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□デッドマンズハンド
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25.ダイヤモンドのクイーン









「デッドマンズハンドって知ってる?」

「ああ、知ってるよい。」

「ここらじゃ常識だな。」

「そ、そうなんだ⋯⋯」

カードを繰るラクヨウとマルコ、イゾウがテーブルを囲んでいる。
ナミは自分の手札を見ながら質問した。
白ひげの船で、マルコ達にポーカーに誘われて同席しているのだ。

「え、私そんなにお金ないわよ。」

「花を添えてくれればいいんだよい。」

そう言われて、白ひげ海賊団幹部とこうして円卓を囲むのはナミには場違いな気がする。
だってそうそうたるメンバーだ。
1番隊隊長、船医。5番隊隊長、7番隊隊長。

ラクヨウはゲームに慣れていそうだし、マルコは引きも強そうだ。イゾウのポーカーフェイスなど、見破れる気がしない。
ナミは萎縮して、既に気持ちで負けている。

「デッドマンズハンドって言うと。」

イゾウが言う。

「保安官ビル・ヒコックが撃たれた時の手札だろ?
3番隊にビルに追いかけられた事のある奴がいたはずだ。」

「それがどうしたんだ?」

ラクヨウがナミに問い、ナミはカードを伏せて両手を開いた。

「負けました。知らなくて。」

「それはしょうがねえよい。」

「ハハハ!そんなに若いんじゃ知らなくて無理もねぇ」

「そう。せっかくこんなに強いのに。」

ナミがカードを見せると3人はため息を吐いた。

「なんだよ!オドオドしてたのは演技か!」

「やられたぜ。」

「騙されたよい。」

ラクヨウが声を上げ、イゾウとマルコが笑う。

ナミが場に出たお金をごっそりと自分の前に持って来ながら言った。

「それでね、実は相談があるんだけど。」



ナミが幹部達に詰め寄った。














「ナミ!」

この船の広い甲板をエースが駆けてくる。
眩しい光が目に入り、ナミは目を細めた。
太陽を背負う男は大きくて、自分の小ささを認めずにはいられない。

「エース」

「明日にはもう、シャボンディ諸島に着くらしい。」

「そっか⋯⋯」

別れの日が近づいている実感に、ナミが呟く。

「話したいことがある。」

自分を見下ろすエースの目に真摯なものを感じて、ナミも口を結んだ。

「もしお前も話したいなら、俺の部屋に来てくれ。」










「ナミ。」

夕食の後、通路でサボと鉢合わせた。
そこは船べりで、夜の闇に海が凪いでいる。

月の光のような男だと思った。
静かで、敬虔で、強い力を隠しきれない。
ずっと自分を導いてくれた。
歩き始めた幼子のように。

「サボ⋯⋯あ、明日には、着くって。島に⋯⋯」

「そうか。」

エースに何か言われたなと、サボには直ぐにわかった。
ナミはたどたどしく言葉を紡いで視線を泳がせる。

「俺も⋯⋯話がある。」

はあ、とため息を吐いてから、サボは言った。

「島に着いたら、話したい。おまえが良ければ。」

ナミは頷いた。






サボがその場を離れると、マルコと鉢合わせた。

「ああ、サボ。聞きたいことがあるんだったよい。」

不死鳥マルコが自分に何の用だと言うのだろう。
サボは片眉を上げて先を促した。

「好きな数字は?」

「8。」

「ありがとよい。」

怪訝な表情のサボにマルコは笑って肩を叩き、そして去って行った。

















マルコ、ラクヨウ、イゾウから勝った金を円卓の中心に戻して、ナミが言った。

「私を、鍛える場を提供して欲しい。」

「何?」

「具体的には、気候と航海術を勉強できる所を教えて欲しいの。」

3人の幹部は怪訝な表情をする。

「知ってるでしょ。私たち一味がパシフィスタにやられて壊滅したのは事実よ。受け入れて前に進まなくちゃ。
その為には、私、強くなりたい。得意なことを伸ばしたい。仲間に貢献したいの。
このままじゃ麦わらの一味に先はない。
私は決めたの。」

ルフィの側を離れることを。
仲間の為に、強くなって戻って来ることを。

3人は真剣な表情で考える。
ポーカーの負けを帳消しにしてくれるからには、きっちり借りは返そうと。

「気候と航海術ねぇ。」

「できれば政府の息のかかってない最高機関で。」

「あるか?マルコ」

「そうだな、心当たりがひとつだけあるよい。」


マルコはにこりと笑った。


「常に移動し続けている空島がある。名前はウェザリア。住人は気候の研究をしている一流の科学者たちばかり。
望みを叶えるには最適だと思うよい。」



















ナミがルフィの元へ行くと、いつになく真剣なルフィから先に切り出された。

シャボンディ諸島に戻ったら、レイリーに弟子入りすると言う。
既に空島へ行く約束をマルコ達に取り付けていたナミは、驚いて瞬いた。

「⋯⋯同じこと考えてた。」

「さすがナミ。」

そう笑うルフィの目は、麦わら帽子に隠れて見えなかった。

「期間はどれくらいを考えてる?」

「2年だ。」

「異存なし。」

想定した通りの答えにナミが頷く。
麦わらの一味は集合しない。
再会は2年後だ。
どうにかして仲間たちにその計画を伝えるとルフィは言った。

ナミは頷き、話は終わった。
後は前に進むだけだ。

どちらともなく、2人は抱き合った。
自分の一部だから。家族だから。

「2年も離れるのは寂しい。」

「俺もだ。」









--–








「どっちを選ぶと思う?」

トランプを弄りながら笑ってラクヨウが呟く。
一瞬何のことかわからず、マルコはぽかんと口を開けた。
ナミが座っていた席をラクヨウが指差すので、それでああ、と得心した。


エースとサボ。
見ていればわかる。
どれだけナミと苦難を乗り越えて来たかが。
3人の若者たちの気持ちが。

「なんだ?まだ賭けたいのか?」

「ダイヤモンドの原石を見守るのも、悪くないけどよい。」


マルコはナミの置いて行った手札を見て言った。



黒のエースと8のペアに、ダイヤのクイーン。

まるであの3人を示しているかのようだ。



「まさにデッドマンズハンド。」














このゲームの行方は、誰にもわからない。














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ナミは

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