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□人魚姫8
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人魚姫8
こんなところに、何故この女が。
誰かに連れて来られたのか。
でも一体何のために?
ローは何時ものように暇を持て余して本を読んでいた。
ベッドにはオレンジの髪の女を横たえて、それを気にするでもなく、静かにページをめくる。
診察なら、した。
意識を失った女の服を脱がせて外傷を改め、腹部の内出血を見つけ、太ももには面白い武器も見ることができた。
滑らかな肌には折檻されたような跡が幾つもあった。
深手ではないが、まだ新しいものだ。
肌が白いので痛々しい。
服を着せるのは面倒くさいので寒くないように下着の上から毛布を掛けた。
麦わらの一味の航海士だ。
何故ここに倒れていたのかはわからないが、計画にそこそこの強さの海賊を組み込みたかったローにとっては、同じ最悪の世代である一味が手に入ったのは渡りに船であった。
何より、あの船長なら御し易そうである。
2年前、ヒューマンショップで姿を見たこともあるが、そんなことは覚えていないだろう。
少し面立ちが変わった。
目は閉じているから全貌はわからないけれども。
「んん...」
ナミは目を開けた。
みぞおちへの衝撃は強く、ぼーっと天井を見る。
「ここは...」
「パンクハザード。何もない島だ。」
ナミは声のする方をぼんやりと見て、体を起こした。
隈の深い顔には見覚えがある。
この人が、ローだ。
「パンクハザード...」
ナミが頭に手を当てると息を吐く気配がした。
「そんな格好で島流しにでもあったのか?仲間はどうした。」
ナミはいつの間にか下着だけになっている自分に気づいたが、普段からこのような格好でうろつく時もあるので、ローに見られたことは別段気にならなかった。
ただ、鞭の跡は痛々しかった。
島流し。確かに。
「仲間とはぐれたのよ。嵐の海に落ちて。そしたら悪い奴に捕まって、痛い目に合わされて逃げて来たってわけ。あんたトラファルガー・ローよね?私を助けてくれたの?」
「邪魔なところに行き倒れてたからな。」
「そうだったの、ふふ、ありがとう。」
無愛想な顔をしているのに、放置せず律儀に運ばれたことを思うと何か可笑しかった。
2年前、シャボンディ諸島で見かけたことがある。
ルフィと共に海軍と戦っていたのを思い出した。
「それで?人の服を剥いでおいて、何も言うことはないのかしら。」
「俺は医者だ。診察をありがたく思うんだな。」
「へえ、それで、何か処方してくれるの?」
ナミがローの首にするりと腕を伸ばす。
耳元で囁いて、誘惑するように首筋を撫でた。
男を言いなりにするには、どうしたら。
「...バカにつける薬はねぇよ。」
「言ってくれるじゃない。」
ナミが抱きついたまま憮然と言葉を交わした2人は、何事もなかったかのように離れた。
ナミはその格好のままごろりとベッドに寝そべる。
「ああ〜、自由って素晴らしいわね。」
ナミは枕を抱きしめて言った。
「海賊のくせに」
「敵の船で監禁されてたの。何してても様子を聞かれてそうで最悪だったわ。こんな何もない島に来ちゃうとは思わなかったけど。人がいるだけ良かったかもね。」
そう言うと、バーンと大きな音がして、ナミは体を起こした。
ローもそちらを見ている。
何か問題が起こったか。
ローが部屋を出て行こうとするので、ナミは慌てて服を着て後を追いかける。
一人は心細い。
ここは、研究所...?
SADとかいう物の研究所なのかしら。科学者がいると言っていたけど。
素っ気ない建物だ。
剥き出しの鉄筋とコンクリート。配管も丸見えでパイプが縦横無尽に走っている。
天井の高い建物の中で、壊された壁が見えた。
そこからは優し気な女の声が聞こえて来る。
「さぁ、もう大丈夫よ...。シンドにはキャンディをあげたからね。
....中毒症状が早く出るようになったわね...マスターに相談しなくちゃ...」
モネ。
ナミは息を飲んだ。
みぞおちに膝を食らって意識を奪われたことを忘れてはいない。
私はローへのスパイ行為をするけれど、この女にも、注意しなければ。
味方だと思えば痛い目を見る。
「モネ、なんだこの惨事は。」
ローが壊された壁を見て声をかけた。
「あらロー、部屋から出てくるなんて珍しいわね。...そちらのお嬢さんはなに?あなたの彼女?」
ナミはびくりとしてローの後ろに隠れた。
「行き倒れていたのを拾っただけだ。麦わらの一味の」
「泥棒猫ナミね。初めまして、モネよ。よろしく。」
ナミはモネに2回目の握手を求められたが、遮ってローが言った。
「それで」
「大きいコが暴れたのよ。すごいパワーね。マスターの治療は成功だわ。」
モネが感情の読めない顔でにっこりと笑った。
「モネさん...わたしも、頭が痛いよ...」
部屋の中を見ると、大きな女の子が頭を抱えていた。
ナミはその光景に驚愕する。
子供部屋のような壁紙があしらわれた明るい部屋には、子供が何人もいたが、その大きさは様々だった。
常軌を逸すほどの大きい子供たち、普通のサイズの子供もいたが、大人ほどの背丈の子供、それよりも大きい子供もいて、信じられない光景に目を疑う。
ナミは目を見開きながら、モネが女の子に近寄るのを見ていた。
「可哀想に、モチャ。あなたにもキャンディをあげるわ...さあ、もう大丈夫。」
「うう....」
苦しそうな姿に、ナミは眉根を寄せた。
子供たちは病気なのだろう。
それで、ここで科学者の治療を受けているのか。
親元からも離れて。
ローは騒ぎを確認したとばかりにナミの腕を引いて引き返した。
子供たちに釘付けになっていたナミは体勢を崩しながら引かれるままに付いていく。
部屋へ戻る道すがら、ローが問いかけた。
「お前の仲間はどこにいる。」
「新世界に入ってすぐはぐれたの。だからまだその辺りで私を探してるはず。」
「ここに呼び込めるか。」
「通信手段はないわ...あなたに船があれば」
「あいにく」
「...そう。」
ナミは俯いて息を吐いた。
「そういえば、あんた医者なんでしょ?あの子たち診てあげられないの?科学者よりも医者の方がいいんじゃ...」
「ここに子供がいることも今初めて知ったよ。首をつっこむな。...それよりも自分の身を心配したらどうだ。」
ローはナミを自分に引き寄せながら、言った。
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