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□デッドマンズハンド
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26.君が為(エース完結)










初めて会った時から、その男は熱い輝きを背負っていた。
2度目に会って助けられた時も、力強く揺らめいて。
目に飛び込む美しい光はその男の生き方そのもの。

自分の居場所で笑うエースを見ると、自分もこんな風に光り輝きたいと、呆れるほどに思うのだ。





『話したいことがある。』

そう言ったエースに、どきりとした。

私にも話したいことがある。

あまりにも膨大に、伝えたいことが。
2度目に会った時のこと、黒ひげから守った時のこと、エースが怒った時のこと。


この気持ちに名前をつけるなら何なのか、今のナミにはもうわかっている。

今が勇気を出す時だと言うことも。




「ナミ」

「入って⋯⋯いい?」

小さいが、エースには個室が与えられていた。
部屋の前に立ったナミは恐る恐る戸を叩いた。
ドアを開けたエースは目を丸くしていて、戸惑いながらナミを招き入れる。

そうしてしまったら最後、どうなるのかわかっていた。

だから、2人とも鼓動が早い。

エースは震える手で鍵を閉めて、振り向いたらキスされていた。




「はぁ⋯⋯っ」

細い背中を掻き抱いた。

ずっと欲しかったもの、愛する人とこうしたいと思うことは本能だ。

「ふ⋯⋯っ」

エースの手が荒々しくナミの服をめくりあげた。
口を合わせたまま脱がされて、ナミもエースのベルトをまさぐる。

手だけが性急だった。
心に、行為が追いつかない。

2人の心はもう重なっている。
もしかするともうずっと前から、重なっていたのかもしれない。

「っん⋯⋯!」

胸を揉まれ、不随意に声が上がる。



身体の中心が痛いほどに高鳴り、潤みは限りがなかった。

こうしてでも伝えたい想いがお互いにあった。

あの時はありがとう。
あの時はごめん。

あなたを

おまえを

愛している。






―-






「2年、麦わらの一味は離れることにしたの。私は空島へ行くわ。」

ナミがエースの腕を枕にして言った。

「そうか⋯⋯」

ナミの髪にキスをする。

「お前が決めたことなら。」

「ルフィと相談して決めた。私はもっと強くなりたいから。」


自分を庇って突き放したエースの手を忘れることはない。
自分の為に捕まったことも、自分の過去を受け止めてくれたことも。


「空島じゃ、会えないよな。そう簡単には。」

「ん⋯⋯きっと会いたくなるでしょうね。」


エースが身体を起こしてナミの腹を舐めた。
くすぐったさに身をよじるナミに頭を撫でられる。

唇を合わせて、目が合う。
黒い瞳に見つめられ、その心まで届くような真摯な眼差しに、ナミは不安げにエースを見返した。

「俺もお前に話しておきたいことが。」

「何?」




目を丸くするナミに、エースは深く息をつく。




「俺は、いつ死んでもいいと思ってたんだ。
自分の命なんて、惜しくなかった。
仲間が、家族が生きているならそれだけでいいと思ってた。」

愛された記憶は心の奥底に閉じ込められていた。
心のどこかで、自分の命は価値のないものだと思い込んでいた。

だから、手放すことが惜しくなかった。



「でも、お前と出会って考えが変わった。ずっと側にいたい。未来を一緒に歩いて行きたいと思ったんだ。」


出会ってしまったら。

愛してしまったら、いつ尽きても構わないと思っていた命が、こんなにも惜しい。

君の為なら惜しくないと思っていた命なのに、今は少しでも長くそばにいたい。


「いつかお前が船を降りる時が来たら、俺と同じ未来を歩いてくれないか?」


エースが、両手でナミの左手を取った。
祈るように薬指にキスする。



「結婚して欲しい。」






ナミは目を見開き、そして、口を動かした。








朝になれば別れが来ることは、2人を寝る間も惜しむほど重ねさせる理由に、十分なった。


正直、もうしばらくは出来ないと思うほど身体中が痛い。


「も、らめぇ⋯⋯っ!」

ハァハァと荒い息遣いでエースの指が何度もナミの芯を擦る。
熱いのに優しく快感を与えようとする指に、背はしなり足の筋肉は弛緩と緊張を繰り返した。

硬いものを柔らかい臀部に押し当てて唇を貪る。

もぞもぞとナミが動くのですんなりと後ろから挿し貫いてしまった。
潤み切ってやわやわになったそこはきゅうきゅうと締め付けて、どうしようもない水をかき混ぜるような音が部屋に響き渡る。

