novels2

□WAVE!
2ページ/21ページ

WAVE! 2







どうしよう。どんどん島から離れてる...!!


ナミはドキドキと波打ち出した胸を抑えながら周りを見渡した。

見かけだけなら民間の船に見える。
しかしこの船、造りが違う。
木製の船ではない。ある程度攻撃に耐え得る強度がある船体には、ナミが見たことのない武器が積まれていた。
大砲のように一口の銃口ではなく、複数の弾を一斉に放射できる構造。
大口の大砲も積まれているが、その側面はまるで襲われることを前提としたようなーー

すぐ上で物音がしたので、ナミはまた身を低くして隠れる。




「それでは皆さん、海上通商路の維持に努めて下さい。」

額に傷を持った精悍な男が、穏やかな物腰で言った。

「ハッ!コビー大佐!」

年の頃は若く筋肉も薄いが、優しく丁寧な彼は部下に慕われていた。
海軍本部大佐の彼は今任務も本隊の隊長を任されている。

「行きましょう、カイン船長。」

「ええ、参りましょう。」



ナミが上を伺いながら、聞き覚えのある名前にん?と耳をそばだてる。しかし外にそれどころではないことが起こって思わず海の方へ身を乗り出した。

この船を取り囲むように軍艦が4隻、追行していた。


(これで逃げ場もなくなったってわけね!)


このままでは小船で脱出した所ですぐに見つけられてお終いである。

こうしていても仕方がない。
海軍に捕まる訳にはいかないのだから、何かいい手がないかとナミは手近なドアの鍵をピッキングした。





「航行は順調のようですね。」


操舵室に入ったコビーがこの船の船長に声をかける。

商船の護衛任務には何度か着いたことがあったが、民間の船の船長がこんなに若いのは初めてだとコビーは思った。
そして、背が高く銀色の髪を持つ男は同性から見ても、かっこいいと言う感想を持つ。

「海軍のご協力感謝します。本来なら社長が言うべきなのでしょうが。」

名をカインと言うこの船の船長はやんわりと笑って言った。

宝石を運ぶこの船の所有者は東の海で会社を大きくしたやり手だ。
その直属の部下にして、この船を任されたカインは今回とんでもなく価値の高いブツを運ぶことになり戦々恐々している。

彼の言う"社長"は、つい最近政府の要職に就いたとコビーは聞いていた。

戦争孤児の支援や病院への寄付などの功績が認められ、更に製薬の事業でも成功し会社は政府が無視出来ないほどの規模になった。
政府と共に仕事をするうち、いつの間にか肩書きは増えて行った。

それが良いことなのか、悪いことなのかはわからないが。

「いえ、今お忙しい様子でしたから。その...ドフラミンゴ氏と、会談中ですよね?」

コビーが気遣わしげに言うと、カインはええと頷いた。

今回の取引にはドフラミンゴが絡んでいる。
万事独裁的な上司は部下が止めるのも聞かず護衛もなしに面会に応じてしまった。
遠い国で見つけ出された王妃の宝石を、天竜人に献上するつなぎをつけるなどと言ってわざわざ接触して来たのだ。
ーー何か裏がある。

カインは肩をすくめて応接室の方に視線を遣った。

マリージョアへ行く間に、面倒なことにならなければいいと思いながら。









ロッカーの中に海兵の服が一式入っていたことに、ナミはほっと胸を撫で下ろした。
手配書で顔が割れている以上、この抜群のスタイルとかわいい顔はどうしても隠さなければならなかった。

(不本意だけど)

シャボンディ諸島へ約束の日までに着かなければ。

(何言われるかわかったもんじゃないわ。ルフィとか、ゾロとか!)

ーー宝石に目が眩んで約束の時間に遅れました。
半月はちくちく言われること請け合いだ。強欲とか守銭奴とか遅刻魔とかとにかく。

胸をつぶして上着を羽織り、長い髪を括る。
帽子の中に目立つオレンジの髪はまとめて入れてしまい、露出の少ない格好をしていると自分ではないみたいだった。

(騒ぎを起こす...?でも軍艦4隻が混乱するような騒ぎって...)

