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□人魚姫22
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人魚姫22









その日、王宮で爆発音があった。

麦わらの一味が攻め込んで来たのだ。航海士を取り戻す為に。

ローは能力でナミがいる部屋に駆け込んだが、ナミは笑って自分を出迎えた。

「ロー!ありがとう!助けに来てくれたのね!爆発音がしたからそろそろだと思ったわ!」

相変わらずの手錠をジャラジャラと言わせながらナミが駆け寄って来る。

ローはほっと息を吐いて刀を肩にかけ直した。

「王宮は広い。この部屋にいろ。」

「うん、わかった。」

怒っているような顔なのに、ローの優しさが伝わって顔がほころぶ。
ナミは、兄にするような親愛を感じていた。

どうか、危険な目に合わないようにと願う。

同じ痛みを分かち合える人。

ルフィと、仲間たちと同じように、特別になった人。

「怪我しないでね」

ナミの言葉に、ローは目を見開いた。
名残惜しそうにナミを見つめてそして消える。
一刻も早く助けたい。
ナミを助けるのは他の誰でもなく、自分でありたいと思っていた。



ローが行ってしまうと、ナミは思いつくだけの宝石を大きなシルクのスカーフで包んで、肩にかけた。
その姿はまさに泥棒。



「あきれた....全部持って行ってしまおうと言うわけ?」


ナミが驚いて視線をやると、一部始終を見ていたモネが、壁にもたれて羽の手を組んでいた。

雪が部屋に吹いた。

ナミはパジャマとして着ていた胸までしかない自分の服を見てガタガタと震える。
手錠をしているせいで、肩のある服を着られなかったのだ。
寒くて歯が合わない。

体に雪がまとわりついたかと思うと、腕の辺りでパチンと小気味良い音がした。

「え....?」

モネが、手錠の鍵を開けたのだ。

「それと、これ。」

ベッドの上にクリマタクトを置いた。

「心臓の借りは返したわ。...私は、あなたがいなくなる方がいいもの。」

ナミが近くにいると、若様が若様でなくなる。
強く、恐ろしく、人を人とも思わないカリスマについて行くことがモネのもはや変えられない命題だった。

「ありがとう....」

ナミは目をまん丸くして言い、モネは息を吐く。
それを見てナミは甘えるように言った。

「宝石は...だめ?」

上目遣いで伺うように覗いて来るナミに、モネは赤くなって口元を隠した。
甘えられているようで、まるで妹のようで。
二言目には死んでと言う、可愛くない実の妹の顔が頭を過ぎった。

「し、知らないわよっ...私は麦わらを始末しないといけないから、この部屋を出るけど...っ。次会ったら容赦しないわ」

ナミは取り乱したモネを見て笑う。

「ええ...モネ、ありがとう。」

ナミは手首をさすりながら言った。





「ナミーーーー!!どこだーーー!!??」

「麦わら屋!ナミの場所はわかってると言ったろう!手錠の鍵と、武器を探すんだ。」

「ルフィさんいっつも何にも話聞いてませんからねぇ。ヨホホ」

仲間はバラバラにナミ及び手錠の鍵を探していたが、ルフィがあまりに問題を起こすせいでローはこの二人に合流せざるを得なかった。
ブルックもお目付役という訳ではなく、ルフィが騒ぎを起こすのをただただ見守っている感がある。

「!!トラ男、来るぞ。」

強い男の覇気を感じてルフィが鋭く言った。

「....ああ。」

ヴェルゴだ。
ローが捥ぎ取った腕は治癒しており、カツンカツンと革靴を鳴らして行く手に立ちはだかっていた。

「あの〜、すみませんが、ほっぺたに付いているのはソーセージでは?」

「ああ、朝食に食べた。好物だ。」

ブルックが聞くのを、ヴェルゴが骨の男に驚きもせずに答えた。

「泥棒猫の手錠の鍵をどこへやってくれた、ロー。幹部が説き伏せてドフィに仕舞わせたと言うのに、実害が無いとは言え目障りな。」

やはりここで殺そうと、ヴェルゴが首を鳴らす。
ローは顔には出さずに情報を処理した。
誰かが既にナミを解放したのか。

「おまえ!ナミを隠してんだな!!?ナミを出せ!!ウインナー野郎!!」

「麦わらの船長か。若いな。」

少しヴェルゴの朝食が気になる様子のルフィとブルックに、ローが囁いた。

「おまえらこいつを足止めできるか。」

「無駄だ、ロー。もう人質を無価値にできるように指示を出している。ベビー5が処理するはずだ。」

ぞくりとした。
人質を無価値にすると言うことは、ナミをどうにかすると言うことだ。

「ナミさんの居場所がわかっているのはトラ男さんだけです。行ってください、早く。」

ブルックが剣を引き抜くと、ルフィも納得したようだった。

「ナミを任すぞ、トラ男。」


Dの名を持つ強い男の目に、ローは静かに頷いた。









「ああっ!!ううっ...!!」

「ごめんなさい!ごめんなさいナミ!!」

ベビー5が泣きながらナミに駆け寄った。

自動小銃になったベビー5の手は、その弾をナミ目掛けて撃ったのだ。

逃げようとしたナミは成す術もなく被弾した。

主に足。

何発かが皮膚を擦り、鮮血が流れていた。

「殺すか、歩けないようにしろって言われたの...!!あなたを殺したくなかった...!だから逃げようとしないで!」

「うう....」

痛みに耐え兼ねてうずくまるナミは、歯を食いしばりながら汗を出した。

色々な思惑があるのだと思った。

私を追い出したい者、
置いておきたい者、
王を傀儡にする為の人質、
ローを言いなりにする為の人質、
麦わらと取引する為の人質、

それぞれの思いを利用して、誰かが思いを貫く。

わからなくなる。
混乱する。

でもだからこそ、自分の目の前で起こることだけを見て判断するのだ。

例えば、目の前で自分の行いに後悔して泣いている人がいれば、泣かなくて良いと言ってやりたいと思う。

「う....ベビー5のしたいように、したらいいのに。」

涙を流すほど嫌なことなら、従わなくていいのに。

「嫌なことは、しなくていいのよ...したくないことには、従わなくても、あなたには価値がある。」

ナミは足を押さえて床に倒れ込みながら言った。

ぐすぐすとナミの横に膝をついてベビー5が泣いている。

「誰かの役に立たなくたって、あなたは必要とされる。あなたの存在だけを必要としてくれる人はいる。都合良く使われることなく、利用されることなく、あなたを尊重する人はきっといるから。」

人は扱われたように人を扱う。

優しくされたことのない、尊重されたことのない人は、それを他人に施すことができない。

でも、この人は素直な人だ。

きっと届く。
それは今ではなくても、いつか。


「ナミ!」



その時、再び部屋に駆け込んで来た男はローだった。

ナミはその姿を見て、心からほっとしたのだった。











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