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□WAVE!
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WAVE! 4










「助けてやったんだから金を寄越せと言って来てます。」

「助けてやったんだから社長に会わせろと言って来てます。」



表に出たコビーとナイアはそれぞれの部下が要求する内容に辟易とした。
甲板からは、黄色い船が遠くぷかりと海に浮いているのが見える。
先程の嵐で転覆した船から流された物や人が、助けられたらしい。

悪名高い新世代の七武海、トラファルガー・ローの船に。


「わかったよ。俺が向こうに行けばいいんだろ。ドフラミンゴの後でな。あっちもまだ話がついてねぇ。」

緋い髪をかき上げてナイアがカインに双眼鏡を渡しながら言う。

「お金のことは僕の一存では決められませんし...本部に連絡するよう言ってください。」


コビーも部下にそう言い、その場は解散となった。


するとナミが船室から人目をはばかりながらナイアを手招きしている。

雑然とした物置き部屋には人の来る気配はなく、モップや雑巾や箒がまとめて置いてあるので埃っぽい臭いがした。


「久しぶりだなナミーー!」

「ちょっと!あんた何でこんな所にいるのよ!?」

泥棒時代、ナイアの船に盗みに入ったのはもう4年も前だ。
彼らを危険な目に合わせたことは心の凍った魔女になるきっかけになった。
助けを求めれば傷つける。
だから18の時出会ったルフィには辛く当たった。


全く変わらない、むしろもっと快活で眉目秀麗になったナイアにナミは動揺する。
苦しいくらいハグされるので息が出来ないせいもあるかもしれないが。

「えーと、かくかくしかじか。」

「全然わかんない。」

「いや〜よくあの胸を隠せたな。」

「セクハラやめて!」

胸を隠そうとすると帽子を取られたので、まとめ入れていた髪の束が落ちた。
すると、ナイアがびっくりとした顔をする。

「綺麗になったな。髪も伸びた。」

「.....ありがと、そうかもね!それで何でこの船に....正直助かったけど!」

ナイアがいなければ危ないところだった。
宝欲しさに安易に忍び込んだはいいが思いがけず出航してしまい、おまけにその船には海軍も乗っていて、今回ばかりはもうダメかと思った。捕まって終わりかと。

「“イルヤンカシュの涙”って言う首飾りを運んでる。天竜人に渡すために。本当はそんなことしたくねーけど、海軍も協力してくれてるし、色々事情があってな。」

ナイアの目が鋭くなるのは、まるで映画の中の俳優を見ているようだ。

「てかお前もバカだろ!なに、つい!とかで首飾り盗もうとしてんだよ!あと何で本名を名乗ろうとすんだよ!焦るだろ!」

「ち、違うわよ!ナミゾウって言おうとしたの!」

「いやいやいや!それ......バレるだろ!!」

ここは敵地なのだ。
目立たないようにいるべき場所に関わらず、ナミの行動は考えなしの一言に尽きる。

「私のことはいいのよ!ゆっくり話したいところだけど、あんた危ないわよ!ドフラミンゴとなんかヤバい取引してるの?私お金で買われそうになった!」

「は!?女だってバレたのか!?」

「バレた!私のことは、まだバレてないと思うけど!あんたの情報を流すってことになったの!」

「そっちかよ!てか俺ら声でかくないか!?」

「あんたのせいよ!」

部屋の外に足音が聞こえたので二人は声のトーンを落とす。

「お前....まさかこの船に乗ったのも首飾りを盗む為だとか言うんじゃないだろうな。天下のルセリトロ社から宝石を盗もうだなんて100万年早いんだよ。」

「そう。そのまさかよ。だって欲しかったんだもん。」

悪びれずに言うナミにナイアは項垂れて嘆息した。
麦わらの一味が離散したと言う噂は知っていたが、合流までの時間潰しで財宝を狙ってくるとは。

「あのなあ」

「本当にごめんなさい」

「とか言いながら俺の財布を盗ろうとするのやめてもらえるか。」

ナイアはナミの腕を制しながら考えた。

ーーードフラミンゴの狙いがわからない。
慈善事業をするような男ではないはずだ。

ナミは綺麗な男の横顔を窺う。



「お前さあ....仲間のとこに帰りたいんだよな?」

ナイアが考え込みながら言った。

「うん。」

「じゃあここから脱出する協力が必要だよな?」

「うん。」

「.......」

「....もちろん、協力してくれるわよね?」

「俺に何の得があるのかね。」

端正な顔の男が笑った。
ナイアは商人なのだ。相手の足元を見るし、得にならないことをしている時間など持ち合わせていない。
損をするようなことは、出来ないようになっている。

「...私が頼んでるのよ?」

この私が。
ナイアの愛は若いナミには受け止め切れないほどのものだった。
かつて深く愛されたけれど、自分のせいで危険に晒してしまった人。
愛するあまり自分を手放してくれた人。
それを思い返していると、ナイアが頭を掻いて言った。

