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□WAVE!
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WAVE!

6.ローを巻き込む





嵐で転覆した船の救助に、海の中から黄色い潜水艦が現れたらしい。
海へ投げ出された船員たちを確保し介抱した。
それは医療のスペシャリストたちが乗った潜水艦だったから。

「七武海のトラファルガーローですか」
カイン・アベルという商船の船長はふむ、と考え込んだ。
「お上に擦り寄るのも忘れないと言うわけだ」
ナイアが手すりに顎を置いている。(作者注・ナイアは外見がほぼナミゾウです)
ナミはどうしてるかな、逃げてねぇだろうなと視線を彷徨わせる。

ナミとコビーはルセリトロ社の船に戻ろうとしていたが、小さな探査船はトラファルガーローの船に回収されてしまった。
遭難していると思われたからである。

パカ、と開いた入り口から声がかけられる。
「大丈夫ですか〜?怪我人がいたら、キャプテンが診てくれるよ〜」

そう話したのは熊だった。
大きな白熊だ。
ナミはびっくりして海兵の服の前を合わせた。
もうサラシは巻いていないが、身分は隠した方がいいだろうと。

「すみませんが、あなたは?」
コビーが聞く。
「おれはベポ。ここは七武海のトラファルガーローの船だよ!嵐で投げ出された人を見つけたから救助活動をしてる」
「それは助かります。この人もさっき倒れて───」
ナミは要らんこと言うな!とジェスチャーしたのだが遅かった。
ナミは白クマに患者として連れられて行った。

倒れたんだって!とぽいっと部屋に入れられ、ナミは目の下のクマが酷い医者の前に座った。
白衣を腕まくりしたその男にはガッツリ刺青が入っており、黙ってこっちを見ている。七武海としてお助けポイントを稼がなくてはいけないのだ。

「あの、その⋯⋯」
何か少し、見た目からしてこの男は怖かった。

「わた、自分はもう治ったので他の人を」
「服を脱げ」

ナミはぐっ、と喉を詰まらせた。
「だ、大丈夫です。診て頂かなくて、結構ですから」

「そんな青い顔をして何を言ってる。倒れたんだろう」
「それは⋯⋯」
ナミは両手で胸を隠し、帽子の影で顔が見えないように俯いた。
今度は女海兵だと偽るしかない。
仕方がない、と思い切って服の前を開いた。

思わず見惚れてしまうほどの胸が現れた。
柔らかそうで、白くてすべすべの肌と健康そうな張りのある丸いものが突然目の前に現れたので、ローは少し後退りした。
女だったのか。
しかもオレンジの甘い香りがする。
潜水艦の船室はとても狭いので、息を吸い込むたびに心地よい匂いに包まれた。

「本当に体調が悪いわけじゃないんです。ただ、締め付けがキツかったのか、苦しかっただけで⋯⋯」

ローは甘い匂いにくらくらとしながら、ナミの顔に触れた。
キスをする時のようにこちらを向かせて、あっかんべをするように下まぶたをめくって色を見る。
次に、手を取って爪を精査する。
細い指が震えていた。
爪にも血色がない。貧血だろう。

「楽な服を着て鉄分を摂るように」
「え?」
「貧血だろうから、血流を良くしてヘモグロビンを増やすこと。あと体は冷やさないように」
「はい」
「お大事に」

怯えていたナミは首を傾げた。
怖い人かと思ったのに、そうではなかった。
ちゃんとした医療知識と、どこか労りを感じる物言いに、いい人だと感じたのだ。

「あの、ありが」
ナミがお礼を言おうと席を立った時、じゃらっ!とナミの懐から宝石が飛び出して来た。
これはイルヤンカシュの涙。
ドラゴンボールを7つ集めたのと同等のものだ。
この私が手ぶらで帰れると思いますか?
いいえ思いません。

