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□人魚姫26
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人魚姫26
若end










その日、エリザベス号もかくや、と言う豪華客船の上で結婚式が行われた。

新郎は、少し年嵩のあるこの国の国王。
そして新婦は、オレンジの髪のうら若き美女であった。

国賓が祝福の拍手を惜しみなく送り、式は感動的なものになった。

新婦が浮かない顔をしているのも、あまりの幸福に緊張しているのだろうと誰もが思っていた。

誓いのキスに新婦が一筋涙を流したのも一層感動を誘った。

ベビー5に至っては号泣していたし、モネもふさふさの翼で拍手を送った。デリンジャーは美しい刺繍の入った長い長いベール持ちをして満足そうにしていた。


ローや麦わらの一味がナミを取り戻そうと王宮を半壊させ、襲撃して来たのは数日前のこと。

ドフラミンゴはそれをいち早く察知して撃退し、しかも仲間が助けに来たことをナミに知られることもなく終息させてしまった。

ナミは知らない。
仲間が助けに来たことも、ローが助けに来たことも。

その代わりに結婚の話を進めた。

最高幹部の反対を押し切り、どうしても、婚姻を結びたかった。

そうすれば、人魚姫が海に帰っても、心は慰められる気がした。







「...痛い?」

おずおずと、男のいる部屋を訪ねて来たのはナミだった。

ドフラミンゴは胸がわくわくするのを止められない。
まるで初めて恋をしたような若い少年のように。

「この程度の傷で泣いてるようじゃ、七武海は務まらねぇよ。」

「...倒れてたって聞いたわ。」

私が刺したことを、誰にも言わなかったのね。


ファミリーに弓引くだけでも折檻されたくらいだ。
その頂点であるドフラミンゴに危害を加えて、そのままの待遇が受けられるはずがなかった。

「それはおまえの傷が原因じゃない。ちょっと海賊とやり合ってね。」

「ルフィが来たの...!?」

「...あいにく、麦わらは来ねぇなァ、お前を助けに。もう諦めたらどうだ、ナミ。」

「そんなはず...」


ナミはしゅんとする。
助けに来ない、そんなはずはない。
けれど、仲間に危害を加えられたくはない。

ナミの思いに報いたいと、この男は言ったけれども、その日用意されたのは純白のドレスだった。
その美しさに眩暈しそうになるほどの、花嫁のウェディングドレス。
滑らかな指触りに透けるような宝石が散りばめられて、思考を奪われて美しいとそれ以外何も考えられなくなる。


そうして迷い惑うナミを無理やりに船に乗せて、バージンロードを隣で歩かせた。


誰もが、祝福の拍手を惜しみなく送り、式は感動的なものになった。

新婦が浮かない顔をしているのも、あまりの幸福に緊張しているのだろうとその場にいた誰もが思っていた。


この幸福の絶頂にある式場に、嵐が忍び寄っているのを感じたのは花嫁だけだった。


ベールの中から空を見上げたナミは、花嫁のそれではない凛々しさを顔にたたえていた。

新郎が小さく声をかける。

「どうした。」

「嵐が来るの。」


二人は司祭の前で誓いのキスを交わした。

花嫁が一筋涙を流したのが一層観客の感動を誘った。



その晴天が牙を剥くように一転、空に暗雲が広がり強い雨足に式の進行が止まるまでは一瞬だった。


ナミはチャンスだと思った。

どさくさに紛れて、海に身を投げたらどうだろう。

ドフラミンゴは追って来られない。
能力者だから。

私を愛してるから、その覚悟を汲んでくれる気さえしていた。
強い雨が頬を叩く。
ごくりと唾を飲む。

結婚式の為の海上だ。
海岸線からはそう離れていない。
危険だけれど、でも。









ナミは嵐の海に身を投げた。


そして目が覚めた時、またあの男と出会った時のような砂浜に、倒れていたのだった。










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