「悪い、俺もう嫁さんもらっちまったんだよな。」

「えっ!?」

ナミはナイアを凝視した。

「まあそれはいいとして。脱出には協力してやる。その代わり」

目を丸くするナミの肩を叩く。

「ドフラミンゴの狙いを探り出してくれ。お前ならできるよな?」

「は....え?」

「どっちにしろ海軍とこの陣形で移動してる間は脱出は不可能だし。がんばれよ、俺のダイヤモンド。」

「俺のって...」

ナミがぶつくさと言うとナイアが笑った。



「嫁の話はウソだ。まだお前より愛せる女には出会えていない。残念ながらな。」

ナミの反応に満足そうに笑うナイアは部屋を出ようと扉に手をかけた。
振り返って、整った流し目で言う。


「じゃ、よろしく。」


即ち、これは取引である。













「このメーカーの探査船なら、動かせます。」

正体を隠したナミがカチャカチャと、小さな潜水艦のような船の操作盤を動かしながら言った。
ナイアと別れた後、コビーを探して合流したのだ。
海兵が申し訳無さそうに後ろでオロオロしている。

「すみません、探査機の担当者がさっきの嵐の飛来物に当たって重傷で...!」

「思ったよりも被害が出ていますね。どこも人手が足りなくて。」


そう言ってコビーが船に乗り込むと、目の前の床が開き、現れた海水に船がどぷりと浸かった。
これは海軍で用いているものと違い、民間の船なので海兵が動かすことができなかったのだ。

ちょうどサニー号のパドルシステムの中にあるサブシャーク号のような用途の船だ。
あちらはフランキーの作品なのでもっと操作性が独特だが。
とにかく運転できそうでよかった。


ナミはコビーを横にじっと見て考えた。

ーーこのまま逃げちゃおう。

正直首飾りの奪取は失敗したし、宝石のひとつも盗めなかったのは自分の矜持に反するが、この船にこのまま乗っているのはルフィ以上のトラブルに巻き込まれるのと同じだ。

ナイアとの約束も反故にすることになるが、それがなんだと言うのか。
ドフラミンゴに危ない目に遭わされるのもごめんだし、間で暗躍するのに報酬が脱出だけなんて、あの男もケチである。


でも、このコビーをどうやって丸め込もう。

海軍大佐ともなれば戦闘力ではかなわないだろうから、策が必要である。

「あの、ずっと見てますけど、何ですか....?」

コビーが気まずそうにこちらを見ていた。

「はっ、い、いえ、何でもありません。」

ナミは慌てて前に向き直る。
考えながらずっとコビーを見ていたらしい。
母船を離れて潜っているがまだ海中に淡く光が届いている。

「そ、そう言えば、所属はどちらですか?ナイアさんが政府の任務だと言っていましたが、海軍なのですよね?」

コビーが健気にも場を和まそうと質問した。

「あっ、あのそれは....!」

ナミが青ざめた。
何とか誤魔化さなくてはと思った時、突如目の前が真っ白になる。

(あ....あれ.....?気持ち悪い...)

ふっと意識が遠ざかった。

がたりと音を立てて運転席から転げ落ちようとするナミをコビーが抱きとめる。

「大丈夫ですかっ!?」

目を閉じてぐったりとするナミに声をかけるが返事はない。

コビーは窓の外を見る。
病気かもしれない。

ひとまず狭い船内に横たえた。
周りは海に囲まれている。

心細い密室の中でコビーは海軍の講習で習った救命措置を施そうと上着を脱ぐ。


「う....」

「大丈夫ですか!?」

「苦し....」

それを聞くとコビーは急いでナミの服に手をかけた。
ボタンを外していると上着のポケットから身分証が落ちる。

(ん...?彼の名前はダイヤモンドのはずなのに)

身分証に書かれているのは違う人物の名前だ。

コビーはボタンを外して前を開けた。
上着を取ると中にシャツがあり、そのボタンを開ける。

さらにさらしが巻かれていて、驚いたのはその中から海軍の広報誌が出てきたからだ。

つまりそれで体型を隠していた。
腰のくびれを埋めるように巻きつけて、雑誌が胸板のような役割を。


(こ、これは苦しいだろう、けど)



ーー抱きとめた時、軽いと思った。

いやそれ以上に、帽子の影から覗く瞳が大きく綺麗な人だと思っていた。

(女の人....っ)

コビーは真っ赤になって口元を覆う。

下着だけになったナミを必死で見ないようにしながらコビーは上に自分の上着をかけた。

帽子が取れて長い髪が広がる。
オレンジ色の、 鮮やかな。

コビーはその顔を見てはっとした。

この人を知っている。

(そんなまさか)


そもそも、わからないはずがなかった。
海軍の男なら誰しも、彼女に一度は憧れる。

(まさかルフィさんの)

腕を隙間からちらりと見た。
刺青がある。





「う.....あれ、私.....?」

ナミが意識を取り戻した。
状況が飲み込めず、ぼうっとする。

ふわふわと周りに視線をやると、何とも言えない様子のコビーと目が合って、はっとした。
目だけを動かして自分の体を見る。





「............ば、ばれた?」

「.........はい。」




真っ赤な顔の男が俯いた。











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