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□人魚姫23
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人魚姫23








「ロー!?」

「ロー!」

ベビー5とナミが声を上げ、ほっとした笑顔を向けるナミは、心から安堵していた。

ローがいれば、もう大丈夫。
この人は、いつでも私を助けてくれるから。
仲間にするような信頼を既に感じていた。
兄のように、思っているからだ。

「お前、俺には怪我するなと言っておいて...」

床にナミの足から血が滴るのを見て、ローは側を離れたことを心底悔やんでいた。

ナミの顔が、声音が明るいのに安堵する。
もう何かを失うことに後悔はしたくない。



ベビー5は何年ぶりかに会う男に驚いていた。

鋭い目つきは変わらないのに、ナミを見る目は柔らかくて。


「ロー!ナミをっ、どうする気!?その子は若のものよ。あんたが手を出していい子じゃないの!」

「うるせえ。そんな面をしてよく言う。」

ベビー5はナミを撃った後悔でぼろぼろと流す涙を乱暴に拭いながら言った。

状況はすぐ読めた。
それでも、感謝する。
ナミの命を奪わずにいてくれたこと。

ローはナミの血濡れた足に触れた。
血で患部が見えず深手かどうかわからない。

後ろでしゃくり上げながら銃を構え、ローに向かって乱発するベビー5を振り向きもせずに首と四肢を分割した。

「ナミを連れて行かないで!せっかく出来た友達なのに!」

ローは首だけのベビー5が叫ぶのを無視してナミを抱き上げた。

足の痛みに顔を歪めたナミは、運ばれざまに後ろを向いて、ベビー5に言った。

「離れても友達よ。」

優し気に言うナミにローは息を吐いて、横顔で目だけをメイドの女に向ける。

「お前も、着いて行く人間は自分で考えろ。」

与する人間は自分で決められる。
それすら、小さな子供には教えられなければわからないことだ。

自身を尊重することを教えてもらえた、自分やナミは幸運だった。

ベビー5のように、そんな機会に恵まれない女だっているのだ。


既に海楼石の錠が外れたナミを横抱きにして運んだ。

細い腕はしっかりと首に回されて抱きついて来る。

その事実にまるで肩の荷が下りたかのようにほっとして、心が凪いでいるのを感じて、ローは驚く。

燃えるような恋ではない。
穏やかな愛だ。

それくらい、この女のことが好きなのだと。









ドフラミンゴはマンシェリー姫のいる地下牢に横たわっていた。

胸を刺された跡が嬉しくて、血を流し過ぎたのだ。

出来れば傷も、残しておきたかった。

流血に驚いた幹部にはマンシェリーの治療を勧められて来たものの、跡形無く治してしまう能力を使うことに気が進まなかった。

結局マンシェリーの元へはたどり着かずに自然に任せることにした。
血を流し過ぎて眠くなり、寝た。

覇王色さえ持つ男の体には何てこともない傷だ。

その間に宝物が盗まれているとはつゆ知らず。

ドフラミンゴは自身の王宮にいくつかの覇気の気配を感じて息を吐いた。

ーーでもあの宝は、海の側でだけうんと輝き続けるのだ。

手元に置いても愛しいことに代わりはないけれど、輝きを閉じ込めて奪って嫌われたくなかった。

ドフラミンゴは冷たい床から体を起こす。

何てことはない、人魚が海に帰っただけ。

会いに行けばいい。

会いたいのなら、会いたいだけ。

愛してもらいたい。

自分が愛した分だけ。



ーーあなたの素顔は好き。



本当の自分を見抜いていた女を、大切にしたいと思うから。

こんなに誰かを愛すことができた自分の心すらも、大切にしたいと思うから。










ドレスローザの人目につかない港にひっそりとつけられた麦わらの船で、ナミの生還を祝う宴は三日三晩続けられた。
船は失われた生気を取り戻していた。
大きな子供たちも一緒に祝い、侍も国に上陸して仲間を探していた。