2年の修行期間にそれなりの実力と自信は得た。
ナミは新しい武器を確認しながら思う。
空気の薄い空島にいたので体力もついた。

(とにかく、目立たないようにしなくちゃ。)

長い手足は隠し切れず、小顔でスタイルが良いことを除けばどこからどう見ても普通の海兵だとナミは自負する。
見つからないようにとこっそりドアから顔を出したのに、さっそく誰かに見つかってしまったけれども。

「おい!おまえはここで何をしてる!もうドフラミンゴ氏がお着きだぞ!」

「...はっ!し、失礼しました!」

大柄な海兵に言われて華奢な体が小動物のように飛び上がった。

「全く若い海兵はなっとらん。さっさとついて来い!」

甲板に出、隊列に加わって並ぶ。
くん、と潮の香りがする。

(ん?)

外の空気を吸うと、ナミにはこの後大きな風≠ェ来ることが予測できた。

気圧も下がっている。
大きな艦隊になっているので腕の立つ航海士も乗っているだろうから、すぐに風を避けるため方向転換の指示が来るだろう。

待つ事数分。

しかし、指示は来ない。


(...大丈夫なのかしら....大きな嵐になると思うけど...で、でも、言えないし)

確かに、上空の天気はそれほど崩れていないように見える。
しかしナミの肌はそれを感じる。
艦隊が混乱するほどの嵐が来る事を。

(あ...いいのか。そのスキに逃げちゃえば。)

上の空でぼやっと考え事をしているナミに鋭い声が飛んだ。

「次っ!おまえの名は!?」

「はっ、はいっ!ナ....ナミゾウですっ!」

「...ん?...変な名だな。」

知らぬ間に点呼を取っていたらしい。
ナミは深く追求されなかったことにほっと息を吐いた。

所属部隊もマリンコードも答えられない。
追求されればボロが出ることはわかっているので、出来るだけ目立つ行動は避けなければならなかった。

しかし。

(ちょっと〜!いつになったら舵を切るのよ!早くしないと間に合わな...)

「ではこの班はオーナーの護衛に当たれ。」

「「ハッ!」」

(ええ!?)

ナミは慌てて顔を上げる。
このまま針路を変えずに進むことの無謀さに気づいているのは、この場でただ一人だったからだ。

「お、お待ちください!」

思わず、口をついて言葉が出た。

「2時の方向に積雲群、大気安定度が低いと思われます!艦隊右翼を一部後退させ方向転換を進言します!」

「なんだおまえは...!?」

厳めしい男が顔を覗き込むのでナミは敬礼の姿勢を取りながらのけ反った。
しかし、時間がないのも事実。

「接触まで3分!このままでは人的被害が出ます!」

「立場もわきまえず上官に逆らう気か!?」

ガツン!
拳が振り上げられ骨に当たる音がした。


しかし、衝撃は割って入った男が受け止めた。
ナミの顔の前まで来た拳を誰かが手のひらで受けている。

「ちょっと、一体どうしたんですか。ラドリ中佐。」

「コビー大佐!?」

周りの海兵も騒つく中、コビーはナミを振り返って困ったように言った。

「君も...そんな嵐が来るとは思えないけど、どうしたんですか?海技士からは何の報告も来ていませんが...」

ナミはコビーの顔を見て目を丸くした。
見たことがある。ウォーターセブンで、ルフィの祖父と共にやって来た、

(ヤバい!この人ルフィの友達の!)

ナミはほぼ顔を隠すような形で敬礼した。

「ハッ、報告した右翼艦隊の通信が切れたため本隊指令部に伝わらなかった模様です!」

「なんで貴様がそんなことを知ってる!」

ラドリ中佐と呼ばれた男が訝しむ。

もっともらしい事を適当に言って誤魔化そうとしていたナミは言葉に詰まった。

「それは....」






「そいつは俺の抱えてる客だ。言ってることは正しいから従って船を動かしてくれ。」


男が部屋の中から声を掛けた。
それはこの船のオーナーである、緋色の髪を持つナイアと言う男だった。

(久しぶりだな、ナミ!)

(はぁ!?なんであんたがこんなとこに!?)










Next
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