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□デッドマンズハンド
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27.待ち人









白ひげの船は無事シャボンディ諸島に到着した。

極悪な囚人達を野に放すのは気が咎めたが、白ひげや幹部達が強く言い含め、バギーが悪さをさせないよう一手に面倒を見るということで落ち着いた。
(イーストブルーでの素行など、バギーの弱みを握っている船員が何かあれば囚人達にバラすと脅していた。)

ニューカマー達、革命軍の面々は仲間に連絡を取る為サボの連絡船を取り戻し、サボはそれを操作する為白ひげの船からは一足早く離船した。

シャボンディ諸島で残った革命軍と合流するだろうと、そう思っていたのだが。





いくら待っても、ナミの元へサボは現れなかった。






そのまま任務地へ。

それをイワンコフから聞いた時、足元から地面が崩れ落ちたように感じた。



『話がある。』


そう言っていたじゃない。

私も、話をしたかった。
聞いて欲しかった。

私の気持ちを。
どれほどサボが自分の中で、大きな存在になったかを。


でも。

「あははっ、そっか。」

港とも言えないグローブに立ち尽くして、ナミは船影のない海を見ていた。

乾いた声が出て、地面に水滴が落ちる。
ナミは零れ落ちる涙を留めることができなかった。

「振られちゃったのね、私。」


仕方ない、どうすることもできないと思うのに、心は諦められなかった。

追いかけたい。
追って問い詰めたい。
本当はずっと一緒にいたかった。

サボが何度も自分の心に触れて、自分も触れたいと思ったことを、忘れてはいない。

なのになぜ?

どうして何も言わずに行ってしまったの?

サボの行動に整合性が取れず混乱した。

そして、悲しみに暮れた。







───好きだった。
どんなに傷つけられてもいいと思うほど。










―-







2年が経ち、ナミは約束の日よりも早く空島を降りた。
台風の影響でいくつかの島を経由してシャボンディ諸島に向かう事になったのだ。

老人たちとの別れも辛かった。
穏やかで、勉強に没頭する日々はナミの心を少しずつ癒した。


(早くみんなに会いたいな。)


それ程発展していない小さな町だった。
人気もまばらな舗装もされていない道を、ナミは歩く。


(ロビンは元気かしら。フランキーは船をいじってるかな。ブルックの歌もまた聴きたいな。
ウソップに話したいことが山ほどある。サンジくんのご飯が食べたい。ゾロは道や船を間違えないといいけど...
チョッパー大きくなってたらどうしよう。
ルフィはどうせ元気だろうし。)


一人旅はナミに様々な事を考えさせた。
一人でしか見られない景色もあった。

でも、
何をしていても思い出す顔。


(サボ⋯⋯)


今頃、どうしているだろう。

会いたいと思う自分と、必死にその気持ちを抑えようとする自分がいる。

きっと、サボはもう、サボの人生を生きている。

私なしの人生を。

そこに私が登場する余地はなくて、もっと他の素敵な人が、ずっとサボのそばにいる───


ズキン


胸にナイフが刺さったように痛かった。

こんなに時が経ったのに。

諦められない。
そんな激しい感情を持った自分に驚く。

刺さったナイフを抜く事も出来ず、ナミは思わず、側にあったベンチに座って顔を覆った。










―-




───逃げたんだ。

答えが出ることが怖くて。


サボは多くの場合単独行動を許されているが、今回も例に漏れず1人だった。
腐敗した国政への抵抗の声。
その動向を探る為に動いている。

人気のまばらな町だった。
舗装されていない道路。
物乞いがいる路地。
そんな国を、どうにかしたい。
その思い。

もう、ナミのような子供が悲しまないように。

そんな世界を作りたい。

自分にはもう、それしかないから。


2年前、サボはシャボンディ諸島に送り届けてくれる最中の白ひげの船を降り、そのまま内乱を迎えた国へ赴いた。
難民の保護や革命後の民主政治を手助けする任務があった。


───ナミはこれで、エースと幸せになるだろう。


そう思って、その任務を受けたのだ。

話をすることもなく。

自分が消えた方が、奴らの為になると思った。


いや、違う。


答えが出ることが怖かった。
彼女を愛することは許されないと、突きつけられる事が怖かった。

逃げたんだ。

話があると言ったのに、その約束を自分から反故にした。


きっとこれからどんなことがあっても、ナミと旅した日々の輝きは消えない。

ナミという人間を知って抱えた気持ちも。

美しいのは外見だけじゃない。
その内面を、何よりも好きになった。


それを消すことだけは、誰の頼みでもできなかったから。







砂利道に、サボが足を止めた。

不審な女が座っている。

長いオレンジの髪は腰まである。

顔を覆って泣いているようだった。

酔っ払いか?

