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□人魚姫13
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人魚姫13








通信器はモネが抑えていると、ローがナミに指示を出した。

ナミがモネを誘き寄せている間に、緊急信号を出す。

電電虫の通信精度は低い。
海軍や政府の持つ物に比べ、海賊が手に入れられる程度の物なら尚のことだった。
お互いの位置がわかっていなければ通信は難しい。

緊急信号は無差別に電波を送るので、圏内にいる船は誰でも拾うことができるが、その圏内に仲間の船がいるという保証もない。



通信が届いたかもわからない、来るかどうか定かではない仲間の助けを待つことはできなかった。

きっと死ぬほど心配している。
他の誰が同じようになっても、私だったらそうする。
だからきっと、ずっと探してくれてる。

ナミは少し泣きそうになって、上を向いた。

だから、私が行かなければ。
やれることは、全部するのだ。

ナミはモネがいると言う研究室に入った。
初めてシーザーの姿も見たが、実験に嬉々として研究室に消えて行くところだった。

「あらナミちゃん、何の用かしら。」

「少しいい?モネ。話したいことがあるの。」

「うふふ、いいわよ。退屈してたの。...もしかして、良い報告かしら。」

「ええ。来て。」

ナミは自分の裏切りがバレやしないかとドキドキする胸を押さえながら、モネを誘い出した。
この隙に、ローが緊急信号を出すと言う算段だ。



ベガパンクの研究室に来ると、モネは訝しんだ。

「この部屋にあったものはみんな他へ移したわ。マスターはこの部屋が嫌いなの。」

「そうみたいね。これが約束の資料よ。」

SAD製造の全てが書かれている。
ローから奪った分厚いバインダーを、ナミはモネに手渡した。

「ふふ、すごい。まだ3日と経たないのに、もう見つけたの?私には、悪い知らせだけど。あなたを消せないなんて。」

モネの微笑みに、ナミはごくりと唾をのんだ。
恐い。
敵はロギア系。
もし戦闘になったら、私に歯が立つのだろうか。

ナミが慄くのを見て、モネがくすりと笑う。

「...冗談よ。若様の婚約者を消したら、私の方が消されちゃう。」

「婚約者...!?違うわ...!」

「...何故嫌がるの?若様の役に立てる以上のことがこの世にあるかしら。」

私は命すら懸けられるのに。


背中がぞくりとした。
モネの目が真剣過ぎて。
心から、そう思っている。心酔している。
ドフラミンゴの為に命を捨てることも厭わない、不自由な人。

「私の任務は、マスターとマスターの研究を守ること。なのに、今日は子供たちの様子がおかしかった。...誰の仕業かしら。」

ナミはどきりとして手を握った。

「....さあ、何を言ってるのか、わからないわ。」

「キャンディのことに気づいたの?優しくして、不自由のない生活をさせてるのに、何が不満なのかしら。あなたも、何か言いたいことがありそうね。」


ナミはモネを睨めつけた。

非道なことをしておいて、それが悪いとも思っていない。
この人はずっとそうなんだ。
最初からそうだ。

きっと、愛情を受けることなく大人になってしまったから。


「...不自由だわ。」

ナミは呟いた。

子供たちが受けるべき愛情を奪っている。
優しいだなんて、何故そんなことが言える。
未来を奪い、愛を奪い、彼らの幸せを願うこともなく優しい、など。

「あなたのことは良く知らないけど、あなたは優しくないし、不自由だと思う。あなたはあなたの幸せを願う人の役に立ちたいと思うべきだわ。」

ドフラミンゴの為に命を投げ出す、その見返りに、男は表面的な優しさを与えるのだろう。
そう思うように仕向ける為に。

「ベビー5だってそう。もっと自分を大切にしたら。あなたはあなたの幸せを願わない誰かの為じゃなく、自分の為に生きればいいのに。」


他人の為に生きなければ、生きて行くことを許されなかった。
そうして育って来た。
役に立つことでしか、存在を認められない。

ーーそうじゃない。
愛情は、その存在全てを受け入れることだ。

愛情を受けずに大人になった人は、不自由だ。

ルフィとは、正反対。
世界で一番自由になりたい男と。

モネは何も言えず、目を見開いていた。

しかし、研究室の扉が開く音に、ハッとする。


「モネ、ここにいたのか。」

大柄の、仕立ての良いちゃんとした服を着た男が立っていた。
サングラスをかけ、頬に何かつけている。


「....あら、うふふ、もう着いたの。ヴェルゴ。」

「それがドフィのフィアンセか。どれ。」

「そうなの。裏切りと反抗のにおいがぷんぷんしたから、あなたを呼んだ。でもこの通り、任務は成功よ。」

モネはバインダーを見せた。

「ただこの子猫ちゃん...おいたをしたわ。子供たちを唆して、ローと治療を。どうしたら良いかしら。任務の成功を信用する?それとも、始末する?」

「ふん、ドフィの指示なく勝手なことはしない。ーーしかし。」




ヴェルゴは音もなく移動してナミの目の前に立った。



「どうだ、ローをハニートラップに嵌められそうか。」

「...あなたが言うと、何だか違和感。セクハラね。」

モネが嘯いた。

「あの...えっと....」

「彼はヴェルゴ。若様の一番の腹心よ。」

「ローの裏切りをも許すドフィには頭が下がるよ。ドフィも君を随分買っているんだな。」

「...泥棒猫だもの。何でも盗めるのよ。ね?」

ナミは歪むように笑うモネの言い草に息を詰まらせた。

「そんなこと...でも」

拳を握る。早く、仲間に会いたい。

「任務は遂行する。ドフィが盗めと言うなら、盗んで見せるわ。ローを言いなりにすればいいんでしょ?ここはいつ発つの?」

「タンカーの調子が悪い。数日中には。」

「わかったわ。それに乗せましょう。盗んだモノを、ドフィに一つ残らず届ける為にね。」


ナミはモネにも負けないくらい、心の読めない顔で笑った。











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