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□人魚姫19
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人魚姫19










ローの傷を手当てするチョッパーは、その傷の多さに驚きながら黙々と作業をした。
随分長い間痛めつけられていたのだろうと思う。

トラ男はルフィの友達で、医者だと言っていた。
ナミの無事がわかった今、チョッパーは幾らか前向きになっており、ローや子供たちの治療に一生懸命取り組んでいた。
サンジはサムライのパーツを全部見つけて来たし、ロビンはゴミ箱の中にいたモモノスケと言う子供を見つけても来た。

「ありがとうたぬきちゃん。ナミお姉ちゃんはどこ?ナミお姉ちゃんの仲間なんでしょ?」

子供たちが口々にナミを探すので、チョッパーは困った顔をする。

生存がわかって良かった。
けれど。


「....ナミは、ドフラミンゴに連れ去られた。」

ルフィの前に再び現れたローは、それだけを静かに言った。

騒がしくなった船の上で、クルーがルフィに集まって来る。

「すぐ追うぞ!そのどれすろーばって島はどこにある!!」

「...ドフラミンゴと戦う気か。」

「こっちはナミを取られてんだ!!立ちはだかるなら戦うまでた!!」

芝生に胡座をかいたルフィが青筋を立てて、拳で地面をドンと叩いた。


「....俺は四皇を引きずり下ろす為に、...ドフラミンゴに仇打つ為に、お前らに同盟を持ちかけるつもりだった。でもお前らがそのつもりなら」

ローが静かに言った。
帽子のつばに手をかけて目深に被る。


「俺も戦う。盗られた物を取り返す為に。」


ーーあんたに死んで欲しくないの


ナミのあの顔を、忘れる事なんて出来ない。








ナミはその日もドフラミンゴの部屋の主寝室で目を覚まして、そのまま天井を見ていた。

ドフラミンゴは私を愛しているのだろうか。

こんなに手酷くされて、それでも毎晩求められて。

ジョーラ達は婚儀の話をして来るし、このままではいずれ逃げ出せなくなってしまう。

なのに、体は言うことを聞かない。
腰は砕けそうなほどで動けない。

ドフラミンゴが何を考えているのかわからなかった。

素顔のあの人にはこんなことは思わなかったのに。


ルフィは、大丈夫かな。

ローは、ちゃんと逃げられたかしら。

ナミは自分の唇に触れた。

ローの唇の感触が、まだ残っている気がして。




するとガチャリと扉が開いて、飛び上がった。

いつもは夜にしか現れない男がそこにいて、広いベッドの端に腰かけた。

「.....体は、大丈夫か。」

ドフラミンゴはいつものように素顔を晒して言った。
どうせ人払いをしてあるのだろう。

口をきくのは久しぶりだった。


「....腰が痛いわ。」

睨むようなナミの言葉に、ドフラミンゴは何故かほっとしたような顔をして、そうか、と言った。

優しい顔で微笑むのが、自分を無理矢理抱き、監禁している男とは思えなくてナミは唇を結んだ。


ーー安心したのは、ナミの口から仲間の話が出なかったからだ。


「....何か、して欲しいことは」

試すように言った。
殺したくない。
でも、帰りたいと言われれば殺してしまう。
それほど愛している女を試して。


「子供を使う実験をやめさせて。」

ナミはすぐに答えた。
ドフラミンゴは目を見開いて拍子抜けする。

「わかった。すぐにやめさせよう。」

「.....」

ナミは息を吐いてそっぽを向いた。

優しい顔の人。

されていることは許せないことのはずなのに、自分は彼を受け入れたいと思っている。

何故なら、彼の怒りは私の裏切りに向けられていた。

彼にとって、裏切りは自我を崩壊させるほどのことなのだと感じた。

もしかしたら、この人はずっと裏切られ続けて来たのかもしれない。

信じては、愛しては、自分の中の夜叉が人に背を向けさせ続ける。
覇王の気は、ともすれば人を暗黒に誘う。

それは彼の生まれ持った業だった。

血で血を洗う稼業に、どっぷりと浸からざるを得なかった業。



「ナミ。」

この道に救いがなくとも、それにただ気づいてくれる女だからこそ。


「おれはお前を愛してる。」

「うそ。」

「本当だ。」

俯く男にナミが言った。

「本当はわかってるんでしょ?私が私でいられる場所はどこか。」


私ではない虚像を愛する男が不憫だった。


ドフラミンゴは先を聞きたくないと言わんばかりにナミに口づけた。


「お前を殺したくない。なのに、お前が去るくらいならお前を殺そうとする自分がいる。足を折り、視力を奪って括りつけて置こうとする自分が。」


切実な声が響いた。
口づけはだんだん激しくなって、ナミの思考を奪って行った。
酸欠になり、頭がジンジンとした。


歪でも、私のことを愛しているのだと思った。


「あんた、おかしいわ。」

そうかもしれないと、ドフラミンゴは思う。

こんな歪んだ気持ちが、健全なはずはないと。
でも、どうしたらいいのかわからない。
歪な自分を、消すことも出来ない。


愛にも受容体が存在するなら、ドフラミンゴはそこに不具合がある。

愛を浴びても、受け取ることが出来なければ、不足する。

ーー渇望し、飢えるのだ。

そして、歪んだまま大人になる。

ベビー5やモネ、そしてこの男も。


「わたしにどうして欲しいの?」

ナミがドフラミンゴの頬に触れて言った。

ドフラミンゴは泣いてはいないのに、細い指が涙を拭うように男の頬を撫でた。
そのように、見えたから。




ーー愛する女に、愛して欲しい。

言葉には出来ず、ドフラミンゴはナミに口づけた。

相手を心から想い労わる、優しいキスだった。













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