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□人魚姫28
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人魚姫28
若end











王宮は静まり返っていた。
濡れた服を替え(全く、いくらのドレスを潮まみれにしちゃったのかしら)、ナミはシャワーを浴びた。

ドフラミンゴはまさかの、別のシャワールームに行ってしまったので、またナミの怒りが心頭に発する。

(こっちに入って来ないなんて!!もうそんなに一緒に居られないのに!!)

ナミはぷんすかとバスローブを羽織って髪を掻き上げた。

よく洗ったはずなのに砂がパラパラと落ちる。

何もかも思い通りにならないような気がしてイライラとパウダールームにあるスツールを蹴った。

豪華な装飾が蹴った足に当たって痛かった。

それに更にむしゃくしゃする。

「...もう!」

「どうした。」

扉にドフラミンゴの姿があって、ナミは飛び上がった。

「にゃっ!!」

(かわいい)


猫のように声を上げたのを見て心が和んだ。
どうにも相手のいいところばかりが目について、目に入れても痛くない状態になっている。


心まで手に入ったと思うと、世界が変わるようだった。
喉から手が出るほど欲しかった、女の心が。

あんなに冷たいと思っていた世界が、こんなに暖かなものになるなんて。



「何笑ってんのよ。」

優しい顔でにやける男に、ナミがバツが悪そうに言った。
纏めたオレンジの髪をぱさりと降ろしてその間から伺って来るのは、どうにも色気があった。

「いや、何でも...」

「...もう一緒に居られないのに、なんで別のとこに行くのよ...バカなんじゃないの...」

ぶつくさと言うナミの言葉に衝撃を受けた。

癖だ。

浴室に一人で行くことは、能力者であり、周囲に素顔を隠しているドフラミンゴの癖だった。

その必要はないのだと、恋人は不満を抱いていた。その時間さえ惜しんで、一緒にいたいと思ってくれた。

言ってくれて良かったと思った。
気づけないところだった。


「それもそうだ。もう一度入るぞ。」

「は!?何言って...」

「悪い、悪かった。おまえの気持ちに気づかなくて。」

「や!もういいから」

「俺はよくない。」


結局、男に担がれてもう一度シャワーする羽目になったのだった。











「あなたが帰って来てくれて、本当に良かったわ。」

「ごめんね、ロビン。心配かけて。」

ロビンが深刻だけれども、心からほっとした様子で言うのにナミが申し訳なさそうに謝った。
甲板で、船はすっかり以前の生活を取り戻している。

「ルフィは食事を摂らなかったのよ。ゾロはずっと外にいたわ。サンジは煙草が増えた。ウソップは口数が少なくなったし、チョッパーは体調を崩したわ。フランキーは手を使い間違えて物を壊したし、ブルックは唄を歌い続けた。....私は毎日、空のベッドを見る度に泣いていたわ。」

「ロビン。」

「喧嘩が絶えないの。誰もがあなたが見つからない焦りで苛立ち、衝突していたわ。...お願いだから、もう、いなくならないで。」

ごめんね、とナミが言うと、背の高い女性に抱きしめられてとても安心した。
きっとクルーの誰がそうなっても、この船は機能不全だ。
ナミは船が自分をどれだけ必要としているかを感じて涙が出そうになった。




「それで。」

「?」

「あのドフラミンゴに見初められてしまったわけね?」

嫉妬の炎に駆られながらロビンが低く言った。

ドフラミンゴに担がれてナミが船に帰されたのは2日前のこと。
ローはドレスローザ襲撃に備えて仲間を呼び戻す為に別行動をしていたし、麦わらの一味は密航出来そうな港を探しているところだった。

「うーん、成り行きだけど...」

「街の噂では結婚したとか。」

「まあ、無理矢理ね。別に何の効力もないでしょ。海賊だし。踏み倒せばいいだけよ。」

「着たの。ウエディングドレス...」

「ええ。」

(見たかった...)


そんなことを言っていると、晴天だった空が曇って来たのでナミは空を見上げた。

バサリ、バサリとピンクの鳥のような物体が飛んで来るのに肩をズルリと落とす。

何故あの男がここに。



「...ミンゴか!?」

ルフィもいち早く察してぴょん、とマストから降りてきた。

「よう。麦わらの小僧」

「ドフィ、あんたなんでここに...」

「フッフッ、曇ってたからな。」

しっかりとサングラスをかけた男は不敵に笑って麦わらの船に降り立った。

「おまえ!!何しに来た!」

「別に危害を加えようと言う訳じゃない。ナミを攫うつもりもない。顔を見に来ただけだ。」

「なんだ。じゃ、いいぞ。」


自分の前に立ちはだかる訳ではない敵に、ルフィはこういう対応をする。
他のクルーも、こうなってしまえばただルフィに従うだけだ。
ナミが船に乗っているなら、大概のことはこの麦わらの男に許されるのだ。