そうではないと、匂いでわかった。

みかんの匂い、甘く爽やかな香りだった。

この香りを、この優しい存在を、自分は知っている。

女は顔を上げた。



また、
奇跡が起きた。



「⋯⋯っ!」





こちらを見た女の顔がくしゃりと歪んだ。
涙が溢れて、止まらない。



「会い、たかった⋯⋯っ!」

ずっと、会いたかった。
会って話がしたかった。

ただ愛してると伝えたい。
ナミは流れる涙を止められなかった。


サボが駆け寄りナミは立ち上がった。
2人は堅く抱き合った。
相手の存在を確かめるように、強く抱き締める。

会いたかった。

その言葉で、ナミの気持ちが伝わった。

サボは自分がどれほど酷いことをしたのか自覚した。



「ごめん、ナミ、ごめん、待たせて」

「わた、し、待ってたのに。話、しようと、ずっと、待って」

「うん、ごめん」

ポロポロと溢れる涙がサボの肩を濡らした。

「ひど、いよ。なんで、黙って、行っちゃったの?
に、2年も、私、まだあんたを」

ナミは子供のように泣きじゃくり、サボの服を握りしめる。

「好きなの。諦められなかった。
でも思わせぶりならもうやめ───」

サボがナミの言葉を遮ってキスをした。


責められて当然の事をした。

臆病で、逃げていた。

愛しているから、諦めた。



でも、そんなおれを、おまえは好きだと言ってくれるのか。








「んっ⋯⋯んぅ」

自分の宿にナミを連れ込んで、唇で唇を塞いだ。

涙を舐めとって顎を引く。

露わになった首筋にかぶりつく。

「ずっと好きだった⋯⋯!」

指を絡ませ、ベッドの上に縫い付ける。
サボがそう言うと、ナミの指もぎゅっとサボの手を握った。

「私も⋯⋯っ」

サボの指は服の上から胸の先に触れた。
既に硬くなったそれは指の刺激に耐えられず、びくびくと体を揺らす。
快感が脳を駆け巡り、ナミは何も考えられなくなった。

「あっ⋯⋯!んっ!」

コリコリと先端を弄ると、体の中心に響く声がより一層サボを昂ぶらせた。
いや、既に限界まで高ぶっているが、ナミが嬌声を上げる度にびくびくと不随意な部分が震える。

キスしながら脚の間に膝を差し入れる。

すんなりと受け入れるナミの内腿を伝って、蒸れた下着の上から小さな硬い部分を探した。

「ああっ!!」

そこを上下に爪を立てながら優しく擦る。
カリカリと弾いてやると、水が溢れてとめどなかった。

「だめっ、だめ⋯⋯っ!!」

「イっていい、からな。おまえのイくとこ、見たいから⋯⋯」

息も荒くそう言ったサボの言葉に、理性が失われる。
体の中心を擦る手は一向に休められず、上下左右に弄られて、下着の横から手を入れ、中の浅いところを指で刺激された。

「あっ⋯⋯いやっ!!いく、いっちゃ⋯⋯ああっ!!」

「はぁ、ナミっ⋯⋯」

まだ震えている、潤ってぐずぐずの場所はサボのものを容易く飲み込んで締め付け、思わず声が出た。

パンパンと肌がぶつかり、結合部からはぐちゅぐちゅと卑猥な水音がした。

興奮の余り溺れたように荒い息で、キスの合間に大きく空気を吸う。
服を脱いで、肌と肌でお互いを感じる。
どちらのものかわからない心臓が、飛び出そうなほど脈拍を刻んでいる。

