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□デッドマンズハンド
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23.向き合う時
(なんでこんな事になったの!?)
(おれに聞くな!!)
(お前らうるさい!!)
小さなシングルベッドの下に3人は隠れていた。
顔と顔が引っ付くほどに近い。
エースとサボの間に挟まったナミは埃っぽい空気を吸いながらパニックに陥っていた。
エースとの話が終わった後、サボと3人で食事を摂った。
今後どうするかを話し合い、さあ寝ようという時、隣の部屋に不穏な気配を感じた3人は一斉に黙り込んだ。
保安官が2名、隣の扉を叩いている。
聞こえて来る声は、「賞金首がこの島をうろついている」と言う情報。
コップを壁に当てて集音するナミが声を潜める。
(手入れかしら)
(酒場で暴れたのがバレたか)
(どーする!?)
残念ながら、エースもサボも隠れることに慣れていない。
実力で叩き上げて来た方だし、周りには常に仲間がいた。
暴れた後諸々の処理をしてくれる心強い仲間が。
ただ、ここで見つかれば上手くないことはわかる。
ここは軍需の島なのだ。事が大きくなれば四方から軍が押し寄せるだろう。
コンコン
『すみませんが、酒場で事件がありました。犯人逮捕にご協力願えますか。』
この部屋の扉が叩かれた。
そして話は冒頭に戻る。
3人は顔を見合わせた後、ネズミが隠れるように一斉にベッド下に潜り込んだ。
“いないふり”を決め込むことにしたのだ。
(狭い⋯⋯!!)
(そりゃ3人で入ればそうなるだろ!)
(いや待って、これ無理じゃない⋯⋯!?)
ぎゅうぎゅうと、ナミはサボとエースに挟まれていた。
ナミを守るように抱きしめる2人の手が苦しい。
『いないのか⋯⋯?』
『でも店主は男が1人でこの部屋を取ったと言ってたぞ⋯⋯』
そう、ここはエースが取った部屋ということになっている。
手配書に写真はばっちり写っているのだ。
出くわせば誤魔化しきれないだろう。
ガチャリ
鍵が空けられる。
誰かが入って来る足音。
人数は2人。
部屋を物色する。
『いないぞ。』
『荷物もない。食事でも行ったか。』
保安官の足音に怯えながら、ナミはぎゅっと目をつぶった。
首すじに誰のものかわからない息を感じてびくんと跳ね上がる。
狭いから。
それは仕方のないことだ。
早く出て行ってと祈りながら、ナミは両手で口を塞ぐ。
誰かの心臓の音が聞こえる。
それはどちらの物だろう。
あるいは、自分の物だろうか。
ナミははた、とある現実に気づいた。
ここまでがむしゃらに駆け抜けて来た。
まだ仲間たちに会えてはいないし、問題は山積しているけれど。
自分の気持ちを言わないのは、この2人に対して誠実ではない気がした。
ああ、だからと言って。
本当の自分は恋に不慣れで、自分の気持ちに向き合った経験が少ない。
それよりも降りかかってくる問題の対応に追われて、ここまで来てしまった。
2人の気持ちを置き去りにしたまま。
保安官が部屋を出て、3人はベッドの下から這い出て来た。
みんな一様に気まずげな表情をしている。
「えっと⋯⋯」
「ひとまず⋯⋯」
「やり過ごせたな⋯⋯」
さっきまで密着していた肌が熱い。
ナミの顔が余りにも赤いので、エースとサボは顔を見合わせて部屋を出た。
間もなくナミも、もぞもぞとベッドに入って目を閉じた。
───そして、出発の朝を迎えた。
「海賊狩りよ。」
「ワルだな。」
サボがナミの横で揶揄し、ナミはサボを叩いた。
いつも一言余計なサボは、ナミに強めに肩を叩かれることがしばしばだ。
食糧を確保して船を出した3人は、ビブルカードが示す白ひげの元へ向かっていた。
足はいまだ救命ボート。
白ひげと合流するまで何日かかるかわからない状況で航海するには心許ない。
「こうなったら海賊狩りよ。」
「悪だな。」
エースにも同じように言われ、デジャヴを感じながらナミはふっと自嘲気味に笑った。
「以前の私ならグランドラインの気候を読むのは無理だった。でも今の私なら⋯⋯」
ナミは海賊から船を奪う、いつもの方法を話した。
遭難を装って近づき、水と引き換えに空の宝箱を差し出す。
それを確認させている間に、その海賊が乗っていた船を奪う。
乗って来た船の行く手を嵐が遮るので、気候を読み切ったナミは追手がかからず逃げられる。
泥棒時代に多用していたナミの悪質な手口だ。
「⋯⋯却下。」
「同じく。」
「なっ、なんでよ!」
サボとエースが腕組みをして呟くのに、ナミは顔を赤くして声を上げた。
「いやー戦った方が手っ取り早くないか?」
「ベッドがあって風呂がついててデッキテラスがあるデカい船がいいなぁ。」
「デカイ船だと敵がいっぱい乗ってるでしょーが!」
全く強い奴はこれだから⋯⋯ナミはぶつぶつと言いながら周りの海を見渡した。
海賊らしく略奪をすると言うのだ。それなのにこの2人はまるで緊張感がない。
結局、その日は奪うのに手頃そうな船を見かけること自体がなかった。
救命ボートを一応は白ひげのビブルカードが示す方角へ進めているものの、大海原にぽつりと浮かぶ船はグランドラインではあまりにも小さく心許ない。
トイレや風呂の問題もある。
ナミは男2人に1人、心細い思いをしていた。
何より。
早く、エースを仲間の元へ帰してあげたい。
仲間達は生きた心地がしなかっただろう。
無事である姿を早く見せてあげて欲しい。
そして自分も、仲間の元へ帰るのだ。
ナミは2人の背中を見た。
別れの時が近づいている。
自分の気持ちに向き合う時が、遂に来たのかもしれない。
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