「これは⋯⋯?」
ローがすかさずそれを拾った。
まじまじとその宝石を見る。
「…お前、何者だ。海兵じゃないな」

ローはいつでも攻撃できるようにroomを手の平に作っている。
ナミはローを知らなかった。どこかで見たことがある気がするが、どれほど強いのかわからない。

武器を構えた。2年の修行で自分も強くなっている。
宝石を取り返そうと、バチバチ音を鳴らしながら放電した。
が、気づけば手首から先がなくなっていた。

ローはナミの腕をとり、ベッドにうつ伏せに抑え付けた。
「うっ」
暴れて髪が解ける。豊かなオレンジにローはハッと気づいた。
これは泥棒猫ナミではないか。
麦わらの一味の航海士だ。

「お前⋯⋯」
「手首!!どうなってるの!?返して!!」
クリマタクトを握った手が床に落ちている。
ナミは押さえつけられながら真っ青になっていた。
ローはまた貧血になってしまうと思い、手首を引っ付けて返してやった。

「何よこれは!?」
「こっちがそれを聞きたい」
ローに背から押さえ付けられたまま、ナミは喚いていた。
「この宝石は世界じゅうで手に入れたいと思っているやつがいる。なんでお前がそれを持ってる。泥棒猫ナミ」
───バレてる!
ナミは必死にどこかで見た記憶を探りこの男を思い出した。情報は武器だからだ。
七武海の引き出しの中にそれはあった。
トラファルガー・ローだ!この2年で七武海入りした最悪の世代の!
ナミはすぐに嘘泣きをした。

「うっ、い、痛い!!」
ローの拘束が弱まったところで、腕から脱出した。宝石を持って逃げようとすると、一瞬で景色が変わった。
連れ戻されたナミはベッドの上に縫い止められていた。
両手首を押さえつけられ、仰向きに寝た上にローが覆いかぶさっていた。
膝の間に足を入れられた。もうだめだ。逃げられない。

「油断も隙もない奴だな」
「あんたこそ何よその謎能力は!」
「またバラバラにされたいか」
「嫌…どうしたら見逃してくれる?」
「逃げる気だな」
言い当てられて、見つめ合うと息がつまった。
ナミは顔を背けて覚悟を決めた。
バラバラにされる、と、ぎゅっと目をつぶった。
身分の保証も何もない自分はなにをされても文句は言えない。
体が勝手に震えていた。

ローはそれを見下ろして、ゆっくりと言った。
「何もしない。逃げずに話を聞け。質問に答えろ」
「⋯⋯うん」

ナミが顔を背けて目を瞑ったまま言った。

「なんであの宝石を持ってる」
「ルセリトロ社と、ドフラミンゴから、盗ってきました」
「宝石屋だな。ドフラミンゴの目的は知ってるか」
「知らない⋯⋯孤児院を作るために、天竜人に渡すって聞いたけど」
普通天竜人に目通りは叶わないので、ドフラミンゴが繋ぎをつけたと。
「ドフラミンゴは慈善事業をしようとしてるわけじゃない」

この宝石を喉から手が出るほど欲している人物がいる。
「カイドウにこれを渡す気だ。カイドウはこれに自死を願うだろう」
「カイドウって四皇の?」
ナミが恐る恐る目を開いた。

「これは願いを叶える宝石だ。あの男が天竜人に献上などするわけがない」
「なんでドフラミンゴがそうするってわかるの?」
ナミはローを見上げながら聞いた。
今にも犯されそうな体勢なのに、宝石の情報が気になった。
「⋯⋯おれはあいつを倒すために、情報を集めてた」

なぜこんなことをこんな女に話してる。
そうローは思った。
自分の根幹に関わる重大な秘密だ。
長年誰にも、仲間にも言わず蓋をして来た、胃の奥の煮えくりかえるような怒りが、それを利用するべきだと言っている。
この宝石を使えば、ドフラミンゴへの復讐が果たせる。
それどころか、自分で手を下すことなくドフラミンゴを殺せるのではないか。
イルヤンカシュの涙をもらえないと知ったカイドウはドフラミンゴに激怒するだろう。
期待を煽れば煽るほど、ドフラミンゴへの制裁は大きくなる。

