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□5.ペローナ
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未遭遇5








「ギャーーー!!ルフィ先輩の先頭が!!」


甲板に出たバルトロメオは頭を抱えた。
船を真っ二つとは行かないまでも、船首に施されたルフィの彫刻が斬られて海にぷか〜と浮いていた。

「何者だべーーー!!なんでこんなことすんだべ!!??この野郎!!」


目の前に浮かぶのは不思議な船だった。
この新世界の大海原を航海するには、小さ過ぎる。
様々な船の扱いに精通するナミには無駄な装飾が多すぎると思える、小船だ。
あれでは乗れて5人、帆の扱いも単純で、どんなマジックを使ってこの海を渡って来たのか興味が出るほど。

「.........」

朝焼けの爽やかな海原で、鷹揚に腰掛ける男はゆっくりと口を開いた。

「暇つぶし。」

「ハ!?」

バルトロメオが大口を空け、ナミが腕を組む。

「あれってもしかして...」

鷹のような目。
精悍な髭。

記憶に間違いがなければ、王下七武海の...

「おい!朝っぱらから何をやってんだ!」

そう言って小船の内部から出てきたのは、ピンク色の髪を乱雑に纏め上げた少女だった。

どこかで会ったことがあると思ったのは、その髪の色やふりふりのレースの服装から間違いないが、それにしても目の下にクマが出来ており、やつれている。

「こっちは漂!流!してんだぞ!!せっかく船を見つけたのに、ぶった切っちまう奴があるか!!」

「漂流しているつもりはない」

「正気か!?こっちは食糧も尽きそうで心労で死にそうなんだよ!!」

鷹の目に怖気付くこともなく喧嘩腰の少女に、ナミは怪訝な視線を向ける。
暇つぶしで船頭を斬られた気の毒なバルトロメオも同様のようだった。

「おい!テメーら!ありったけの食糧とシッケアール王国へのログポースを渡しな!!」

少女に命令されて気をとりなおしたバルトロメオは手摺を握りしめて叫ぶ。

「ばっ、バカヤロー!!そんな要求を飲む海賊がどこにいるんだべ!!ルフィ先輩直してけえれ!このスットコドッコイ!」

「ふん、こっちも生死がかかってんだよ!くらいな!ネガティヴホロウ!!」

ピンクの髪を振り乱して少女が構えると、幽霊のような透き通った物体が現れた。

その幽霊はあっという間にナミとバルトロメオに襲い掛かったが、咄嗟にバリアを張ったバルトロメオは攻撃を受けずに済んだようだった。が。

ーーしまった!ナミ先輩...っ!

隣でナミの膝が崩れ落ちた。
背筋がひやりとする。
敬愛する人を、危険に晒してしまったと。

「ナミせんぱ...」

がくりと四つん這いになったナミが呻く。


「うっ...海賊女帝に匹敵するほど、美しすぎて、ごめんなさい...」

はらはらと涙を流すナミ。


さ、さすがだべーーー!!

ナミ先輩、ネガティヴなんだかポジティブなんだか、全然わからないべーーー!!


