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□8.サンベリーナ
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未遭遇8








荒々しく開けられた扉から、入って来たのは海軍だった。

「見つけたぞ!!」

海軍を率いる男がこちらを見て声を上げる。
酒場にいた客は厄介ごとに巻き込まれないよう虫を散らすようにいなくなった。

ナミはガタリと席を立つ。
なぜか、サボも同様に弾かれたように席を立った。

「俺か?」
「私を!?」

言葉が被った二人は驚いて顔を見合わせた。

「君を?」
「あなたを!?」

サボは取り乱すこともなく落ち着いている。

「革命軍の参謀長、サボだな。」

あ、なんだー良かったー私じゃない。と、ナミは思った。
何だか不穏な肩書きのような気もしたが、そんなことはいい。
自分に火の粉が降りかかる前に、早く一般人としてここから離れなければ。

「大佐!あの女、見覚えがあります!麦わらの一味の泥棒猫では!?」

海兵に指を指されて、ナミは機嫌が悪そうにぶすっとした。
バレてしまったようだ。

「へえ、本当に海賊だったのか。しかも麦わらの」

サボが横でにやりと笑った。
余裕の、捕まるつもりの微塵もない顔で。

「なによ。そんなに余裕あるならなんとかして見せなさいよ。」

「へいへい。お姫様。」


面白そうに笑ってサボが帽子を被った。
手袋をした腕を翳し、取り囲まれる前に動いた。

サボの手から炎がわっと噴き出したと思えば、慌てる海軍達を退けて道を作った。
ナミは顔に感じる炎の熱さとその業火に目を見開いて驚く。

「よっと。」
「えっ!?」

呆気に取られていたナミを横抱きにすると、そのまま炎の中を駆け抜けた。

そしてあっと言う間に海軍を撒いて、サボは海に向かっているようだった。

横抱きにされたまま夜の街を駆けるのは風が気持ち良かった。

「...冗談だと思ったのに。まさか本当に革命軍の幹部なの?」

落ちないようにしっかりとサボの首にしがみついてナミが口を尖らせる。
屋根の上を飛ぶので降ろしてもらう訳にもいかなかった。

「実を言うと本当だ。でも、おれもまさか君が海賊だとは思わなかった。幼稚園の先生ではないと思ったけど。」

「あのね。」

「ただあんまり綺麗だから、気になったってこと。」

ナミが少し驚いて、満更でもなさそうに頬を赤くする。

「でも気づいたよ。麦わらの一味のナミだったんだな。じゃあ話が早いし、送って行く。」

にこりと笑うサボを見上げてナミが食いついた。
首にぎゅっと巻きつくので顔が寄る。

「あるの?船っ」

「特製のやつがな。乗って行けよ。」

いかにも頼れるお兄さん、といった様子でサボが言い、ナミは考えた。
革命軍と言うことは、彼も追われる身。
軍に突き出される心配はない。
知らない船に乗せてもらうことに、あるいは得体の知れない男に頼ることに不安がないではないが、彼には自分へのほのかな好意がある。
何より、早く仲間のいる船へと戻りたい。

港に着くと、サボはナミを抱えたままクルーザーのような造りの船舶に飛び乗った。
帆がなく、動力が謎。
居住設備もあり、そこそこの大きさ。
降ろされたナミはキョロキョロとして船の縁に乗り出し、船全体を見渡した。