何度も何度も唇を押し付け合い、舌を絡ませて、ただお互いに伝えたいことを行為で示した。

どれほど大切に想い、どれほど激しく愛しているかを。




その日は、朝まで抱かれ続けた。

激しく、優しくを交互に繰り返して気づけば朝だった。

泥のように眠り、ナミが起きてシャワーを浴びているとそこまで追いかけて来て抱かれた。

お湯を浴びながらキスをする。

「⋯⋯よくもまあ、それだけできるわね」

「⋯⋯2年分だからな。」

「うそ。してたでしょ?」

「他の女とはしてない。」

「1人では?」

「ノーコメント。」

気持ち良さそうにお湯を浴びるナミの背中を見ながら言う。

「そう言うおまえはどうなんだよ。」

「ふふふ、さあどうかしら。」

「まさか。」

サボがナミの肩を掴んで正面に向けた。

「やったのか、他の奴と⋯⋯」

「⋯⋯バカね。」

ナミがキスをする。

「2年も禁欲したのよ。辛かった」

「⋯⋯え、おまえ⋯⋯」

サボは驚きを隠せない。

「そんなに可愛くて、美人で、体も完璧で、性欲も強いって、女神かよ⋯⋯」

「はいはい。」

長い髪の水気を絞りながらナミが笑った。
タオルを巻いてユニットバスを出る。

髪を乾かして水を飲んでいると、ボトルを取り上げられて口移しで飲まされた。

サボの性急さに口から水は溢れ、顎や胸元まで伝った。
その雫をサボの舌が舐めとって、また快楽の波に誘われる。

「ん、ねぇ、」

「⋯⋯なんだよ。」

「なんで黙って行っちゃったの?」

サボはナミの体を後ろから抱いて横になった。

「⋯⋯怖かった。おまえを諦められないことが。」

目を閉じると、シャボンディ諸島に行こうか迷った自分を思い出した。
待ってくれているかもしれない。
でも、もうナミの隣には相応しい者がいるかもしれない。
そう思って背を向けた自分を。

「おれがいない方がエースと幸せになれると、信じてた。」

後ろから細い体を抱きしめた。
本当にすまなく思う。
抱きしめる自分の腕にナミが触れている。

「勝手な行動で、おまえを傷つけた。⋯⋯ごめん。」

ナミの背中越しにサボは呟いた。


「⋯⋯私、ずっと待ってたのに。」

「うん。」

「麦わらの一味は2年、力をつける為に修行の期間を設けたのよ。」

「新聞で知った。」

ナミがゆらりと身体を起こした。

「もうすぐ約束の2年なの。」

サボを下に寝かせて上から見下ろす。
長い髪がサボの肌をくすぐった。

「うん。」

「約束の日はね、」

ナミがサボの胸板に指を這わせた。
つつつ、と擦れる指に肌があわだつ。

「あと1ヶ月先なの。」

耳元でナミが囁いた。

サボが目を見開いてナミの顔を見た。
ナミは一糸まとわぬ姿で笑っている。

「ふっ⋯⋯んんっ」

途端、お互いに激しく口づけして確かめ合った。

色んなことを。

愛しい気持ちを。

謝りたいことを。

嫉妬や怒りを。

そばにいられる喜びを。








「2年間、これまで何してたんだ?」

好きで好きでたまらないと言った顔でサボが聞いた。
もう自分の気持ちに嘘をつく必要はなかった。
にこにことしているサボに、布団に突っ伏したナミは言った。

「ああ、空島で気候の勉強をしてたの。⋯⋯男しかいない島だったんだけどね。」

サボがガタガタとベッドから落ち、ナミが上から声をかける。

「大丈夫?」

「ん、別に。」

冷静を装うサボはシーツを腰に巻いて座った。

「案外やきもち焼きなのねぇ。」

「そんなことないですけど?」

「おじいちゃんばかりだったから心配することないのに。」

ナミが後ろからサボの胸板を揉んだ。

「⋯⋯ナミちゃん、何してんの?」

「落ち込んでる?」

「落ち込んではないよ。」

サボがナミの手を取ってシーツの上に倒れ込んだ。

「明日も明後日も、一緒にいられるんだよな?約束の日までは、俺と。」


サボの満面の笑顔なんて、初めて見た。

あ、なんか

可愛い。


「うん!」





互いを尊重し、想い合えば
どんな困難も乗り越えられる。

例え約束の日が来ても、しっかりと歩いて行ける。

自分の中には確かなものが。

相手の中にも確かなものがあると、知っているから。




『誰だ』

『笑わせるな』

『ごめん』

『ナミ』

『ずっと好きだった』


きっと初めて会った時から、変わらない確かなものが。









「愛してる。」

「私も。」




これから死ぬまでずっと。














End
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