バルトロメオは、顎が外れそうな勢いで口を開けた。
彼の中でナミの神格化は止まる気配を見せない。

「なんだ...?効いてるのか効いてないのか全然わからねぇ...」

ピンクの少女が汗を垂らす。

「ま、まあいい!そこのトサカ男!早く要求を飲め!」

「バカ!ナミ先輩をすぐに治すんだべ!」

「その女はアホだ!全然ネガティヴじゃねぇよ!」

「なんつったべこのスットコドッコイ!?」

ギャーギャーと言い合う横で鷹の目の男が静かに口を開く。

「いいのか?ゴースト娘」

「あん?」

「あの娘は確か、麦わらの船の航海士だぞ。腕にログポースをしている。」

「ばっ、それを早く言えって!」

ペローナはふわりと飛んでナミの身柄を確保する。

「おいトサカ男!この女の命が惜しければ食糧をありったけ持って来い!!」

「待て!ナミ先輩をどうする気だべ!?」

「お前に教える義理はねぇよ!早くしな!」


結局、食糧を両手いっぱいに抱えたバルトロメオが船から出てきた時には、ゴースト娘ががっくりとしたナミを抱えてふわふわ飛んで船を移っていた。

「ナミ先輩ーーー!!」

食糧の袋を小船に投げ込まされると、鷹の目の船は遠のいて行った。



ペローナはナミをどさりと船に降ろすと言った。

「まあ、都合良くシッケアールのエターナルポースがあるとも思えねぇし、航海士が居れば上々だな。」

バルトロメオの船が見えなくなったことを確認しながら、ふーと腕で汗をぬぐう。

「テメーもよく今まで航海できたな。どうやって海を越えて来たんだよ。」

ペローナに睨まれてミホークは何も言わず帽子をかぶり直した。


「適当。」


「ひでーな。」


新世界はグランドライン前半の海に輪を掛けて航海が難しい。
神出鬼没の御仁だが、まさか適当に海を渡っているとは。

「おいっ、女!」

がっくりと床で項垂れていたナミに、ペローナが声をかけた。

「...はっ!」

「正気になったか。悪いがこの船でしばらく働いてもらうぞ。」

「な、なになに何なの?」

ナミが混乱しながら頭を抱える。
私は今までバルトメロンくんの船にいて、ルフィの元に送ってもらうつもりだったのに。

ナミは少女と男を交互に見て、慌てて自分の体を抱きしめた。

「働く...!?まさかあんた、私にいやらしい労働をさせる気じゃ...!?」

「やっぱりこの女アホだな」

ペローナが息を吐いて腕を組んだ。

「この船は嵐に巻き込まれてログポースを失ってしまった。お前の航海術が必要だ。」

ようやく口を開いた鷹の目に、ナミはヤバいセンサーを駆使して自分に危険がないか算段する。
命を取られる訳じゃない...
敵の船に乗っている以上、一連托生だし。


「...わかったわ。この船にいる間は、航海士として仕事をする。」

「物分かりが良くて助かる。」

「ふん、私は腹が減った!あのトサカは何を寄越して...」

ガサガサとペローナが袋を漁ると、新鮮な野菜が顔を覗かせた。

「なっ、何だこれは...!?まるで美容に配慮したかのような食材...!」

航海に付き物の味気ない保存食、チーズや硬いパンが入っていると思ったのに、サラダに出来そうな野菜や、ココアやライムのジュース、塩に付けた肉の塊にチョコレートまで。
長期間の航海では、ありつくのが難しいものばかりだ。

ーーナミ先輩に、変なものは食べさせられないべ...!

どこかで親指を立てて言うバルトロメオの気配がする。

「ああ、おばあちゃんの知恵で、船のプランターで野菜育ててるって言ってたわ...」

ナミが笑う。あの短時間でレタスを摘んできたのかと。

「ああ!久しぶりの野菜!ココア!さっそく調理して...!」

目を輝かせる少女はあどけない。

「!!待て!ゴースト娘っ。貴様はパンを炭にしてくれたろう」

感情の乏しそうな鷹の目が少し慌てるのを見てナミが驚くと、ピンク髪の少女は憮然として押し黙った。
そこそこ長い間ちゃんとした食事を摂っていないのだろう。
やはりどこか少しやつれている。肌に張りもない。

「...キッチンあるなら私やろうか?有料だけど...」

かくして、鷹の目の船の小さなキッチンにはナミが立つことになったのだった。

「ペローナ、ちょっと火を見ててね。」

「おう。」

キッチンに並ぶ二人は、後ろ姿も華やかだ。

「...ちょっと!何で見てるだけなの!?焦げるわよ!?」

「なっ...!お前が見てろって言ったんだろ!?」

「火加減を見てよ!」

調理をする間に自己紹介を終えた二人は既に遠慮がない。

ーーどこかで会ったことがある気もするけど...

ナミは肉を煮込みながらペローナを見る。

ーーま、いっか。


細かいことは気にしない。
それがナミの最近の信条なのだった。










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