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□人魚姫7
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人魚姫7









ドフラミンゴに、取り入るんだ。
自由を得る為に、従順に、あの男の懐に入る。

ナミは金色で装飾された窓枠に手を添えて外を見ていた。

油断させて、甘い顔で、海に連れ出してもらえる機会を待つ。

牢に吊り下げられたことで、続いていた目眩がようやく治まってきた。
折檻のムチの跡はまだ痛い。

同じ過ちを冒すほど、馬鹿な女ではない。
これ以上は立場を悪くする。
現に、扉の外には屈強な見張りをつけられてしまった。

海にさえ出れば、救命艇でも失敬して、ここを離れられる。
私の力なら。



「何を考えてる」

窓の外を見ていると、背後に執務を終えたドフラミンゴが立っていた。

ナミは毎日のように豪華な着物、食事を与えられていたが、男に無体を働かれたことはなく、体調すら気遣われて男は何時も早いうちに退室していた。

「海が恋しいか。」

確かに、船から落ちて一週間経つ。

ドフラミンゴは自分といる時サングラスをかけなくなった。
素顔を晒して、心を晒している。

優しい顔。
誰に聞いても、素顔を見た事などないと言う。
それが少しだけナミの心を揺り動かした。

そんな自分を知るかのように、優し気な目でこちらを見てくるのだ。

ーー駄目。


「不思議と」

ナミは出来るだけ媚びのないように言った。

「恋しいと思わないの、今は。
...私、」

ドフラミンゴに取り入る。
仲間の元に帰るために、何でもする。

「あなたのことを考えてた...」


ドフラミンゴは目を見開いて、ナミに近寄った。
一歩一歩近寄る度、胸が早鐘を打つ。

「あなたの役に立ちたいわ、ドフィ。私は役に立つわよ?」

私を船に乗せて。
サイクロンだって、雷だって避けてみせる。
そしてあなたの前から消えるけど。


大きな体が自分に影を作った。
頬に大きな手が添えられ、壊れ物のように撫でられる。

これが船に帰ると言う目的の為に必要なことなら、 身体だって差し出す。

「本気か。」

「私の目を見てよ。」


長いキスをした。
触れるだけのキスなら何度かされたけれど、こんなに熱い唇は初めてだった。

女だってたくさんいたのだろうし、経験も豊富なんだろうけど、でも、この優しさはなんだろう。


帰りたい。
帰らないといけない。
出来るだけ早く。
この人の素顔に溺れてしまう前に。


「パンクハザードと言う島がある」


上品なキスは音も立てずに唐突に終わる。
こんなところで止まるとは思っていなかったナミは驚いて男を見た。


「そこにローと言う男がいる。そいつは科学者からある物を奪った。後は、協力者を得て科学者を殺す気だ。そうされる前に、そのある物を盗んで来て欲しい。」


千載一遇のチャンスかもしれない。
ここを離れられる。
こんなに早く思惑通りになるなんて。

ドフラミンゴは辛そうな顔をして言った。

「そうしないと、お前を認めないと言う者がいる。」


お前と共に生きたい。
だから、側に置いておきたいけれども、手放す。

ナミに手柄を持ち帰らせて、周囲に認めさせる必要があった。

欲しい物ほど、必ず手に入れたいから、手放す。

ナミはこの好機を棒には振れないと、出来るだけ感情が声に出ないように抑えて言った。

「...わかったわ。何を盗めばいいの?」


この美しく賢しい女になら、神も強欲を許すかもしれない。


「...SADの設計図。そしてできればローの心。」











逃げるチャンスがあるかと思ったのに、サニーよりも大きな船では船室に監禁された。

まるで囚われのお姫様。

心配...してるだろうな。
海に投げ出されて一週間、生死さえわからない状態で、どれほど探しているだろう。
十中八九あの海域を出ていないだろうけれども、食糧だっていつか底をつく。
私を置いても、前に進まなければならない時が来る。

そう思うと、恐いのは強い敵でも、度重なる戦闘でもないと感じた。
海だ。
海にいる限り、海にひれ伏す、悪魔に呪われた海賊たち。
だから、ちゃんと私が導きたいのに。


「ジョーカーから聞いてるわ。私はモネ。よろしくね。」

鳥?

船に現れた女は手を差し出したが羽だった。
フワフワとした翼に触れると温かくて気持ちがよかった。

「私は科学者シーザーの秘書と言うことになってるの。私達と若様とのつながりは内密に。どれだけ探してもSADの資料が抜き去られてる。これでシーザーを殺されたら取り返しがつかない。それを探して。今は私達はローの行動に気づいていない振りをしているわ。そう言う指示なの。」

モネはナミを上から下までジロジロと見た。

「ーーそれにしても。」

モネは翼で口元を隠す。

「あなた、若様と結婚するってホント?」

「え?」

「そう聞いてるわ。若様は特定の誰かを娶ったりしなかったのに...」

モネの声には残念そうな色が滲んでいた。

「ち、違うわ...私、海賊だもん。たまたま海に落ちたあの人を助けただけ...」

ナミは俯いてもごもごと言ったが、少し考えて、何か決意したように拳を強く握った。

私は帰りたい。
船に帰る為に、この仕事を遂行するのだ。

「私がやることは、SADの資料を盗むだけ?ドフラミンゴはローがどうって...」

ナミは強い目をしている。
自分の能力を自負し、やるべきことを遂行できると言う自信に溢れていた。
逃げ出すその隙を伺うためだ。

「ローはオペオペの実の能力者。若様はローに不老手術をさせようとしているの。その為に最高幹部のハートの席を空けてる。本人の恣意的な意思がなければできない手術よ。だから昔のように仲間に引き入れたいと思っているはず。掌握的な意味でね。」

だから、ドフラミンゴはローの心と。

「...わかったわ。盗めるものなら盗んで見せる。」

「...よろしくね。」


にっこりモネが笑ったかと思うと、ドス!とみぞおちに膝を感じてナミは意識を失った。

ナミを遭難者としてローに拾わせることは話し合っていたことだ。

ーーこんな形でなくてもよかったんだけど。

モネはふ、と自嘲してナミの体を飛んで運んだ。










ローは目の前で行き倒れるオレンジの髪の女を見て、それが誰だかわかっただけでなく、珍しく手を下して抱き抱え、自室に連れ帰った。








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