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□Deadman's hand 2
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デッドマンズハンド2
着いたのは町のはずれにある、建てかけて途中で止めてしまったと言ったような小屋で、所々屋根に穴が開いておりそこから夕日が射し込んでいた。
「私、戻らなきゃ...」
ナミが顔を両手で覆う。
「.......ルフィ.......」
埃っぽい木箱に腰掛け、呟いて頭を抱える。
「...とりあえず飲めよ。落ち着け。」
エースが洗っていないコップに水を入れて差し出した。
清潔な食器ではなかったが、一瞬に感じた三日三晩を休みなく飛ばされていたナミは、一気にそれを飲み干した。
心配なのはわかるが、ルフィはきっと死にはしないとエースは言った。
仲間を信じろとも。
ひとつ大きく息を吐いて呼吸を整える。
喉の渇きを癒してくれたことは落ち着きを取り戻すのに十分に効果があった。
「ありがとう...」
「ん。」
ナミが飲み干したコップを受け取ると、エースもそのコップに水を入れて飲む。
「エースは...あんたは、なんでここにいるの?」
暑く乾燥した島だった。
バナロ島と言うこの島は、砂漠地帯と僅かに人が住める平地が共存した峡谷だ。
バナナ岩と呼ばれる大きな岩は、その名の通り俯瞰するとバナナの形をしている。
多くの開拓者たちが入植して町づくりを行っており、発展を遂げているとは言い難いものの衣食に不自由しない程度の小さな町が存在した。
「前会った時も言ったろ。おれは重罪人を追ってる。そいつらはこの島の周辺にいて、きっとこの島に来る。それを張ってるんだ。」
エースの横顔が暗く翳る。
ナミは顔を傾けてその顔を見やった。
「そう...危なくないの?一人なんでしょ?」
「ははっ、おれを誰だと思ってんだよ。」
おどけて肩をすくませるエース。
「大海賊白ひげの船の二番隊隊長、火拳のエースよね?」
「なんだ、わかってるじゃねぇか。」
エースの顔がくしゃりと屈託ない笑顔になるので、ナミもつられて笑った。
「バロックワークスの艦隊を5隻ほどぶっ飛ばしてなかったかしら。あの時はびっくりしたわ。ルフィが、あんたには一度も勝ったことがないって言ってーー」
そうしてナミは言葉を切る。
ルフィや仲間を思い出して痛む胸をぎゅっと抑えた。
「....大丈夫よね。大丈夫。きっとみんな無事でいる。」
「そうさ。おまえみたいにこうやって飛ばされて、その先でそれぞれ仲間の元へ帰ろうとしてるさ。」
ナミは横目でエースを見て、大きくうなずく。
「そうよね。ありがとう、エース。」
神妙な表情が、少し優しい笑顔になった。
「エースがここにいてくれて良かった。」
どきり。
にっこりと笑いかけるナミの顔を見て、エースの目が丸くなった。
おいおい嘘だろ。
心臓が大きな音を立てたのに驚く。
この娘はルフィの船のクルーで、誰よりルフィの側にいて、つまりそれはルフィの女かもしれない訳で。
白ひげの海賊団でだって、同僚の女に手を付けるのはご法度だ。
ましてそれが弟なら余計に。
「きっと今頃、ルフィは腹が減ったとか言って何か食べてるわね。あ、でもあんまりお金持たせてないけど大丈夫かな。」
「大丈夫だろ。食い逃げはおれたちの十八番だからな。」
「やだ、それ自慢にならないから。」
くすくすと笑うナミにまた心臓が変に動く。
くそ。燃やしちまうぞ。
自分では気が付かぬうちに引きつった顔をしていたエースを覗き込んで、ナミが言った。
「ごめん、私緊張感なかったわね。」
「え?いや」
「でも安心した。私一人だったらどうなってたか。さっきも助けてくれたし」
「まさかナミだとは思わなかったよ。わかってたらもっとーー」
ーーカッコ良く助けてやれたのに。
何か思ったのと違う方向に、心が走り出したのを自覚する。
「そう?かっこよかったわよ。...普通に。」
きょとんとするナミに真っ赤になるエース。
やばい。
気づいちゃダメだ。そう思うのに。
自分はナミがすきなのかもしれない。とか。
心臓が速くなるのが止められなかった。
運命を怨んで生きて来て、兄弟に、白ひげに、仲間達に救われた。
生きていく為に必要な暖かい感情も全部、教えてもらった。
ーーでもこんな感情のことは聞いていない。
例えオヤジが知ったらグラグラと笑って喜んでくれることだとしても。
「エース、ちゃんと変装するから、町に行かない?お腹がペコペコなの。」
ナミが笑って言った。
店に行く道々、今後のことを話した。
エースの用事が済んだら、ルフィの元にナミを送ってくれると言う。
「ナミ!おれこれも食べたい!」
「また!?さっきこんなに買ったでしょ!?食費が持たないわ。我慢しなさい!」
「我慢かー...おれしたことないんだよな。」
「いい機会よ!コラ!売り物に触らない!」
すっかりとどこぞの船長に言うようにきつい口調になっているのをナミは自覚する。
だめだ、次何かねだられたら手が出る。
「ナミ!これも買おう!」
ボコン!
ずるずるずる....
きりがないので殴って引きずって店を出た。
夕焼けがバナナ岩を照らしていた。
砂埃が混じる乾いた風に、ナミがなびいた髪を手で梳いたその時。
「侵略者だーー!!!」
つん裂くような声が警告した。
「黒ひげが来たぞ!!!」
炎を引き裂く闇の襲来を。
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