「え、この船?他の乗組員は?」

「この島に来たのはおれ一人。仕事で。」

「どうやって動かすの?帆もないのに。」

「...ナミは航海士だったか。」

サボは優しい顔で笑った。
まるで兄が下の兄弟を心配する時のように。

「言ったろ。この船は特別製だって。動力はこれだ。」

サボの手が揺らめいて原形を失った。その代わり炎に覆われ意思を持ったように動き、船後部のタービンを回して、船を動かしていた。

ゆっくり港を離れて行く船の上で、その光景を見たナミが息を吐いた。

「本当に悪魔の実って非現実的よね。どんなにすごいことかわかる?風も要らない、燃料も要らない、その能力はとんでもないお宝よ。」

「そう思う。まあ船を動かしてる間、おれは休めないけどな。」

相づちを打つようにくすりと笑って、ナミは口を開いた。

「その能力って、以前はーーーいえ、何でもないわ。」

言いかけて、やめた。
炎の力を動力にして、去って行った男を知っていた。
2年前の戦争で失った、ルフィの大切な人。

「...エースには、会ったことが?」

「え?ええ、ある、けど」

「おれはまだちゃんと自己紹介できてないかもしれない。おれとエースとルフィは、兄弟なんだ。」

サボはビブルカードを取り出してナミに見せた。
ドレスローザで受け取った、ルフィのものだ。

「...エースの他にもお兄さんがいたなんて。」

「ああ。色々あったよ。小さい時は。」

ナミはじっとサボの横顔を見た。

「エースも、炎で船を動かしていたわ。」

「へえ。」

興味深そうに眉毛を上げる。

「ルフィのお兄さんなのに、礼儀正しくてびっくりした。」

「ああ。随分仕込まれてたな。」

「あなたも。ルフィのお兄さんのくせに、落ち着いてるわ。このビブルカードがなきゃ、ちょっと信じられなかったわね。」

「はは、ああ、そうだな。ルフィとドレスローザで会ったけど、全然変わってなかった。
あの国でメラメラの実を見つけたんだ。ルフィはもう食えないからって、おれが後を継いだよ。」

「そうだったの...」

巡り合わせ。
そう言ったものは、きっとあるのだ。
ここでサボと出会ったのも、何もかも神様か何かの思し召しだ。

炎で動く船が波を割って進んでいた。
夜風が心地よく、ナミが進む先を向くと長い髪が後ろに靡いた。

「でも、君みたいな人がルフィの側にいて安心した。」

サボが笑うのでナミは振り返った。

「船のこととなると生き生きしてる。知らなくたって航海士だとわかった。
ーー何でナミはここにいたんだ?一人で。」

言われてナミは肩をすくめた。

「話せば長くなるわよ。本当大変だったの。」

「そうらしいな。」

「まず、船で寝てたらハクバって奴に攫われたでしょ。風よりも速く動けるんだって。そいつが実は二重人格で、キャベンディッシュって人でそれからーー」

「待て待て。二重人格?」

ナミが指を折りながら言った。

「そう。起きたら廃船に連れ込まれてたの。」

「何でまた。ーーいや、何となくわかるからいい...」

ベンチに座ったサボはズルズルと姿勢を崩した。

「災難でしょ?そしたらバルトロメオが助けてくれてルフィ達にも連絡してくれたんだけど」

「.....」

「今度は鷹の目のミホーク一味に攫われたの。」

まるで親指姫サンベリーナ。
早く家に帰らないと結婚させられちゃう。

「...それで」

「この島に着いたので、ああ、さっき出た島ね。船から降りて撒いたわ。あのままじゃ連れて帰られそうだったから。」

サボは脱力した。
何という展開。次から次へと面倒に巻き込まれて。
そして自分と出会った。

「じゃあおれは、そいつら全員に感謝しないといけない訳か。」

「?どうして?」

首を傾げて見つめられて、サボは息を飲み込んだっきり言葉を発することが出来なくなってしまった。

突如として、恥ずかしくなった。
初めて恋をした時のように、心臓が大きく跳ねたからだった。

「あー...いや、何でもない。」

「でもまさか、ルフィのお兄さんとこんな所で会えるとはね。ーーもしかして最初から気づいてたの?」

カウンターに座った時から。
サボは少し赤い顔を自覚しながら言った。


「...どこかで見た顔だとは思った。すごく綺麗だった。だから声をかけないなんて選択肢は、全くなかったし。」

ナミがぽかんと口を開けた。

「話してて楽しいし、いい子だと思った。いや、それは今。
最初は、ただ本当、なんで連れもなく一人なんだろうと思って...いや、最初からいい子だとは思ったけど。
....あー、何言ってんだろ、おれ。」

がしがしと頭を掻いて俯く。

ナミも少し照れて、自分の頬を触って温度を確認した。ーー熱い。


自然と笑顔になってしまう、走り出した恋の感じ。










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