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□4.バルトメロン
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4.バルトメロン










バルトロメオは目を覚ました。
自室のベッドの上に運ばれたのだ。
見慣れた天井を眺めながら、気絶した理由がぼんやりと思い出された。

美しい背中。
脇から見える形の良い胸のふくらみ。
しかも、憧れてやまないその人の。
見てはいけないような、申し訳ないような気持ちだけだったはずだ。
やましい思いを抱くことさえ許されない、崇高な存在のはずだ。

なのに、興奮して、頭に血が上って、倒れるなんて。

許されない。

ここから先数ヶ月禁欲しよう。
好物は断とう。
毎日タンスの引き出しに手をバッチンと挟まれるか、身体中至る所にピアスの穴を開けまくるくらいしかバルトロメオにはこの重罪に対する償いが思いつかなかった。



あーーー!!!オラは何てことを思ってしまったんだべ...!!


女神の肌に、触れたいだなんて。



とりあえず、体を起こして頭を柱にでも打ち付けようとベッドから出ようとすると、バルトロメオは横を見てぎょっとした。


オレンジの髪が広がり、今まで寝ていた布団に突っ伏ししている。
長いまつげに縁取られた目は閉じられて、すぅすぅと静かに寝息を立てていた。


ナナナナナミ先輩....っ!!


何故こんなところに、一人で。

バルトロメオはパニックに陥り、ベッドから飛び降りてあわあわと両手を上下にバタバタさせた。

こんなところで女神を寝かせては、罰が当たる。
そのままの格好では体も痛いだろうし、冷えてしまう。
だって、肩はむき出しで、肌も....イヤイヤイヤ!見ては駄目だ。
とにかく、ベッドにナミを寝かそうと、バルトロメオはその体を持ち上げようとしたが、触れてはいけないと思う理性が完全に邪魔をしてナミの周りで手をパタパタとしただけだった。

だって、触れたら。

自分はどうなるのか?
爆発でもするんじゃないか。

目くばせされただけでも頭が沸騰しそうになったのに。

それでも、風邪を引いて辛そうにする女神を想像した。
それは嫌だ。

バルトロメオはごくりと唾を飲んで、ナミの腕を持ち上げて自分の肩にかけた。

大丈夫。寝ている。

柑橘類の爽やかで清廉な匂いが鼻をくすぐって、幸せな気分になった。

背中に触れて脚の下に手を入れ、抱き抱えてベッドにゆっくりと下ろす。

他の部分を見てはいけないと思ったので、目はオレンジの髪だけを見ていた。

「んん、あれ、私、寝ちゃってた...?」

上掛けをかけようとした矢先、鈴の声が聞こえたのにバルトロメオは飛び上がった。

何もやましいことはないのに汗がだらだらと出る。

「なっ、ナミ先ぱ」

「大丈夫?あんたずっと意識がなかったから。」

ナミが体を起こして男を見た。

「何でここに、ほ、他の奴らは」

「宴会をしてくれたんだけど、みんな潰れちゃったわ。キャベツくんはハクバになっちゃったからみんなと闘ってそのまま寝て、そのせいで気絶してる人も何人か。誰も残ってないのよ。今誰かに襲撃されたらやられるわよ、この船。」

私しか残ってなかったんだもの、とナミ。

「まあ、霧の多い地域だし、碇は下ろしてもらったわ。航海はまた明日。私はここで寝ていいの?」

「ほえっ、もっ、もちろんです!!」

「そう、じゃ、一緒に寝る?」

ナミは自分の長い足を引き寄せて膝に頭を預け、にやりと笑った。

退屈していたし、面白そうだと思ったから。


ギャーーー!!!女神が何か!!
言ってるべ!!!
よくわからない言葉過ぎて脳が処理できねぇべーーー!!!


思っていることが声に出さなくてもわかる様子にクスクスと笑う。

「冗談よ。ちょっと、飲みましょ?目が冴えちゃった。」




グラス2つ。
琥珀色は波に揺れる。


「あ、そうなんだ。電電虫で知らせが来て、それで探しに来てくれたの?」

「んだんだ...そ、そうです!ゾロ先輩から電話もらった時は倒れそうになったけんど、何とか堪えて、ナミ先輩がいなくなったって言うんで、こりゃ一大事だべ!と...」

「ありがとね。もう連絡はしてくれたんでしょ?」

「ハイッ。みんな安心してたべ。ナミ先輩も明日また電電虫を使ってくれたらよろしいので...ルフィ先輩のビブルカードを頼りにうちの船で送り届けるんで」

「ほんと、助かったわ。ハクバが何するかわかったもんじゃないもの。」

「あいつに連れ去られたんだべか。」

「寝てる間にね。お気に入りのパジャマも切り刻まれるし散々よ。」

ベッドから脚を下ろしたナミが膝に頬杖をつく。
バルトロメオはごくりと唾を飲んだ。
二人きりでこんな風に会話ができるなんて、夢のようだった。

(駄目だべ、そう思うと、涙が後から後から...)

バルトロメオがじわりと目尻を潤ませるので、ナミが不審に思って聞いた。

「ねェ、なんでそんなにルフィが好きなの??」

じっと顔を覗き込んで来るのが近くて、バルトロメオは真っ赤になった。
近過ぎて息をすることもできない。

「そっ、それは...」

「それは?」

酔ったナミは鼻先が触れそうな距離で機嫌が良さそうににやりと笑って、バルトロメオのグラスにウイスキーを注ごうとした。

「ナミせんぱ、ち、近いです...」

「ん〜?私の酒が飲めないって言うの?」

「いや、そう言う訳じゃねぇです...」

どこまでしたら、靡くのか見たい。
猫は気まぐれ、逃げれば逃げるほど追いかけたくなる。
捕まえて、ゴロゴロ遊んで、飽きたらそのまま放置するけど。

「じゃあ、私のことはどう思ってるの?」

ずい、と鼻先を近づけて耳元で言った。

「私の手配書に黒幕を掛けたのはどうして?詳しく聞かせて?」

ナミは妖艶な目つきで言う。
バルトロメオは可哀想なくらい耳を真っ赤にさせて目をぎゅっとつぶっていた。

「それは...!クルーが不埒な思いを抱かないように...」

「不埒な思いって、なに?」

ナミはにやにやして男をからかった。
だって面白い。
可哀想なバルトロメオは汗を垂らしながら追求を逃れることに必死だった。

「へ、変な気持ちを持たないように...」

「変な気持ちって?」

ナミもベッドから下りて、床に座ったバルトロメオを追い詰めて行く。
本当に猫のようにしなやかに、床に手をついて前に進むと進んだだけバルトロメオが後退した。

「バルトメロン君」

「は、ハイッ」

完全に間違えて名前を覚えられているのに自分のことだと認識する。

「あんたもなった?変な気持ち。」

ペロッと舌舐めずりをする猫のような可愛さで、にやりと笑ったナミを見てもう言葉が出なかった。

なった。
なりました。
誰にも見せたくないとそう思いました。

でもそんなことは言えない。
神聖な女神をそんな目で見るなんて。

「あら、私は女神じゃないわよ?」

声に出ていたらしい。

ナミはついにバルトロメオの頬に触れて耳打ちした。


ーーナミって呼んで。


真っ赤な顔の男ににっこりと笑う。

「ねェ、なったの?変な気持ち。教えてよ。」

「〜〜〜!!」




その時、明け方の海に大きな音が鳴り響いた。
まるで、誰かの暇つぶしで船が一刀両断されたような音が。










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