それから2日と開けずにドフラミンゴはナミを訪ねる。
どうやら、あの男は心底ナミに惚れているらしいと仲間が苦々しげに見守る中。



それでも、戻ったローが仲間と共にシーザーの拉致を成功させ、ナミ達と別行動になった時には既に、ドフラミンゴの敗北は決まっていた。


なのに、ドレスローザのドフラミンゴ体制崩壊の後もそれは続いたのだ。






「脱獄して来るなんて。」

「だって、会いたい。」

どこかのホテルのベッドの中で、額にキスされながらナミは金髪の男の顔を見た。

束の間の逢いびきだった。

地位も肩書も何もかも失ったただの男が、仲間の前では求めて来ない男が、立ち寄った島の港に現れて共に過ごした。

こんな風に、隠れて。
会う度に、これが最後かもしれないと思いながら、この男が目の前に現れる限り拒むことはない。


「...私のビブルカードを勝手に作ったのね?」

「当然。」

素顔でにやりと笑う恋人に、ナミは胸がきゅんとするのを感じた。
非難しようと思ったのに、あまりにも当たり前のように認めて来るので、その自信満々な顔が好きだと感じて。

横に寝ていた男がごろりと上になって見つめ合う。

「疲れたか?」

「....どういう意味で」

「こういう意味でだ。」

胸の先を口に含まれたので思わず声が出る。
その様子に満足そうに男は笑う。

もうお互い何度も絶頂したけれども、一緒にいる時間が愛おしくて。


「ん...だいじょうぶ。すき...」

小さく呟いて白い腕を回す。

ペロペロと胸を舐められるので腰を捻って逃げ、背中を覆われて胸を揉まれた。

このポーズにぞくりとするほどの記憶が呼び出された。
ドフラミンゴに無茶に抱かれた時の、後ろから責められ続ける記憶が。

「んっ、ねぇ。」

「なんだ」

「....後ろからが好きなの?」

正直、興奮する。
しかも、愛があると余計に。

「いや?お前とならなんだって」

「そうなの」

「おまえは」

「きらいじゃ、ない」

男は目を見開いて、赤い顔で目を逸らす恋人を見た。

「嫌いじゃない?」

「ん...」

「どれがいいんだ、おまえは」

楽しそうに男の目が伏せられる。
上気で桃色に染まる女の身体を見て、興奮と愛しさがない交ぜになる。

「そ、れは」

「うん?」

「は、恥ずかし...」

くつくつとドフラミンゴが笑う気配に、ナミはきつく目を瞑った。

男はと言えば止めようとしても顔が笑うのを抑えられず片手で口元を覆っていた。

可愛いと思う。
こんな恋人のような会話をするのもいい。
楽しくて胸が弾んだ。

こんな平凡な幸せがあるのだと、驚く。
隣にいるだけで満たされるのだ。
体の快感を得るだけでは手に掴めないものでいっぱいになる。


これまではただ、自分以外の人間を道具のように思い、軽く扱い、いくらでも甘言を吐いて人心を掌握することが当たり前だった。

たった一人を愛するだけで自分は変わるのに。

あんなに冷たいと思っていた世界は、こんなことで見違えるのに。


「んっ、ハァ....」

「これは」

「気持ち、いい....っ」

大きな手が脚を撫でて、爪で内腿を軽く往復されるとぞわぞわした。

「これは」

「う、ぁんっ...やっ...!」

片方が胸の先を摘むのに堪らず声が上がった。
ドフラミンゴはその表情を脳に焼き付けるようにじっと見つめて、胸がドキドキしてその感情すら閉じ込めたかった。

「これは」

「あっ、ん、なに、あんた、全部聞いてくるつもり...っ!?」

「だって」

「だってじゃない!恥ずかしいでしょ!?」

ペチッと男の腕を叩くとそれだけでも嬉しそうにした。
するとドフラミンゴが脇腹をがしがしとこそばして来たので、ナミは笑いながら身をよじった。

「あっはは!や、めて!うふふっ、もう!ドフィ!」

ナミも負けじと男の脇をこそばした。

余りのことにドフラミンゴはナミの手を拘束した。

愛しい人を組み敷いて見つめ合った。
普通の恋人のように。



キスをして、肌を重ねる。



想い合ってしまったら、飛び込むしかない。

愛は深い海のようだ。

それでも、悪魔の力で溺れても、この人魚が陸に引き上げてくれるから。










いつか、この人を幸せにすることができるなら、それは物語の最後に相応しい言葉で締め括られるのではないでしょうか。



二人は幸せに暮らしました。










End

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