密約しているが、どうする?と。









Next

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