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□デッドマンズハンド
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19.種あかし













「ナミ、起きたか。」

何度か夢とうつつを行き来して目を開けた時、飛び込んで来た景色は白い天井、ではなく、私の太陽だった。
ぼんやりとした赤とストローハットが次第にはっきりと写る。
握られた手が暖かかったことに安堵して、ナミはほっと息を吐いた。

「ルフィ、よかった。」

医務室の一角で、ナミとルフィは固く抱き合った。

エースとサボがルフィを連れて来たのだ。
ナミが目を覚ましたことを耳にして。

「もう体はいいのか。」

「うん、もう平気。」

ルフィは頷く。
じっとこちらの顔を見るので、ナミは何事かと居住まいを正す。

「ナミ、ありがとうな。エースとサボは、おれの兄ちゃんなんだ。」

「⋯⋯え?」

ナミは思わず聞き返した。

「おれたちはサボが生きてることを知らなかった。サボも、おれたちの記憶がなかったって。」

珍しく真剣な面持ちのルフィを見て、ナミぼんやりとした頭が更に霧を深めたように感じた。

ルフィの発言を理解できず、エースとサボに助けを求める視線をやる。

「ナミ、ありがとう。」

サボが真剣な眼差しで言った。

「お前はずっとエースを探していて、それはおれの兄弟だった。
Level6でエースに会った時、おれは全部思い出した。
砲弾を浴びて大怪我をしたこと、盃を交わした兄弟のこと、どこでどう育ち、いつこいつらと出会ったか⋯⋯。」

失われた記憶が戻った。
エースに会ったことで、その姿を牢越しに見たことで、全てが思い出された。
記憶が満ち満ちて。

エースが言う。

「おれたちは、サボはあの時死んだと思っていた。生きて会えて、どれだけ嬉しかったか。」

ルフィは頷き、サボが続けた。

「お前が俺たちを引き合わせてくれた。」

「ありがとな。」

エースが礼を言い、ナミは目を見開く。

それは、とてもすごい偶然だ。
誰も知り得なかったサボの生死も、エースの処遇も、
知るタイミングを逸すれば悲劇だ。

知らないままだなんて、あまりにもむご過ぎる。


「そんな⋯⋯そんな偶然があるなんて」


「偶然?」

サボの帽子の影から鋭い眼光が覗く。

「運命だ。」

きっぱりとサボは言った。
3人の真剣な表情に、ナミは狼狽える。

「わ⋯⋯私はただ、エースを助けたかっただけで⋯⋯。私のせいで連れて行かれた。ルフィもそれを望むはずだと思って⋯⋯それで、サボと出会って、インペルダウンへ行って⋯⋯
だから、私が何かした訳じゃない。私何も知らなかった。
⋯⋯ただ、本当に⋯⋯」

