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□デッドマンズハンド
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デッドマンズハンド1












トランプのエースは誰にとっても特別だ。

スペードのスートに施される、豪華な装飾は特に。









あの日、私たち麦わらの一味は散り散りになってしまった。

パシフィスタ襲撃による、麦わらの一味壊滅。

最後に見たルフィの顔、私を助けようと伸ばされた手が頭から離れない。
彼や一味の為に何も出来ずに、助けを求めることしかできなかった自分に、失望する。

失意の中にあって、それでも自分がまだ生きているらしいと気づいたのは、くまによって気を失ったまま三日三晩飛ばされ、とある島に落ちた時のことだった。



「うう....なに、ここ....」

渇いた砂が、地面に倒れ込んだ体中に付いた。
それでも空を流れ星のように彷徨っていた身体は冷えて乾燥していて、体を起こすとパラパラと小石混じりの砂が落ちる。
元いた島ではない。
シャボンディ諸島でないことだけは確かだった。

景色は砂と岩の一面土くれ色だ。
峡谷と言う言葉が頭に浮かぶ。
ナミは頭を抱えてふらふらと立ち上がった。

風を受け続けた体は疲労していた。
それでも、仲間を求めて岩陰を覗くと、そう遠くない場所に荒地を開拓した風情の町が見える。



「...今の衝撃はなんだったんだ?星でも落ちたのか」

「さあ。最近はこの辺りに黒ひげとか言う海賊も出たって話だし、物騒なことばかりだな」


人の声が聞こえて、ナミは思わず岩陰に隠れた。
屈強な男が二人、狩りの為かライフルを担いで歩いている。

お尋ね者だと言う自覚は船にいると希薄になるけれども、一人の時は別だ。
ナミは息を飲んでやり過ごせることを祈った。
何せ懸賞金を懸けられてから一人になるのは初めてだ。
武器はある。だが見つかりたくはない。

「ん?誰だ!」

そう思ったのに、太陽の位置が裏目に出て、影が見えたのを誰何された。
ナミは旅人を装っておずおずと男たちの前に姿を現した。

「あ、あの。私、道に迷って」

姿を見せた若い女に男たちの緊張がほっと解ける。

「大丈夫かい、お嬢ちゃん。こんな所にいちゃ危ないよ。」

「そうとも。町はあっちだよ。どこの娘だ?」

しかし、男の一人がナミの顔をじっと見た。
ーーどこかで見たことがある。
そう思っているような顔。
それは例えば新聞の一面の、凶悪犯を手配した写真の中でーー

「......いやあ、送ってあげよう。それがいい。」

張り付けたような笑顔に、額に汗。


バレている。


ナミはごくりと唾を飲み込んだ。
生死を問わず、私を海軍に引き渡せば1600万ベリーもの大金が貰えるのだ。

町へ行くまでぼんやりとしている訳に行かなかった。

「何をしてる!」

ナミは武器を取り出そうとして太ももに手を掛けたが、その手を叩き落とされた。
狩る方も恐いのだ。
男は蒼白になって叫ぶ。

「こいつは!泥棒猫だ!保安官に引き渡せ!」

「何っ!?」

男たちが慌ててナミを捕らえ、腕を後ろ手に回される。
強く抑えられて膝が地面に沈んだ。

「いや!やめて!人違いよ!!」

「武器を出そうとしたろ!!おとなしくしろ!」

抵抗しても力で敵わない。
もがくナミに男が震えるライフルを向けた。

心臓がねじれるような恐怖を感じたその時。






「やめてやれ。怯えてるじゃねぇか。」




炎が揺らめいた。
美しい炎は辺りをオレンジ色に照らし、辺りの温度を高くする。
岩の上からしなやかな獣のように飛び降りて来た男は炎を纏っていた。
鮮やかで、力強く、輪郭のない光。

その光に見惚れている間に、男たちが呻き声を上げて背後に沈んだ。

この黒髪の男を知っている。
以前も砂の国で出会った。
ナミは慌てて体を起こした。



「エース!?ここで何してるの!?」

「え?」

そばかすと、露出した腕には彼の名前まで彫ってあるので間違えようがない。

名前を呼ばれて驚いたエースは目を丸くして、そうして初めて助けた相手の顔をまじまじと見た。


「あれ、おまえは...ルフィのところの」

「ナミよ。どうしてここに」

「ナミ!久しぶりだな。なんでこんなとこにいるんだ?」

元気な挨拶に遮られて同じ質問を聞き返される。
ナミはみるみるうちに目に涙を溜めて、取り乱して言った。


「どうしよう...!ルフィが、みんなが...!」


エースの腕に縋り付く。
聞いて欲しかった。
何があったのか、みんながどうなったのかわからない不安を。


「落ち着けよ。一体何があった。」


縋るナミの腕を掴んで見つめるエースから笑顔が消え、真剣な表情になった。


「わかんない...!私、なんでこんなところにいるの...!?さっきまでシャボンディ諸島にいたのよ。みんなパシフィスタにやられたの...!そしてバーソロミュー・くまが来て、それから...」

「待て。話は後だ。見つけられたら困るんだ。隠れられるとこへ行くぞ。」



エースがマントを被り、それにすっぽりとナミを隠す。
エースが歩くたびごつんごつんと膝が当たり、腕が首を締めて苦しかったが、何とか町に降りたのだった。










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