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□人魚姫15
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人魚姫15










「シュロロロロロ...やはり人体実験はいい。手っ取り早く結果が出てくれる。」

(いた....あれがシーザーね)

薬品の臭いのする広い研究室で、ナミはシーザーに近づき、ローの心臓を探った。
持っているのか、どこかに隠しているのか、それすらもわからないからだ。

「ん...?なんだおまえは。」

「...!ま、マスター、シーザー・クラウン。私にも何かお手伝い出来ることはありますか。新しい秘書として。」

「そうか...ジョーカーが寄こした女だったな...まあいい、それじゃ棚の薬品を持って来い。A5と書いてある分だ。」

出来るだけ、会話をして、ありかを探る。
時間もない。
ナミは頭をフル回転させて糸口を探った。

「マスターはローの能力を買ってらっしゃるんですね。」

「ふん、さすがに便利ではあるな。応用次第で如何様にもなる能力だ。もっとも、我がガスガスの実の能力の汎用性には負けるがな。」

「素晴らしいですね。臓器に直接実験をしたことはあって?例えばその心臓とか。」

「これか。ローの心臓。」

シーザーは懐から心臓を取り出した。
ドクドクと脈打つローの心臓だった。

「モネの心臓はローが持っているが、おれは痛くもかゆくもない。こんな取引に乗るとは、あの男もちょろいもんだ。」

「マスターはSADを造ることの出来る唯一の科学者。一介の七武海と比べるのは酷と言うものですわ。」

「おまえはローへのスパイなんだろう。裏切りはお手の物と言うわけか。」

ナミは笑って言った。

「裏切りは私の十八番ですので。」









ナミは羽織った白衣の中にローの心臓を隠して歩いていた。

なにあの科学者。
ちょろい。
ちょろすぎる。

なぜシーザーにモネが付けられていたかわかる気がした。
私がジョーカーでもそうする。

自分の盗みが凄腕と言うのもあるだろうが、余りにもあっけなく盗れてしまった。

ポケットの中で心臓が脈打っていた。
これはこれで気持ちが悪い。
早く持ち主に返さなければ。

ローはビスケットルームで子供たちの治療をしている。

ナミは脈打つ心臓に触れた。

昨日、ローの心は一番近くにあった。
ローの語る話にナミは少し、涙を流しもした。
ローは哀れだった。
両親を亡くし、妹を亡くし、心を開いた兄までも奪われてしまった。
でも、その愛に応える為に今日まで生きて来たと。
明言はしないでも、そんな気がした。

私の話も黙って聞いてくれた。
誰だって、前に進む力が欲しいけれど、みんながルフィみたいに強くない。
悲しむことを、変えられない過去にもがく事を、ローは許してくれる。
ローにはローの過去があるからこそ、自分の過去にも寄り添ってくれた。

支え合って、やっと立てるような。

立ち止まったからこそ、強く前に進めるような。

そんな親愛を感じて。

だから、


早くローに心臓をーーーー





そう思った時、ナミは突然現れたヴェルゴに担がれて、連れ去られた。


「なっ!?何をするの!!?」

「計画が変わってね。ローはどこだ。」

「...知らないわ。タンカーの準備はできたの」

「ああ、急がせた。それで、首尾は」

「上々。」

「なるほど。」

後は、ローと共にジョーカーに下ったふりをして、船を乗っ取る為に戦うだけだ。
ローは今日の分の治療を子供たちに施し、合流することになっていた。





ナミを下に下ろしたヴェルゴは、突然拳を振り上げた。

ナミは自分が攻撃されていることを咄嗟に理解したが、動くこともできなかった。

すると一閃、長い刀が煌めいて、ヴェルゴの攻撃から、誰かに庇われたことがわかった。


「どれ、上々と言うのは本当のようだな。」

「ロー!」

ローの背に庇われたナミは、安堵の声を漏らしたが、ローの表情はそれを許すものではなかった。
油断することなどできないと、頬に汗を垂らす。

「...ヴェルゴ、貴様...」

「ヴェルゴ、さん、だ。ロー。」

ヴェルゴの指銃がローの体を掠めた。
ローの口から血が吹き出し、ナミは両手で口元を覆う。

ローが衝撃に揺らめくとヴェルゴがまたも自分を狙って来たので、ナミは目を見開いたが、視界はすぐ自分を庇うローの背中でいっぱいになった。

ーー足手まといになっている。


「この女に、手を出すな...!」

「SADの設計図を盗んでいたお前が、そんな事を言える立場だと思っているのか?シーザーをどうする気だった。泥棒猫がこれを取り返して来なきゃ、お前は無残な死を迎えるところだった。泥棒猫に感謝するんだな。」

「ロー!大丈夫...!?」

ナミが倒れたローに駆け寄る。

するとヴェルゴが背後からナミの髪を掴んで持ち上げた。

「ぅあっ!!」

「裏切ったな、泥棒猫。シーザーからローの心臓を盗ったろう。モネがいない隙を狙って。」

ナミを立たせて腕を後ろ手にギリギリと締め上げる。
骨がミシミシと音を立てた。

「ああっ!!」

顔色でバレたのか。
さすがファミリーの最高幹部は伊達ではないと。

「ドフィはファミリーの裏切りを許さない。」

「....もう、遅いわ...!」

「その手を離せ、ヴェルゴ。」

ローがゆらりと立ち上がった。

ナミに手渡された心臓を胸に押し込みながら。




ーーロー!大丈夫...!?

倒れたローに駆け寄ったナミは、心配する素振りでその刺青の手に心臓を渡したのだ。

ローは目を見開いた。
ナミは心臓を一人で取り戻して来たのだと。


心臓を取られたままでは分が悪かった。
しかし、一対一の勝負なら。



「どれ、やはりお前には罰を与えなければならないようだな。」

「昔のままならな」

ローの刀とヴェルゴの覇気がぶつかって大きな音を立てた。
その衝撃で、二人の顔に血しぶきが舞う。

この世のものとは思えない戦いの光景に、ナミは息をのんだ。

足手まといになってはいけない。

ここで戦いが始まってしまったからには、船を奪うまで戦い続けなければならない。

覚悟を決めて唾を飲み込むと、背中にヒヤリとしたものが這った。


「あら、ナミちゃん...やっぱり裏切ったの...」

クスクスと、冷たい羽が後ろからナミの体を包み込んだ。
寒さに覆われ、体が硬くなって行く。
雪に埋もれて、薄着に白衣しか着ていない体は瞬く間に冷えた。

目が、勝手に閉じて行く。
ナミはモネを振り返ろうとして、目を見張った。

ーーなぜ、あんたがここに。

モネと共に現れた男を見て呆然と思った。


「ナミ...」

切なそうに呟く声はドフラミンゴのもので、何故、ここにいるのかと、頭の端で考えながら意識を手放した。










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