ぬるぬるの指がナミの中心を探り当てて触れると、電流が走ったように中がぎゅっと狭くなった。

「エース⋯⋯っ」

ナミが涙声を出す。
狭い部屋、外に聞こえないよう2人は声を押し殺して狂い咲いている。

「かお、みせて⋯⋯」

1つにならないのが不思議なほど、強く抱きしめ合ってお互いの顔を撫でた。

汗と涙でぐちゃぐちゃになった互いを見せることは、今与え合える唯一の愛の証であると言う気もした。

「な、み」

エースが苦しそうに声を絞り出す。

「きれいだ」







私はエースに何もしてあげられない。
触れることも、そばにいることも、会いたい時に会うこともできない。

でも、心から愛していることだけは揺るぎない。

助けられてばかりの人間ではなく、誰かを助け、自分を自分で助けられる人になりたい。

あなたのように光り輝く為に、私はこの道を選ぶ。


だから。







「エース⋯⋯!愛してる⋯⋯!」

「おれも、愛してる」


「⋯⋯っ!」


脳が弾けるような快感に、視界が点滅する。
愛しい腕が自分を包んだ。

もう夜が明ける。
朝になれば、別れの時が来る。




何年か何十年後か、いつか2人の道がまた交わったらその時は。













―-











「あいにく、私は男を待ってるの。」

イーストブルーのとある町の酒場に、オレンジの髪をした女が1人カウンターに座っていた。

もう何人もの男の誘いを断りながら、シングルモルトに口を付ける。






男は迅る胸を押さえ、ゆっくりと歩いた。

───テンガロンハットはここに滞在する内、仲良くなった子供にあげてしまった。

もう何ヶ月もここで待っていたからだ。

シャツを着たそばかすの男は腕をまくって酒場の奥へ進み、カウンターに肘をついて口を開いた。

「その男って」

伸びた髪、凛とした姿勢、願って求めてやまない女が目の前にいた。
大きな目が少し潤んで、細められ、笑った。

「それって10年前にプロポーズを断られた男のことか?」

エースが声をかけるとナミは答えた。


「そうよ。」


エースは。

髪が少し伸びて、そばかすはそのままで、男らしく精悍な顔立ちもそのままで、なのに物腰には色気があった。
若く荒削りな部分が消えて、その陽気さの代わりに、艶やかさが匂い立つ。


「あんたを待ってた。」

「会いたかったぜ。」



あの時、結婚してくれと言うエースの言葉を、ナミは断った。









「だっていい加減なことは言いたくなかったのよ。」

まず、ナミは靴を脱いだ。
ここはエースが取っていた宿だ。

エースが自分のシャツのボタンを外す。

「そうなんだろうが、傷ついた。」

ナミが腕時計を外した。

「傷ついた人があんな風に女を抱ける?」

エースがベルトを外す。

「こうなることがわかってたからな。」

また絶対に会えると。
10年が経った。
ナミが自分の気持ちに従って気ままにイーストブルーに来られるほどの時間が経っていた。
───愛が呼ぶ方へ。

「私にもわかってた。」

ナミが上着を脱いだ。

抱き合って1つになる。
エースがナミを持ち上げてベッドにダイブした。

「会いたかった。」

「おれもだ。」

笑って唇を合わせる。
目を閉じて相手を視覚以外の全てで感じ取る。

この想いを伝え切れる気がしない。
今できることはただ、唇を重ね、肌を合わせ、指を絡ませてお互いを感じることだけ。


抱き合って服を脱がし合う。
舌が生き物のように口内を犯して、ナミは応えるのに必死だった。

太腿を何度も優しくさすられて、ぞわりと快感が全身に走る。



「ヤダっ!そんなとこ、恥ずかしい⋯⋯っ」

ナミの言葉を無視してエースが脚の間に顔を近づけた。
驚くほどの力で足を固定されるので、抵抗が全く無意味だった。

なすすべも無く舐められ、擦られ、長い時間をかけて思考も羞恥心も全て奪われた。

エースを受け入れると、ナミの体はぴったりと密着した。
愛しさが込み上げて、会えなかった時間が埋まって、心が満たされる。
潤って、ただ丸裸の自分が圧倒的な悦びに震える。

「あっ、気持ちい⋯⋯っ!!」

「愛してる⋯⋯!」

「私もっ⋯⋯!」

思考が真っ白に塗りつぶされる快感の中で、腕の中の人が与えてくれる体温だけが確かだった。

この美しい感情を、自分よりも相手を大切に想う気持ちを、教えてくれた人。



窓から細く陽が入り、乱れた寝具の中で微睡むナミをエースの腕が探した。
手を伸ばせばすぐそこに、愛する人がいる。
細い体を包んでキスをした。
目を開けずに微笑むナミにエースは囁いた。







今なら返事ができる。


「結婚してくれ。」

「はい。喜んで。」














トランプのエースは誰にとっても特別だ。

スペードのスートに施される、豪華な装飾は特に。




















End
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