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□誕生日の前の日に
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誕生日の前の日に












私の本当の誕生日は、誰にもわからない。
戦禍の中拾われた赤ん坊が私だったから。

それでも物心ついた時には、私の誕生日は7月3日だった。
毎年ベルメールさんとノジコ、ゲンさんが家に集まってお祝いをしてくれた。

小さい頃、ベルメールさんがみんなと話し合って誕生日を決めてくれたのだと言う。
まだ母は戦で負った怪我の治療をしていて、窓から海が見えたのだと。

その夏の海が、その日美しく波うっていたから。

ナミと言う名前を、そして毎年宝石のような思い出になる誕生日をくれた。

私にとって、特別じゃない訳がない一日。








「それで、どどどうする?ナミの誕生日が来るわ。最高の一日にしなくちゃ。」

「おう、ロビン。焦りすぎてキャラがスーパー崩壊してるぜ、落ち着け。」

「前のルフィの誕生日は楽だったよな。欲しいものって肉だし。」

「おまえ失敬だな!肉も食うし何でも食いたいぞおれは!」

「ナミに金をあげようにもこの船の財政はナミが握ってるし」

だから俺は手作りのアクセサリーケースを用意したとウソップが言う。

「みかんをあげようにもナミさんの畑がありますしね〜」

「シャンパンと...ピスタチオのケーキ...鴨のロースト...オレンジソース...この日の為にレシピを厳選して来たはずなのに決められない!もう全部作るぜ!」

「おれっ、飾り付けがんばるぞっ」

「それで、その本人はどこへ行ったんだよ。」


7月2日夜。
麦わらの一味はダイニングに顔を突き合わせて秘密裏に会議を行っていた。

毎日休む間も無く海を越えて行く船では随分と前から作戦が練られていたが、目まぐるしい航海の中あっという間に時は過ぎて、ナミの誕生日はもう明日に迫っていた。
まだ彼女が望むものが何なのか、彼は、聞き出せていないと言うのに。

「浴室では?今日は随分汗をかいたと言ってましたよ。ナミさん。」

「そうね。...ねえ、明日プレゼントを渡すタイミングはどうしたらいいと思う?朝がいいかしら、それとも夜?」

初めての女友達がどんなに楽しいものか教えてくれたあのコに、喜んでもらいたい。
絶対に失敗したくないとロビンは意気込む。

「オイオイおまえパーティー初心者かよ」

「物にもよるんじゃねぇかな。ロビンちゃんは何を用意したんだい?」

「靴よ。ルブタンというやつ。」

「おれは肉!半分もらうけど!!」

「おれはな、おれはな、調香して匂い袋を作ってみたぞっ!」


和気藹々と懇談するクルー達にゾロは息を吐いてダイニングを後にした。

やばい。
何も渡すもんがねぇ。

何も考えていなかった訳ではないのだ。
でも考えれば考えるほど、何が相手が喜ぶものかわからない。

そもそも、誕生日に相手に何かやろう、なんて、思わない。
ナミが相手じゃなければ。

それだけで勘弁...してくんねぇよな。

だって付き合ってもいない、ただ小さく胸に灯った暖かい火だけが育っているのが現状だ。

何もしないならしないまま、何かしたいならーーちゃんと言葉にしなければいけないことくらいは、わかっているのだが。


何となく、ミカン畑の方へ足が向いた。
青々と生い茂った葉が揺れるのが見える。
近くまで行って、はっとした。

そこにはオレンジ髪の女が木の方を向いて座っていて、傍らには酒。
グラスはナミの方に1つと、木の方に1つ。なみなみと注がれて。


ーー邪魔をしてはいけない気がした。

気配を感じられる前に、立ち退こうと思った。

「?だれ?」

ナミが振り返ってこちらを見た。
ゴツリと靴の音がしたのだ。

背後にはゾロがばつが悪そうに立っていて、ナミはその顔に笑ってしまう。

「何だ、ゾロか。」

「悪かったな、...邪魔して。」

申し訳なさそうな言葉に優しい含みがあるのを感じて、ナミは笑って視線を上げる。

「前夜祭してるのよ。」

ナミが話すので立ち退こうとした足を止めた。

「誕生日の前の日、次の日が楽しみで、眠れなくて、ノジコを起こしてベルメールさんに怒られて、結局3人で夜更かししてたわ。ベルメールさん、私たちにお酒を飲ましてくれたりして。楽しかったなあって、話してたの。」

今夜の月は明るい。話すナミの顔が照らされると、彼女自体が光って見えた。
幸せそうな顔だ。
なのにどこか寂しげで、消え入りそうな。
支えたいと思うのは、違う気がした。
ただ求めてくれるなら横に居てやりたいと思った。
話を聞くことくらいしかできないけど。

「...未成年に酒かよ」

「ふふ、そのおかげで強くなったんだから私。」

話してた。
返事がくることは永遠にないけれども。

「....ってことは、明日の予定も筒抜けか。」

「そうね、ダイニングでこそこそしてるから行かない方がいいと思って。」

にこにこ笑ったナミは足を引き寄せて抱えた。

「誕生日って、私だけのものじゃないなって思うのよ。ベルメールさんが私のお母さんになってくれた日なのかなって。本当の誕生日はわからないから、ベルメールさんが決めてくれた日。だから、何ていうか、つい話したくなったの。ベルメールさんとね。私は元気だよって。」

泣いてはいない。
なのに、笑っているのに、悲しそうに見える。

ナミは月を見て叶わない願いを口にした。


「....また、会えたらいいのに...」


ナミが欲しいものが、何を望んでいるかがわかった気がした。
金なんか。絢爛の財宝なんか。
ナミが好きなものを全部束にしたって、それには絶対に敵わない。


「...辛いか。」

「ううん。ただ、寂しいなって思うだけ。」

「...何か、してやりてぇけど。」

「言うようになったじゃない。」


先ほどの儚げな目と違って、少し力が宿る目でゾロを見た。
この顔が、ゾロは好きだ。
自信に満ちて、笑うナミの顔が。

「昔ね。」

少し俯いて言う。

「よく後ろから抱きしめてくれた。眠れない時、悲しいことがあった時、私が一人でいると、どこからともなく来てくれるの。それが嬉しかった。」

小さな肩。細い腕。髪は伸びた。色気にも磨きがかかった。
なのに、子供のよう。




「...おれでいいのかよ。」

「いいの。」




そう言われて、ゾロはナミを後ろから抱きしめた。
足を抱えて座る細い体を包んで、座った自分の足で挟む形になって。

そのまま月を見上げる。

神を信じてはいなくたって、魂は空の上にあるように感じるから。


ベルメールさん。
私幸せだよ。
大好きな人達に囲まれてるよ。
夢に近づいてるよ。
明日、一つ年をとるよ。




私を、あなたの子供にしてくれてありがとう。





誕生日。
いつもなら言わない感謝をみんなに。











「プレゼント、何くれるの?」

「おまえが欲しいもんやるよ。」

「じゃあ一緒にいて。ずっと。」

「...そんなんでいいのか?」

「うん。」

かわい過ぎだろ。殺す気か。
ゾロは思う。

「離れたいって言っても離してやらねぇからな。」

「そうなる前に愛想尽かされないようにしなさいよ。」


そうおどける笑顔が、好きだから。


「おまえが欲しい。」

「何でアンタがもらう側になってんのよ!」

スパーン!





麦わらの一味は今日も元気。









Happy birthday Nami


End

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