「お前、その宝石をどうするつもりだ」
「⋯⋯何も」

潜水艇の中で、コビーになぜルセリトロ社が天竜人に宝石を献上しようとしているのか聞いた。
イーストブルーに孤児院や医療施設を作るためだ。
それは恵まれない子供たちや、弱いものを助けるために。
自分の快楽を優先してはいけないと思ったし、返そうと思った。
盗みの腕が超一流だということはわかったし、ローが七武海なら返すのも容易だ。

「返し、ます。私も戦争孤児だったから、子供たちが助かった方がいい。私は運が良く素晴らしい母に拾われたけど、そうでない子たちもいる。こうしてる間にも、助けを待ってる人がいるかもしれないもの」

ローは瞬き、少し優しい顔になった。
それは一瞬のことだったけれども、ナミは確信した。
この男はここで自分を犯すような男ではないと。

「私は仲間の元へ帰るから、あんた返しといてくれる?」
「なんでおれが」
「だって七武海なんでしょ?」
「おれはドフラミンゴを殺そうとしてるんだ。自分で返して来い」
「私はナイアに宝石を返したいだけ。ドフラミンゴにじゃない」
「けど、同じ船に乗ってるんだろう」

ローは言った。

「ドフラミンゴには何か裏があるはずだ。その為に宝石屋と手を組んでるだけ。天竜人などに渡さず、カイドウに渡すさ。それを邪魔したらどうなると思う。カイドウはカンカンに⋯⋯」

「話が見えて来た。ドフラミンゴは宝石を天竜人に渡すつもりはさらさらないのね。横取りしにきただけ。だからナイアへのスパイを私にもちかけたんだわ」

「⋯⋯そうか。待てよ」

ナミの手首の拘束が解けた。
何かを考え込むローを見ながら体を起こす。

「待て待て⋯⋯なるほど」
何を言っているのか、ローがぶつぶつ言うのをナミは黙って見ている。

「ドフラミンゴが宝石をカイドウに渡そうとするその時、その宝石がなくなったらどうなる」

「えっと、探す?」
「カイドウはドフラミンゴを殺すだろう」
ローはこれだ、という顔をした。
物騒だな、と思いながらナミはベッドに腰掛けて足をブラブラさせた。

「お前と一緒にルセリトロの船へ行く」
「え!?私は帰りたいんですけど!?」
「ドフラミンゴを信用させる。で、何を持ちかけられたって?」
「ルセリトロ社のもちものに興味があると言ってた。ナイアの情報を流せって⋯⋯」

ローはピンと来た顔で言った。
「製薬工場だ」
ルセリトロ社は宝石事業で成功を収め、製薬工場に多大な投資をした。
最新の設備、最新の科学。あのジェルマとも取引をしたというのだから驚きだ。

「ドフラミンゴはスマイルという薬を作ってる。量産体制を築きたい。だから世界一の工場を持つルセリトロ社に目をつけた。製薬工場を奪えばそれは容易になる」
「そんな、天竜人に孤児院を作る許可をもらうって話なのに」
「天竜人に宝石を渡そうという時、その宝石がなくなったらどうなる」
「天竜人がナイアを殺す⋯⋯!?」
「そうすれば製薬工場を簡単に奪える」
大変な話になってきた。
ナミは青い顔でローを見た。
「えっ、じゃあ、どうしよう!?」
ナミは宝石を爆弾のように体の遠くに持ち上げた。
「あの人、昔助けてくれた命の恩人なのよ。殺させる訳にいかないわ」

ローがムッとした顔をしたが、ナミはうろたえていた。
「だからおれも行くと言ってるだろう」
「おれもってことは、私も行くってことよね⋯⋯」
はぁ、なんて大変なことに巻き込まれてしまった。

「2人で戻るの?あんたのとこの仲間とかは」
2人では少し心許ないと思ってナミは言った。
「大切なクルーを危険に晒せるか」
「私はいいんかいっ」

「ドフラミンゴの打倒の為に利用はするが、宝石は最終的にルセリトロ社に返す」
「わかった。それなら手を組みましょう」

ナミは脱出とナイアの命を守るために手を差し出した。

2人はぱしっと手を握り合った。










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