ローとチョッパーに足の治療をされて松葉杖をついたナミが、仲間たちの手に出来た血豆を心配する頃、G5と銘打たれた海軍の船が近寄って来ていた。

それに気づいたナミはすぐに船を出港させ、白猟のスモーカーの船を撒いたのだ。


「ケムリンか〜久しぶりだな〜!」

「もう!海軍に居場所がバレちゃったじゃない。ドレスローザに用事があるんでしょ?」

「おう!おれトラ男と同盟組むことにしたからな!」

何の用事かはあまりわかっていなさそうな様子のルフィに、ナミが息を吐いてローに言った。

「...ちゃんとルフィにわかってもらえた?」

「いや...まァ...お前が理解してるならいい...」

「やっぱりそうなるのね。...でも、この子たちを乗せたまま無茶は出来ないわ。」

「そう言うと思ったから、これを作った。」

ナミは片方の杖に体重を預けて小さな筒を受け取った。

「これなに?」

「海軍の機密文書の筒だ。これを白猟屋に渡せば、ヴェルゴの悪事と子供の誘拐の揉み消しが明らかになるはずだ。」

「スモーカーが揉み消さない保証はあるかしら」

「大丈夫だろ。ケムリンはいい奴だと思うぞ、おれは。」

ルフィが肉を食べながら寄って来る。

「そーだよナミさん!!煙野郎の隊にはカワイコさんの女海兵さんもいるし〜!!」

「女海兵...」

その横顔を見て、ローはナミが何を思っているのかわかるような気がした。









「すみません、ちょっとそこの海兵さん。」

ドレスローザに上陸したスモーカーは葉巻を咥えたまま後ろを振り返った。

布を被った女が立っていた。
後ろのたしぎも訝しげに女を見た。
綺麗な女だった。


「これを預かって来たのです。どうぞ内密にと、でも、子供がいます。助けてあげて。」

ほっそりした腕が海軍のマークが入った筒をスモーカーに渡した。

内容を読んだスモーカーは頭を抱える。
上司であるヴェルゴがジョーカーの腹心で、子供の誘拐を揉み消していると、信じがたい内容に汗が伝う。

「もしかして、誘拐された子供たちですか...!?」

たしぎが身を乗り出す。
女はこくりと頷いた。

「ジョーカーの一味に実験台にされています。巨人化の実験に、覚醒剤まで。みんな親元に帰ることを望んでいる。私はあなた方を信用します。子供たちを、お願い。」

場所は文書に示していると、女はその場を立ち去ろうとした。

「ま、待って!」

たしぎは慌てて女の腕を引こうとして、地面に躓いてこけた。

その拍子に、女の被った布を引っ張ってしまい、女の姿が露わになった。

オレンジ色の髪の、美しい女だった。
目を見開いているのが、より一層美しい。

「...!!泥棒猫...!!」

スモーカーは十手を構えようとしたが、その女の異様な雰囲気にその手を下げた。

松葉杖をつき、両足には包帯が巻かれている。
その足は明らかに重症だった。

「なぜあなたがこのことを...?子供たちをどうして...」

「簡単に言うと、私もジョーカーに誘拐されてたの。悪党はお互い様だけど、子供たちのことだけは、見過ごせなくって。帰してあげて欲しいの。お願い。」

「それでのこのこ出て来たと言うわけか。」

「だってバレると思わなかったんだもん。」

ナミは子供のように言った。

「ルフィもあんたを信用してるし、子供たちのことは最後まで責任持ちたかったから。」

「ジョーカーの元にいたと言うのは何故...?あなた達にどんなつながりが...」

たしぎが眼鏡をしっかりとかけ直しながら言った。

「知らないわよ。婚約者に仕立て上げられて、こっちも迷惑してるの。いい情報をあげたんだから、見逃して。」

そう言うと、スモーカーは突然、ナミの体を横抱きにして抱え上げた。
上等の葉巻の匂いがした。

「とりあえず、子供の元へ案内しろ。」





子供たちをG5に託すことが出来たナミは、子供たちとの別れを惜しみながら、蜃気楼に隠れてスモーカーたちの前から姿を消した。












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