ナミは3人を見た。

「本当に良かった。」


時として物事は磁石のように、パズルの欠けたピースのように、あるべき場所へと導かれるものなのかもしれない。

まぎれもない真実が、それを知るべき人間の元へ届いた。

あるべきものが、あるべき姿に。

ナミはこの3人を前にして、言い知れない力を感じていた。
目には見えないけれども、確かな絆を感じる。

その絆に、自分も巻き込まれたのかもしれない。

こうなることは必然で、自分もその歯車のひとつだったのではないかと思う。
そしてそれを、自分は嬉しく思う。
大切な人の手助けになれたことが。



ナミの胸に生暖かな感情が流れ打つ。



───それは彼の姿を見た時に、きっといつも。



「本当に、良かっ⋯⋯」
















「九蛇が来たぞ───!!」




乗組員の声に遮られて、一同は一斉に部屋の出口を見た。


「九蛇?」

「敵襲か?」

「ハンモックだ。」

ルフィがドタバタと部屋を出て行く。

「ナミはここに居ろ。」

エースがベッドから立とうとするナミを制した。
何があっても守るという覚悟を滲ませながら。

廊下に出て行くエースを見つめながらナミは拳を握る。

サボはそのナミの、酷く傷ついたような顔を見て言葉を選んだ。

「お前はどうしたい?」

ナミはサボを見上げた。

「⋯⋯私も行く。」

そうこなくちゃな、と言うサボにおぶられて、ナミ達は部屋を後にした。














「ルフィ、わらわはそなたと離れて何も喉を通らず⋯⋯」

「ハンモックー!インペルに連れてってくれてありがとなー!無事にエースと会えたぞ〜〜!」

巨大な船ごしに会話をするので声が大きい。
そして噛み合っていない。

「監獄内の騒ぎのせいでわらわはエースに会うこと叶わず⋯⋯そのまま船を引き返させられたのじゃ。力になれずすまぬ。」

「ゴルゴンゾーラ、あるか!?あれまた食わせてくれよー!!」



「敵じゃ⋯⋯ないみたいね。」

「ああ。」

「七武海ボア・ハンコックか。初めて見た。」

甲板に出たエースとサボに並び、ナミは胸をなでおろした。
突然現れた船へまだ警戒の色を隠さない3人に、呑気な声が飛び込む。

「ナミ!一緒に来い!ゴルゴンゾーラあるぞ!」

ルフィが既に乗り移った九蛇の船から手招きしている。
受け止めるように両手を大きく広げて。

「なっ、なっ、『ナミ』じゃと⋯⋯!?」

ハンコックが倒れる。
アマゾンリリーの戦士たちがすかさずハンコックの長身の体を支えた。

「ルフィが他の女性(にょしょう)の名を呼ぶとは⋯⋯これは⋯⋯婚約⋯⋯!!?まさかわらわの他に心に決めた女がいるなど⋯⋯わらわは⋯⋯わらわは⋯⋯」

耐えられぬ。と、言うだろうと予想した戦士たちはハンコックを抱きとめながらナミを見た。
ハンコックは動悸を抑えつつヨロヨロと立ち上がる。

「しかし、わがアマゾンリリーに妻を2人娶るなという法はない⋯⋯」

くっ、と唇を噛みながらハンコックが言った。

「そなたがルフィの伴侶であることを許す!ルフィの心はわらわのものではない、ルフィ自身のもの!そのルフィがそなたを妻とするなら⋯⋯わらわは何も言わぬ!!」

「キャー!蛇姫様、見下し過ぎて逆に見上げてるー!」

「美しさがとどまるところを知らない!」

「いやいやいや⋯⋯」

ハンコックが反り返るのを呆然と見ていたナミは正気に戻って手を横に振った。

「妻だってさ。」

「うるさいサボ!」

バシッとサボを叩く。

「はんりょってなんだ?食えんのか?」

「あんたもちょっとは食べ物から頭を離せ!」

頭にハテナのルフィに叫ぶ。

「ゴルゴンゾーラって一体どんな⋯⋯」

「お前もか!!」

今度はエースをバシッと叩いた。

「なんて野蛮な⋯⋯」

「あのコ、生理中かしら⋯⋯」

「違うわ!!」

ヒソヒソと戦士たちが話し始めるのに、ナミが突っ込みを飛ばす。

「ナミはおれの仲間だぞ!おまえらも、よろしくな!」

ルフィが満面の笑みで言うと、ハンコックがルフィに寄り添った。

「そなたがそう言うのなら⋯⋯」

ハンコックは凛々しくナミを見上げ、命令した。

「ナミ!そなたをもてなそう。わらわの船に来るがいい。」

びしりと長く美しい指の先に、ナミとエース、サボがいる。

「あっ、そうそう。あいつらおれのにーちゃんなんだ。」

ルフィが紹介するとハンコックは慌てて両手で頬を抑えた。

「なにっ!?あ、あ、兄君!?ルフィ!そう言うことはもっと早う言うのじゃ!!兄君たちももちろん贅を尽くして───」







その時、水平線に5隻の軍艦が現れた。

監獄を脱獄した凶悪な囚人たち、政治犯である革命軍幹部、インペルダウンを襲撃したモンキー・D・ルフィに、ゴールドロジャーの息子であるエース。

海軍内では、軍艦5隻では少ないと言う意見が大半だった。
海軍大将が、この討伐に乗り込むまでは。

砲弾が打ち込まれ、波は高鳴り、鬨の声が上がる。

九蛇の船は立場上、奪われた軍艦を攻撃する体を取らねばならなかった。






そして、囚人たちは散り散りになってしまった。










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